60sの名曲をサンプリング
シンプルなフォークロック“ジャック・アス”のオリジナル・タイトルは“ミリウス”
この曲は、ヴァン・モリソンの“アストラル・ウィークス”と、ゼムのボブ・ディランカバー“イッツ・オール・オーヴァー・ナウ・ベイビー・ブルー”がサンプリングとして使用されている。
60年代の名曲をサンプルに使い、オディレイ的なポップ・センスをミックスさせて、ベックは穏やかに力強く歌っている。
ジャック・アス 和訳
相変わらずのボロぐつで 俺はさまよい続けてる
バラけていたものが 何となくつながってきた
もしも あんたの行く先が
謎と異教の地だと思うなら
なんとかしろよ 変わったご招待だけど
目を覚ませば
誰かがこの怠け癖を一掃してくれるだろう
そしたら一緒に ひんやりとした夜に起き上がろう
あんたの笑い方 覚えてるよ
あの頃は重力の足かせがきつかった
ところで 何かが足りない
たぶんこれから すべてが始まるんだろう
Beck ODELAY JACK-ASS ベック オディレイ ジャック・アス 対訳 染谷和美
たぶんこれから すべてが始まるんだろう
相変わらずのボロぐつで 俺はさまよい続けてる
バラけていたものが 何となくつながってきた
この歌詞を見て感じるのは“ジャック・アス”は『メロウ・ゴールド』と『オディレイ』を繋ぐ曲なんじゃないかということだ。
一本のオンボロなアコースティックギターと、頭に渦巻く莫大なアイデアを持ってキャリアをスタートさせたベックは『メロウ・ゴールド』から『オディレイ』でアーティストとして飛躍を遂げる。もしかしたら、Kレコードに在籍している「通」好みのアーティストになっていた可能性もあったと思うんだけど、時代を変えるゲーム・チェンジャーとして90年の顔になってしまった。
あの頃は重力の足かせがきつかった
4ドルのアルバイトをしながら、コーヒーハウスで誰も聴いていないブルースを演奏していた下積み時代を思わせる。貧困やオーディエンスの非理解はかなりベックを苦しめたはずだ。
たぶんこれから すべてが始まるんだろう
美しい予感を持ってこの曲は締めくくられる。
今まで懸命に取り組んできた音楽と、アイデアを具現化する術を手に入れたベックは、楽しそうに堂々と歌う。今やベックに重力の足かせはない。
“イッツ・オール・オーヴァー・ナウ・ベイビー・ブルー”でボブ・ディランは「センスを研ぎ澄ませ」と歌ったけれど、そのセンスを『オディレイ』では目一杯発揮している。
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