村山由佳/Row&Row ロウ・アンド・ロウ ブックレビュー

レビュー/雑記
スポンサーリンク
スポンサーリンク

書店員がおくる世界最速レビュー#5 村山由佳『Row&Row ロウ・アンド・ロウ』

2023年3月20日月曜日ごろ、村山由佳新刊小説『Row&Row ロウ・アンド・ロウ』が発売されます。

「世界最速レビュー」シリーズとは、発売日まもなく書店員がその小説の見どころをたっぷりお伝えする連載です。

村山由佳『Row&Row ロウ・アンド・ロウ』

漕げよ、漕げ(ロウ・アンド・ロウ)、
あなたの舟をーー

夫婦の歪みと「再生」を高解像度で描く、デビュー30年にして到達した恋愛文学の極致。

東京の広告代理店に勤める43歳の涼子は、3歳年下で美容師の夫・孝之と結婚して13年。毎日の生活にうっすら不満を抱えつつ、表面的には凪いだ日々を送っていた。ところが、20代の美登利を美容院のアシスタントとして招き入れたことで少しずつゆらぎが生まれて……。気づかぬうちに”深い川”に隔てられた二人は再び漕ぎ寄ることができるのか? 夫婦、そして、男と女の心理を細密に描き出した傑作長編。週刊誌「サンデー毎日」の人気連載がついに単行本化!

Row&Row
村山 由佳 毎日新聞出版

夫と妻の13年

『Row&Row ロウ・アンド・ロウ』は、自宅の1階で開業している美容師の夫・孝之と、外でバリバリ働く仕事のできる妻・涼子の夫婦生活を切り取った物語です。

この夫婦は格差夫婦なのか否か?

ふたりは再び仲睦まじい夫婦生活を取り戻すことができるのでしょうか。

できる女・涼子

『Row&Row ロウ・アンド・ロウ』は涼子が休日にひとり自宅で過ごしているシーンから始まります、

ゆっくりお茶を淹れ、心を休める姿を「いい休日」だと感じながら読みました。

ですが、これは「自宅の中でも孤独な女性」の姿なのだと、読後に分かることとなります。

涼子が会社で一生懸命働くシーンがとても多いこの小説『Row&Row ロウ・アンド・ロウ』。

彼女の人生に、仕事はなくてはならないのだと感じます。

涼子がとてもできる人で、評価されている人だと何度も読み取ることができます。

職場での和やかな信頼関係。

このような任されている実感と、大切にされている安心感を覚えられるような環境。

涼子はそのような家庭環境が欲しかったのだろうなと思います。

やさしい男・孝之

夫の孝之は、よく気がつき、とても優しくて、理想の夫に見えます。

妻の涼子と比べると鈍い部分を本人も感じているのかもしれません。

けれど、妻のことを「いつも正しい」と感じ、アドバイスを素直に受け取る姿勢が好ましく感じました。

美容師として腕が一流の孝之。

たとえ、美容師の仕事のことで妻に何か言われても「お前は美容師でないからわからない」とは言わないのです。

むしろ妻に、お客さんの女性的目線をアドバイスしてもらうような姿を見せています。

それはできる妻を尊敬し、尊重している証拠ではないでしょうか。

そこにないものの話ができない相手

「そこにないものの話ができない相手ってのは、しんどいよ」

涼子と、職場の上司との会話の中で登場する一言です。

これは、実は私もとても感じることした。

考えたり、掘り下げたり、小説の世界にうっとりしたりするのがすきです。

その思いを、誰かに聞いて欲しくてたまらない時があります。

けれど、私と親しいからといって周りの人が頭の中を話してくれるわけではありません。

とくに、嫌なことや疲れたことなど、いわゆる「愚痴」ばかりが飛び出してくる相手は苦手で、疲れてしまいます。

嫌で疲れた「結果」よりも、そこから見えることがあるのならばそれを話してほしいと思います。

私は親しい大切な人にこそ、自分の中の話を聞いてほしいのにと思っているようです。

私のいう「自分の中の話」が、涼子たちの「そこにないものの話」にあたるような気がしました。

この辺りから、涼子は夫へ疑問を抱き始めるようになります。

理想の家庭像は「個人の自由」であるべき

涼子の強さを素晴らしいと感じながらも、強く正しすぎる彼女はきっと生きづらいのだろうなと。

そしてその夫である孝之も、立場が苦しい時は多いのだろうなと感じました。

必ずしも男性が強くて力がないと、仲良くしていくのは難しいのでしょうか。

男女の力関係は、テンプレートでないとうまくいかないのでしょうか。

日本では昔から、女性の方が歳が下という婚姻が好まれてきたように思います。

そして、外で働いてきた男性を、家で精一杯労うのが女性の仕事という風潮があったようにも思います。

少しずつ変化している時代の色は確かにあります。

けれど、本質的に異性に求めたいものがあるのもまた、当然なことなのかもしれません。

時代の色に好みを変えられる必要はありません。

それこそ理想の家庭像は「個人の自由」であるはずです。

ですが、それを人前で口にした途端、「個人の自由」は「ハラスメント」や「差別」となります。

「ハラスメント」「差別」の浸透が失ったものとは

何を言っても「ハラスメント」や「差別」と取られかねない時代です。

法律や規律により、強引に引かれた線が確かに存在します。

「ハラスメント」「差別」の浸透により、ほんとうに尊重すべき自分や相手の「心」をきちんと見つめることができなくなってしまっているのではないでしょうか。

決まりを守ることよりもずっと大切なこと。

それは、自分や相手の「心」を尊重することのはずではないでしょうか。

その点、『Row&Row ロウ・アンド・ロウ』では、自分や相手の「心」を尊重するプロフェッショナルたちが登場します。

相手の顔色だけでその人の不調を見抜くことができる人がたくさんいます。

三谷や、黒田部長、美登利もそうでしょうか。

「なんて顔をしているの」と、声を掛けたり掛けられたりする経験は、あなたにどれだけありますか。

私は『Row&Row ロウ・アンド・ロウ』に登場する、自分や相手の「心」を尊重するプロフェッショナルたちをほんとうに素晴らしいなと感じました。

これこそ気遣いであり、現代人が必要としている思いやりだと思いました。

私自身ももっと、人の顔を見て状況を察してあげられるようになりたいです。

相手がつらいと言えないときに、気がついてあげられるほどに。

大切な人たちを、よく見ていたいと感じました。

規律や法律ではなくて、スマホ越しにブログや呟きではなくて。

我々はもっと、相手を見るべきなのです。

文:東 莉央

東 莉央

コメント

タイトルとURLをコピーしました