ニルヴァーナ 『イン・ユーテロ』 レイプ・ミー 歌詞考察

歌詞考察
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MTVアワードで演奏禁止

「レイプしてくれ」とあけすけに歌うこの曲は、前作『ネヴァーマインド』期にすでに存在していた。

歌詞のテーマは“ポーリー”からの返答といったようなもので、レイプの加害者目線で歌った”ポーリー”に対して、こちらは被害者目線で歌っている。

イントロを聴くとどこか“スメルズ・ライク・ティーン・スピリット”っぽく聴こえる。それは『ネヴァーマインド』のミキシング・セッションの最中にスメルズ・ライク・ティーン・スピリットのコードを崩してアコギで遊んでいたときにひらめいた曲だからかもしれない。

カート・コバーンはこの曲について「基本的に、俺は女性を支援する曲を書こうとしていて、レイプ問題を取り上げたんだ」と『ローリング・ストーン』誌に語っている。

どれだけ、あからさまにすればこの問題にみんなが気づいてくれるのか? そう思ったカートはタイトルを“レイプ・ミー”にすることに決めた。すでに有名になっていたバンドの知名度を利用してわかりやすいタイトルにしたってことだね。

さて、この”レイプ・ミー” タイトルのせいでいろいろな問題が起きる。

1992年9月のMTVアワードで演奏禁止

大型チェーン店のKマートとウォル・マートで『イン・ユーテロ』陳列禁止

あちゃーな出来事だけど、MTVアワードではしれっと”レイプ・ミー”のイントロを弾くという嫌がらせをすることは忘れない。さすがである(本番では妥協して”リチウム”を演奏した)。

Nirvana – Rape Me (Live And Loud, Seattle / 1993)

レイプ・ミー 和訳

俺を犯しておくれ なあ あんた

もう一度犯しておくれ

俺一人しかいないってわけじゃない

俺を憎んでおくれ

何度でも繰り返しやっておくれ

俺をとことんやっつけろよ

俺をたっぷりと味わっておくれ

なあ あんた

俺の秘蔵の内部の情報源

おまえの剥き出しの傷口にキスしてやろう

心配してくれて感謝してるよ

おまえはいつだっていやな臭いをたてて燃えているはず

ニルヴァーナ 『イン・ユーテロ』”レイプ・ミー” 対訳:中川五郎

俺一人しかいないってわけじゃない

この曲、出発点は女性を支援するために書いた曲なんだけど、完成してカートが歌うと「それだけじゃない」ように聴こえてくる。

俺を犯しておくれ なあ あんた

もう一度犯しておくれ

俺一人しかいないってわけじゃない

俺を憎んでおくれ

何度でも繰り返しやっておくれ

俺をとことんやっつけろよ

俺をたっぷりと味わっておくれ

こうやって読むと、容赦ないメディアの攻撃にうんざりしきって疲れたカートの叫びに聴こえてくる。スターやフェイマスに日常はない。飢えたメディアはいつでも噛みつこうと待ち構えている。「レイプ」というのは自由を奪うことだ。そういう意味ではカートは四方からレイプされていたといえる。

俺一人しかいないってわけじゃない

この一節は被害にあっているスターは俺だけってわけじゃないという訴えなのかな。傷ついているのは俺だけじゃないんだっていう。

カートはカルマを信じていた。下種野郎はそれ相応の目にあうんだ、と。だから悪意を持った加害者は、いつだっていやな臭いをたてて燃えているはずと歌ったんだろう。

『インセスティサイド』のライナーノーツで「もし同性愛者、肌の色が違う人間、女性を何らかのかたちで嫌っている人がいるならば、頼みがある。俺たちのバンドには関わるな!ライブにも来るな。作品も買うな」とカートは書いている。

カートは常に弱者の側に立つ。

大きすぎる才能を持っていながら、大きすぎる名声を得ることはカートにとってあまりにも重荷だった。カートを殺したのはカートの弱さかもしれないけれど、無感覚な強者に囲まれていなかったら、最悪の結果にならず、今でもカートは皮肉とユーモアを発散させてにっこり笑っていたかもしれない。

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