小説 『ある朝の風景 2』 深墨けいく

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ある朝の風景②

 体に抱えていたはずの、あなたの熱は遠の昔に冷えてしまっている。

 季節の移ろいとともに、あんなにも早い時間から姿を現していた太陽は、今のこの時期、私が起きなくてはならない時間になっても現れない。

 夏の間は目覚める前からうっすら差し込む、だけれども、確実に力を宿した強力な光が、瞼の裏で煩いほどに、ゆらゆらと踊るので、体が起きるよりも先にいつの間にか脳が覚醒してしまう。

 しかし夏至が過ぎ、秋も深まり、冬の気配が訪れた今は、太陽はその力をすっかりと放棄してしまったようだ。

「いや、違うか。」

 ため息と共に思わず、口から飛び出した。

 私のいる場所が、「いま」「そういう場所」であるというだけで、別に太陽の力が弱くなったわけじゃない。

 ただそれだけのこと。

 夏から冬になっただけだ。

 さっき水を飲みに来た時よりも、ずっと朝の気配が近いのだとすぐにわかる。

 それでも未だ十分に暗い室内を、ベッドから抜け出してキッチンへ向かった。

 そんな時、いつもふと頭の中をよぎっていくことがある。

 彼から与えられた熱と呼吸は、私にとって一体どんな意味があるのだろうか、ということ。

 そもそも、「それ」は果たして意味を成すことがあるのだろうか?

 私は何も生み出さない。

 ただ消費するだけだ。

 生産性のないことばかりをして生きてきたような気がするけれど、何のことか私自身がそもそも生産性のない人間だったのだと考えついた。

「よくできた世の中だ」

 皮肉めいた冗談でさえ、こんなにも簡単に口から出てきてしまう。誰の気持ちを癒すことなく、欲しい状況や望みを手に入れることができない残酷な現実にただ泣き喚くだけの子どもと同じだ。受け入れなければならないことを、受け入れることができない私自身を露呈するに等しい行為とも言える。

 わたしは彼の熱と息と、そして愛情を貪り消費しているだけだ。そして、わたしは私自身でさえもいつか完全に消費し尽くしてしまうだろう。

 しあわせな波を泳いだ小さくかわいいスイミーは、朝を迎えてただの醜い女になる。

深墨けいく

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