猿そのもの
カート・コバーンの憎悪の対象はたくさんあったけれど、その一つが「マッチョ主義」
カートが学生時代に住んでいたアバディーンで猛威をふるっていたメインストリームの連中は男はあくまで男らしく! というカートには到底相いれない世界だった。もちろん非マッチョなカートは困惑し、うんざりしていた。
パンクの世界に入ってアンダーグラウンドで自分の居場所を見つけたカートは、傑作アルバム『ネヴァーマインド』でブレイクしたあと、メジャーシーンにいるロックアーティスト、メディアの権威的なふるまいを見て学生時代を思い出す。「あれ、これって学生時代と一緒だ」と。自分たちの能力で切り開いた新しい世界にもやっぱり「マッチョ」は存在する。自分に自信満々で、威張り散らす。自分を信じて疑わない。カートは、こいつら「猿そのもの」だ、と感じる。
この“ヴェリー・エイプ”当初のタイトルは“パーキー・ニュー・ウェイヴ・ナンバー”
パーキー(perky) とは元気のいい、意気揚々としたという意味で、元気のいいニューウェイヴの曲というタイトルとなる。めっちゃバカっぽいタイトルだけど、ヴェリー・エイプと名付けたことでさらにバカっぽくするあたりカートの皮肉のセンスが効いている。
2013年Mixかっこいいね! ちゃんと歪んでる笑
リードギターのヘロヘロ具合がめちゃくちゃイカしてる。めっちゃインディー、ニュー・ウェイヴしてる。『イン・ユーテロ』では、リフ、フック、静と動システムというお馴染みのパターンを離れた、スリーピースじゃ再現できない曲がちょこちょこ生まれている。
この“ヴェリー・エイプ”とか“ミルク・イット” ”レディオ・フレンドリー・ユニット・シフター”なんかが今後のニルヴァーナの方向性だったのかもしれない。
カートが亡くなる前に、次に予定されていた仕事はR.E.Mのマイケル・スタイプとの共作だったらしく、多分それはカートのメロディのセンスを全開にした作品になったんじゃないかな、と思う。そして次作のニルヴァーナのオリジナル・アルバムは正真正銘のニュー・ウェイヴになっていたんじゃないかな、と思うんだ。“ユー・ノウ・ユア・ライト”みたいにヘヴィでノイジーで悪意が込められていてそれでいて美しい――やつ。
ヴェリー・エイプ 和訳
矛盾だらけのハエどもにたかられて
俺は身動きがとれなくなってしまっている
俺は※非文学の王として得意気に胸を張る ※literatureの頭にiがついているからkind of illiterature、無学の王かな?
やたらと無骨でもやたらといかしているこの俺
何か困っていることがあるのなら
どうか遠慮しないで
まずは別のやつに頼んでおくれ
自分がうぶじゃないように見せかけようと
俺はそのことで手いっぱいなんだ
俺は何もかも知っているのさ
ここに一番乗りしたのはこの俺だからね
大地から飛び立って
大空へ
大空から落っこちて
ごみための中にまっしぐら
ニルヴァーナ 『イン・ユーテロ』”ヴェリー・エイプ” 対訳:中川五郎
俺は無学の王として得意気に胸を張る
シンプルに攻撃的な歌詞。
俺は無学の王として得意気に胸を張る
やたらと無骨でもやたらといかしているこの俺
何か困っていることがあるのなら
どうか遠慮しないで
まずは別のやつに頼んでおくれ
めっちゃデフォルメされていて、コメディ・シチュエーションか、ってぐらいの笑える歌詞。
自分がうぶじゃないように見せかけようと
俺はそのことで手いっぱいなんだ
カートの目にはこう映るらしい。
大地から飛び立って
大空へ
大空から落っこちて
ごみための中にまっしぐら
最期のフレーズは、ちょっとやっつけじゃない? と思わないでもないけれど、タイトルが「猿そのもの」という小馬鹿にした曲だもんね。コメディ・シチュエーションにはオチが必要ってことなんだ。
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