エッセイ 『夜が明ける』 小日向ジュンコ

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『夜が明ける』

私たちは外で会うことのできない関係だった。
その他大勢の、ひとりとひとり。

とりとめもない会話をしながら食事をし、酒を飲む。ただそれだけ。興味もない会話に張り付いた笑顔でやり過ごし、手持ち無沙汰で飲みすぎる。けれど、気づいてしまった、あの人の気持ち。私自身の気持ちも。

あの日の、ふたりで語る言葉は本物のにおい。気がつけば、長い時間を過ごしていた。

外は新しい日の光がうまれようとしていて、そのうす紅い空をバックに呪いの歌をやめた柏葉紫陽花が正気を取り戻そうとしていた。

初めて二人で迎えた朝の、あの庭の色は一生忘れないだろう。


私たちはいわゆるママ友で、子供が幼いうちは外に飲みには行けない立場だったし、お互いがまだ様子を伺うような、そんな、かんじ。

どこかの家に集まって、どうでもいい会話をしながら、ワインを飲み、持ち寄りの料理をつつく。誰ぞの噂話とか興味なくて、慣れない相手の前では食べるのが苦手だから、飲みすぎてしまう。

だが、我が家に集まったある日、気づいてしまったのだ、あの人と私が酒豪であることに。気づいてしまったのだ、もっと腹を割って話したい、シモネッタだってOKだぜってことに。

私と彼女はしたたか飲んで、笑うわ泣くわ楽しく過ごしていたのに気がつくと二人だけになっていて、そして夜も逃げかかっていた。

我が家のワイルドすぎるガーデンには、源氏物語の登場人物の名をつけた花たちが好き勝手に咲いているのだけど、波打つように咲き誇る六条御息所と名付けた柏葉紫陽花が、生まれたばかりの朝日を浴びていた。

二人で見た朝焼けと、輝く紫陽花のことは今でも語り草だ。
そしてこれが、Mキングとの付き合いのはじまりである。

小日向ジュンコ

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