ベック 『オディレイ』 デリリクト 歌詞考察

歌詞考察
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厳粛で瞑想的な曲“デリリクト”

ガムランの鉄琴、ハルモニウム、シタール、タブラのサウンドに彩られたエキゾチックな楽曲“デリリクト”

美しき奇形、おもちゃ箱的なアルバム『オディレイ』においてこの楽曲は異彩を放っている。どことなく厳粛で瞑想的な曲だ。

だけど、ただのエキゾチック趣味で終わらせるだけではなく、強力なドラム・ビートが重なってくることでモダンなポップソングとして仕上げるバランス感覚は、さすがベックという感じだ。

デリリクト 和訳

静まり返った夜中に 俺はイカリをおろした

荷造りしたスーツケースを 俺は放り出した

送り火の中で 俺は眠りに落ちた

服は警官にくれてやった

風よ ちゃんと吹け 怠けてないで

この魂を休ませてくれ(空気がもつれてる)

通りすがりの人にやつあたり

ハイジャッカーが空を縛りあげる

俺は紙袋の中に目をやる

ルーレットみたいにグルグル回ってる

風よ ちゃんと吹け 怠けてないで

この魂を休ませてくれ(空気がもつれてる)

Beck ODELAY DERELICT ベック オディレイ デリリクト 対訳 染谷和美

風よ ちゃんと吹け 怠けてないで

静まり返った夜中に 俺はイカリをおろした

荷造りしたスーツケースを 俺は放り出した

送り火の中で 俺は眠りに落ちた

服は警官にくれてやった

この曲のテーマはホーボー的放浪への憧れと現代文化の否定といったところか。冒頭の歌詞で、ベックは夜を固定する。そして持ち物を放り投げて野宿をする。

アメリカの大作家コーマック・マッカーシーの作品に『すべての美しい馬』という傑作小説があるんだけど、この曲と共鳴しているところがあるような気がする。この小説で少年たちは、ある大義のため文明を捨てて、火を熾し、狩りをして、野宿する。そして馬に乗ってメキシコを越境する……。この小説の面白いところは、舞台が百年前とかではなく高速道路やスーパーマーケットも存在する現代というところだ。そんな時代に放浪をする少年たちは無謀で滑稽ですらあるんだけど、ある種神聖で犯しがたい。この曲でも、ハイジャッカーが空を縛りあげるという現代の(自由・不自由さ)描写があるのがポイントだろう。

風よ ちゃんと吹け 怠けてないで

この歌詞は面白い。ボブ・ディランは「答えは風に吹かれている」とクールに歌い、ベックは「風よ ちゃんと吹け 怠けてないで」と歌う。ひねりが効いているというかひねくれているというか。

アレン・ギンズバーグはベックを「彼の世代を代表する声」と評したけれど、まさにそんな感じかも。ただブルースを演奏するだけじゃ足りない時代に突入したのが90年代の風だったんだろう。

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