ギ・ド・モーパッサン/女の一生 ブックレビュー

レビュー/雑記
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思い通りにコントロールすることはできない。それが『人生』

文豪モーパッサンが書いた『女の一生』の原題は『Une vie』、直訳すると『人生』。人生を意味するvieが女性名詞(すごいよね)なので、『女の一生』と訳されている。
意訳ではあるけど、ぴったりなタイトルだ。だって、ここには主人公ジャンヌを中心とした女たちの一生が描かれているんだもの。

修道院を出たばかりの、世間知らずのお嬢様ジャンヌは、人生に対して胸をときめかせている。日めくりに印をつけて、新しい時がやってくるのを今か今かと待っている。蝶よ花よと育てられたジャンヌは、活発で、可憐で、純粋ゆえの無知さがある。


ジャンヌは期待する。恋に、結婚に、出産や育児に、つまり人生に。そのすべてに裏切られたジャンヌは、老婆となり、過去を想って寂しい時を過ごす。


この小説に出てくる女たちは、基本的に純粋で、善良。男たちは利己的で、悪。それが「人生」ということなのか? 

ジャンヌの女中として仕えるロザリは、ジャンヌの夫ジュリヤンに望まない妊娠をさせられ、物語から退場するのだが、やがて再登場し、終生の友となる。
ジャンヌの叔母であるリゾンは、地味な女性で、生涯恋をすることなく、人に尽くすことに生きがいを見出そうとするが、誰からも気にかけられることなく生涯を終える。
ジャンヌの夫ジュリヤンは、利己的でケチで美青年の女好き。この男はある意味、相応しい最後を迎えることになる。


ジャンヌの息子ポールは、絵に描いたような放蕩息子で、母親に連絡をするのは金の無心だけ。
出てくる登場人物すべてが「あちゃー」って感じなんだけど、それは俺たちが「外」から見てるからなのかもしれない。人生の「中」にいたら、俺たちだってそりゃミスるさ。


純粋ゆえに騙されたり、利己的さを発揮したら手痛いしっぺ返しをくらったり、愛を裏切れば、裏切られたり……。人生を思い通りにコントロールすることはできないんだ。


物語のラストのほうで、老婆になったジャンヌが、今や人の所有になってしまった家に行くことになり、(元)自室から海を眺めるシーンが出てくるんだけど、これにはグッときたな。
老婆ジャンヌが、過去の、活動的で、恐れ知らずで、人生に焦がれていた時代の少女ジャンヌに出会うんだ。昔つけていた日めくりが出てきたりしてさ。変わらないのはノルマンディの風景だけ。
このシーンに辿り着いたときは震えたな。


傑作は年を取らない。ネタバレもなんのその。あらすじを知っていたって、この小説の価値はひとつも減じないからご安心を。


それにしても、徹底的に客観で書くモーパッサンの筆致には舌を巻くね。登場人物の誰にも肩入れしていないんだ。
面白いよ。みんなの〝人生〟のように。

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