ニルヴァーナ 『イン・ユーテロ』 セントレス・アプレンティス 歌詞考察

歌詞考察
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パトリック・ジュースキント『香水』がインスピレーション源

キャサリン・ダン、スーザン・ファルーディ、ウィリアム・バロウズ……『イン・ユーテロ』でスペシャル・サンクスを捧げられた作家たちである。

カート・コバーンはパンクであり読書家だった。

この“セントレス・アプレンティス”でインスピレーション源になったのはドイツ人作家パトリック・ジュースキントが1986年に発表した小説『香水 ある人殺しの物語』

この小説の舞台は18世紀のフランス。主人公は呪われている。悪臭漂うパリに生まれ落ちた主人公ジャン=バティスト・グルヌイユは驚異的な能力を持っている。それは超人的な嗅覚。あらゆるものを嗅ぎ分ける能力を持ったグルヌイユは常人では不可能なほど繊細に嗅ぎ分けることができた。

匂いを辿ってものの場所を探し当てたり、目をつぶっても暗闇の中を歩くことができたり、一度嗅いだ匂いは完全に覚えていてそれを再現することもできた。

グルヌイユは自分の能力を周りには告げなかったけれど、周囲からは気味悪がられ疎んじられていて孤独だった。やがてグルヌイユは調香師に弟子入り、香水を作ることになる。持って生まれた能力で香水調合の分野で優れた能力をみせる。このまま成功するかと思えたがグルヌイユには抑えきれない衝動があった。それは彼にとって抗いがたい魅力的な匂いのする女性の匂いを自分のものにすること。つまり殺人すること――

やがてグルヌイユは香りで人の心を操る香水を作ることに成功する。沸き起こる殺人衝動と、人間という存在に対して募り続ける憎悪、グルヌイユは孤独と狂気の中で最後を迎えることになる。

匂いに関して並々ならぬ思いのあったカートにとってこの小説がお気に入りになったのは当然で、主人公の私生児グルヌイユに自己投影したのも納得がいく。グルヌイユは人間嫌いのダークヒーローで、不運な運命を自分の能力で切り開く。そして運命はグルヌイユを滅ぼす。

セントレス・アプレンティス 和訳

赤ん坊といえばたいていはバターのようないい匂い

ところがこいつの場合は誰とも似ても似つかない匂い

匂いもなければ感覚もなく生まれ落ちたんだ

無臭の新参者として誕生さ

あっちへ行け…消えちまえ…

とっとと消えちまえ

どの乳母もこいつにだけは授乳しようとはしなかった

精液のような匂いをまき散らす電解液

おまえの香りのいい秘密をばらしたりしないと約束するよ

押し花を作る方法は数えきれないほどあるんだ

俺は土の上に横たわりマッシュルームの肥やしとなる

漏れだすガスから香水が作りだされる

俺を首になんてできないぜ

こっちから辞めてやるんだから

俺を火の中に投げ込んでおくれ

俺はかんしゃくなんか起こさないぜ

ニルヴァーナ 『イン・ユーテロ』”セントレス・アプレンティス” 対訳:中川五郎

俺を火の中に投げ込んでおくれ

怒りに満ちた攻撃的なサウンドを持つ”セントレス・アプレンティス”のリフはドラマーのデイブ・グロールが考えた。最初カートは『ブリーチ』時代に演っていた曲っぽいなーと思い、「発展性なし」と思っていたけれど、何度かセッションするうちにカートが音が上昇していくフレーズを思いつき、クリス・ノヴォゼリックがサビ前のセクションをアレンジする。そして驚くほどパワフルな曲が生まれた。

ニルヴァーナの作詞 作曲のクレジットはすべてカート・コバーンだけれどこの曲は3人全員がクレジットされている。もしカートが生きていて、その後アルバムがたくさん出て、デイブ・グロールが作曲にもっと関わることになっていたらどうなっていたんだろうな、と思う。

この曲の歌詞は『香水』の世界観を描くことに徹しているように思う。

匂いもなければ感覚もなく生まれ落ちたんだ

無臭の新参者として誕生さ

まさにグルヌイユのことだ。

どの乳母もこいつにだけは授乳しようとはしなかった

これもグルヌイユのエピソード。乳母はグルヌイユを悪魔の子だと思っていた。

おまえの香りのいい秘密をばらしたりしないと約束するよ

漏れだすガスから香水が作りだされる

これも調合士のエピソード

この曲で完全にグルヌイユに憑依してるのはサビの「GoAway――getaway――」の部分だと思う。

あっちへ行け…消えちまえ…

とっとと消えちまえ

人間に何も期待していないグルヌイユが「世間」に向かって叫ぶ。

「世間」も悪魔の子に対して、あっちへ行けという。

そしてその気持ちに呼応してカート・コバーンが叫ぶ。

カートの叫びはなんでこんなに心を震わせるんだろう。

俺を火の中に投げ込んでおくれ

そして、グルヌイユの結末に自分を重ねたラストシーン。

この曲は、トリオで演奏されたロックソングの中で最もダイナミックな曲のひとつだと思う。シンプルで、パワフルで、怒りに満ちていて、孤独で、エネルギーを放射していて、心を開いているようで、閉じていて、ピュアで、破滅的で、美しい――

この曲を聴くとぼくはいつも十七歳の気分になってしまう。今でも「流し聴き」できない魔力がこの曲にはある(パトリック・ジュースキントの『香水』もめっちゃ魔力あります)。

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