ベック/ザ・ゴールデン・エイジ 歌詞考察

歌詞考察
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ベック、敗北を鳴らす。タイムレスなサイケデリック・ブルース

ベックというアーティストについて語るのは凄く難しい。アルバム毎に見せるパーソナリティーが違うからだ。

ベックは”ルーザー”でセンセーショナルなデビューを飾るんだけど、当時のプロデューサーと本人にとって”ルーザー”は2,3時間で作った「遊び」みたいなもんだったらしい。録音したあと1年間放置していたというから驚きだ。

その、なんの思惑のないふざけたガラクタと語る”ルーザー”がラジオでヘビーローテーションで流され、ベックの人間像を誤解されながらヒットしていく。

“ルーザー”が社会現象になっていき「世代の代弁者」「スラッカー(怠け者)キング」と呼ばれるようになり、世間からは、ただの一発屋、奇をてらったセンセーションとして片付けられていってしまう。

王子様風のルックスも相まって、なんの苦労もなく若くしてシーンに出てきたと思われがちなベックだけど、少年時代はかなりきつかったみたいだ。祖父母も両親も、まともな教育は受けていない、そしてベック自身も高校を中退して、とにかく貧乏で手持ちの機材も乏しく(エレキギターを買ったのは20歳を過ぎてから)、アルバイトをしたり、ライブをしても無視され続けた。僕はこの街を憎みながら大きくなった、と語る。

その頃、僕は生きていくために、時給4ドルの仕事をしていた。ダウンタウンの路地裏にある家の物置で、ねずみと一緒に暮らしていたんだ。ヴィデオ屋でポルノ・ヴィデオをアルファベット順に並べる仕事を、最低賃金でやっていた。金もなければ、将来性もゼロ。自分のショーのビラさえ作れやしないんだから。

ベック・ハンセン ジュリアン・パラシオス著『ベック』 P109

相当、しんどい下積み時代だったと思うんだけど、窮乏生活を抜け出す地道な努力が実を結び、傑作を次々とリリースしていく。

ボヘミアン的芸術家の祖父アル・ハンセンの影響で“フルクサス”のマインドを持ったベックは、ありとあらゆるテーマを交差させてつなぎ合わせ、デビュー後からあらゆる音楽の要素をミックスした作品を作っていく。フォーク、ブルース、ノイズ、ロック、ファンク、黒人音楽や、トロピカリア、ボサノヴァ、ソウル……。傑作アルバム『オディレイ』や、ノイズとフォークとオルタナティブなローファイ作品の『メロウ・ゴールド』、ソウルやファンクをベックスタイルで表現した『ミッドナイト・ヴァルチャーズ』

ただ、ベックにとってのルーツ、少年時代のベックを捉えた物はフォークでありブルースだった。

僕は音楽にもっと偽りのないなにかを求めていた。85年というのは、人工的なシンセポップが全盛で、個性もなければカリスマ性もない、ドラムマシーンがやたらとのさばっていた時代さ。物欲と実利主義が、音楽にまで影響を及ぼしていた。

そんな時にブルースと出会って、そうだ、これが僕の求めていたものだって確信したんだ。

ベック・ハンセン ジュリアン・パラシオス著『ベック』 P73

両手をハンドルに置いてゴールデン・エイジを始めよう

2002年、とうとうベックのルーツミュージックをベックのスタイルで掘り下げた大傑作アルバム『シー・チェンジ』がリリースされる。

ただのアコースティックものと違うのは、プロデューサーにレディオヘッドとの仕事で知られるナイジェル・ゴッドリッチを起用したことにより、音が緻密で現代的なところ。

そして、この作品にはどこか飄々として人を食ったようなベックではなく、深く自分自身を表現しているベックがいる。

Beck The Golden Age

ザ・ゴールデン・エイジ 和訳

The Golden Age

Put your hands on the wheel

両手をハンドルに置いて

Let the golden age begin

ゴールデン・エイジを始めよう

Let the window down

窓を下ろして

Feel the moonlight on your skin

月の光をその肌に感じるんだ

Let the desert wind

砂漠の風が

Cool your aching head

ズキズキ痛む頭を冷やしてくれるし

Let the weight of the world

この世界の重みを

Drift away instead

代わりにどこかへさらっていってくれる

Ohh, these day I barely get by

近頃はどうにか毎日をやり過ごしている

I don’t even try

頑張ってみようなんて思いもしない

It’s a treacherous road

荒れた道

With a desolated view

殺伐とした景色

There’s distant lights

向こうには遥かに灯りがかたまって見えるけど

But here they’re far and few

ここにはとてもまばらで数もないし

And the sun don’t shine Even when its day

昼間でも太陽は輝かない

You gotta drive all night Just to feel like you’re ok

もう大丈夫だって気分を手に入れるためだけにさえ一晩中車を飛ばさなきゃ

Ohh, these days I barely get by

近頃はどうにか毎日をやり過ごしている

I don’t even try

頑張ってみようなんて思いもしない

I don’t even try

頑張ってみようなんて思いもしない

ベック ザ・ゴールデン・エイジ 対訳:田村 亜紀

頑張ってみようなんて思いもしない

ブルースというのは、孤独や悲しみブルー(憂鬱)を鳴らす音楽だ

この曲は、カリフォルニアの砂漠の風景を、限りない風景の中を、一人の青年が傷み、傷ついている風景が描き出されている。「ゴールデン・エイジを始めよう」という諦めのようにつぶやく言葉が胸に刺さる。

この情景は誰にでも経験のある「敗北」だ。

時代の寵児のベックが、敗北を鳴らしている。この音楽は、ベックが愛したウディ・ガスリーやミシシッピ・ジョンハート達、ブルースの巨人と呼ばれる人たちと肩を並べたタイムレスなブルースの金字塔、誰もが勝ち続けることはできない、愛も失うかもしれない、そんな時にそばで一緒の時間を過ごしてくれる偉大な作品なんだ。

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