ラジカルな態度としてのハウスハズバンド
ジョン・レノン、空白の5年間と呼ばれる1975年から1980年、ジョン・レノンは何をしていたか、というと主夫をしていた。
もちろん、作曲なんかもしていたわけなんだけど、基本的には主夫。今でこそ、奥さんが外で働いて、旦那さんが家で家事をするなんてのも、まあ、あり得る話だよね、って感じだけど、当時はまだ、男が家を出て働いて、奥さんは家にいてっていうスタイルが当たり前だったから、このジョン・レノンのセミリタイヤに近い主夫転向に世間はかなり驚いたはずだ。
奥さんのオノ・ヨーコは前衛芸術集団のフルクサスに在籍していた人だったから、ずいぶん先進的なカップルだったわけだ。
当時のロックンローラーは、フェミニズム? 何それ? 食えんの? 状態だったから、マッチョでラジカルだったジョン・レノンが、“女は世界の奴隷か”を発表したり(男性アーティストが発表した初めてのフェミニズムソングらしい)、1980年の復帰作『ダブル・ファンタジー』では“ウーマン”を発表したり、オノ・ヨーコの影響がかなり強かったんだなぁ、と思う。
オノ・ヨーコは『ジョン・レノン愛の遺言 (1981年) 』で、「ジョンが主夫をしている、と宣言したのは凄く勇気のいることだった」と話している。どういうことかというと、男で、ロックンローラーとして曲を書くのはとても簡単なことで、女を放り出したり、酒を飲んで酔っ払ったらそれでいいんだから、というようなことを言っている。
だから、ジョン・レノンの主夫業転向はかなりラジカルな態度だということがわかる……!!
もちろん、その態度に世間やインタビュアーは、ジョン・レノンは狂ったのか、と思われるのだが……
それに対するアンサーがこの“ウォッチング・ザ・ホイールズ”なんだ。
ウォッチング・ザ・ホイールズ 和訳
People say I’m crazy doing what I’m doing
こんなことをやっている僕を狂っていると人は言う
Well they give me all kinds of warnings to save me from ruin
僕を破滅から救うために、あらゆる忠告をしてくれる
When I say that I’m okay they look at me kind of strange
僕が大丈夫さって言うと、彼らは僕を変な風に見る
Surely you’re not happy now you no longer play the game
「ゲームから降りた今、君が幸せなはずないだろ?」
People say I’m lazy dreaming my life away
夢の中で人生を費やしている僕を怠け者だと人は言う
Well they give me all kinds of advice designed to enlighten me
僕を啓蒙するためのあらゆるアドヴァイスをしてくれる
When I tell that I’m doing fine watching shadows on the wall
元気だよ、壁に映る影を見てるだけさ、と僕は彼らに言う
Don’t you miss the big time boy you’re no longer on the ball
「スター時代が恋しくないのかい? 君はもう過去の人なんだぜ?」
I’m just sitting here watching the wheels go round and round
僕はただここに座って車輪を回しているだけ
I really love to watch them roll
ただ転がるのを見るのが好きなんだ
No longer riding on the merry-go-round
メリーゴーラウンドからは降りたのさ
I just had to let it go
もう手放さなきゃならないのさ
People asking questions lost in confusion
困惑しながら質問をしてくる連中
Well I tell them there’s no problem Only solutions
問題なんかないよ、あるのは解決法だけさと僕は言う
Well they shake their heads and they look at me As if I’ve lost my mind
彼らは首を振って、まるで僕の気がふれたかのように見る
I tell them there’s no hurry
急ぐ必要なんかないと僕は彼らに言う
I’m just sitting here doing time
僕はただここに座って時間を費やしているだけさ
I’m just sitting here watching the wheels go round and round
僕はただここに座って車輪が回るのを見ているだけ
I really love to watch them roll
ただ転がるのを見るのが好きなんだ
No longer riding on the merry-go-round
メリーゴーラウンドからは降りたのさ
I just had to let it go
もう手放さなきゃならないのさ
watching the wheels John Lennon 対訳:ザ・ビートルズ・クラブ
メリーゴーラウンドからは降りたのさ
アーティストはアートを作り続けるもの、それは義務か? 答えはノー、だよね。
義務になってしまったら、それはもはや機械と変わらない。契約にしたがって年に決められた作品を発表する。それが終わったらツアー。そしてレコーディング。タイムカードを押しているようだ、と言ったカート・コバーンは天国に行った。ジョン・レノンは主夫になった。つまり、自分を取り戻すためにメリーゴーラウンドから降りた。
アーティストは特権的な人間かもしれない。だけど、同じ人間なんだ。
夢の中で人生を費やしている僕を怠け者だと人は言う
僕を啓蒙するためのあらゆるアドヴァイスをしてくれる
ジョン・レノンのような天才にもアドヴァイスをしてくるようなやつがいるらしい。クソヴァイスってやつなんだけど、どの時代にもこういったのはあるんだ。
この曲を聴くと、本当に必要なアドヴァイスは自分の声、そして愛するものからの声だということを教えてくれる。

コメント
先月早期退職したんです。定年まで2~3年あったんですが…。
確かこの曲の歌詞が今ぴったりするはずと思い、確認のため調べてました。
歌詞、感動しました。
三橋様
この記事の著書の我妻です。
コメントありがとうございます!
いわゆる「世間」というものはけっこううんざりすることが多いですよね。
ジョン・レノンはその「世間」に迎合せず、ソロになってからは自分の内面に降りていったのかなぁ、と感じます。ビートルズで、対外的なことは全部やっちまったぜ!といった感じで。
三橋さんは、これから自由ですね!
会社やしがらみから離れてのびのびと楽しみましょう!!