パティ・スミス 『ホーセス』 ランド 歌詞考察

歌詞考察
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傑作『ホーセス』のハイライト 

傑作『ホーセス』の中で圧倒的な存在感を放つ名曲“ランド”

この曲は、パティ・スミスの個性とバンドのエネルギーが最良の形で結びついている。

“ランド”は3部構成になっていて、

ホーセス

ランド・オブ・ア・サウザンド・ダンシーズ

ラ・メール

という構成で、9分を超える大作だ。歌詞の長さもハンパじゃない。

この曲はジョニーという少年と、アルチュール・ランボーへの敬愛と、ガレージロックと、詩の混合で、『ホーセス』のハイライトであり、象徴のような曲だ。

ジョニーという少年のモデルはロバート・メイプルソープ。内向的な不良といった趣だ。そこにもう一人のワルな少年が現れて、ジョニーをレイプする。そしてジョニーは錯乱して頭の中に馬が駆け巡る、そしてフランスの詩人アルチュール・ランボーになれ!というフレーズが登場し、可能性の海の場面へ……。なんだこの超現実は……!

それではめっちゃ長い歌詞のほうへ行ってみよう。

ランド 和訳

ホーセス

その少年は廊下にいて グラスに入った紅茶を飲んでいた

廊下のもう一方の端から 次第にリズムが沸いてきて

別の少年が滑るように廊下へと上がってきて

彼は完璧に廊下に溶け込んだ

彼は完璧に廊下にあった鏡に溶け込んだ

少年はジョニーを見た ジョニーは逃げ出したかったけど

映画は予定通りに続いた

少年はジョニーの手を取り ジョニーをロッカーに押しつけた

彼はあれを突っ込んだ 深く突っ込んだ

ジョニーの身体の奥まで突っ込んだ

少年が消えると ジョニーはくずおれて

ガンガンとロッカーに頭をぶつけた

ガンガンとロッカーに頭をぶつけた

ヒステリックに笑い始めた

そして突然

ジョニーはある気配を感じた

彼を取り囲んでいたのは

馬 馬 馬 馬

ありとあらゆる方向から向かってきていた

鼻先を炎に包まれて 白い輝きを放つ銀色の馬の群れ

彼が見たのは 馬 馬 馬

馬 馬 馬 馬 馬

ランド・オブ・ア・サウザンド・ダンシーズ

ラ・メール

落ち着きなさい 落ち着きなさい

夜 森に見つめられながら

黄色いたてがみの 黒光りする雌馬が一頭そこにいる

その絹のようなたてがみを私は指で梳いて

階段を見つけた 私は一刻も無駄にすることなく

ただ昇っていくと そこにそれを見た

上には海がある 上には海がある

そこには海がある 可能性をつかもう

そこにはあの島以外の島はない

(上には可能性の海がある)

そこにはあの海以外の海はない

(上には可能性の壁がある)

そこには鍵以外の番人はいない

(上にはいくつかの可能性の壁がある)

可能性を手にする者を除いて

私は最初の可能性を手にする 私を取り囲む海

私は船乗りのように足を開いてそこに立っていた

(可能性の海で)私は彼の手を膝に感じた

(スクリーン上で)そして私はジョニーを見た

私は燃える珊瑚の枝を彼に手渡した

(男の心の中で)波が押し寄せていた

アラブの種馬が ゆっくりとタツノオトシゴシー・ホーセスに姿を重ねるように

彼は剣を拾い上げ それを自分の滑らかな喉に押しつけて

徐々に浸した(欠陥に)

可能性の海に浸した

それは固くなってきた 私の手の中で固くなってきて

私は欲望の矢を感じた

私は彼の頭蓋骨の内側に手を置いた

ああ 私たちは脳みそが絡み合う情事を交わした

だけどもうやめて もうたくさん

私は自分の心を離れて あの場所へと向かわなきゃならない

(ランボーへ ランボーへ ランボーへと)

ああ ゴー ジョニー ゴー

ワトゥーシを踊りましょう ワトゥーシを踊りましょう

ワトゥーシを踊りましょう

彼の頭蓋骨がはじけるように開いて

白く銀色に輝く蛇がぐるぐるととぐろを巻いていた

私たちの人生は絡まり合った 4年の歳月をかけて私たちは巻きつき合う

黒く輝く馬のたてがみこそがあなたの中枢

そして私のすべての指は 絹のようなあなたのたてがみと絡み合った

私はそれを感じた 私の指の間にあるあなたのたてがみを

(築け 高く築け)

たてがみは針金のように私の身体を貫いて

そのせいで そのせいで私は死んだ

バベルの塔を築いた連中は自分は自分たちの求める物を知っていた

彼らは自分たちが何を追い求めているか知っていた

流れに乗って すべてが上に移動しようとしていた

私は停めようとしてみたけど 流れはとても温かくて

(終わるはずなどない 終わるはずなどない)

まるで海で遊ぶみたいに 信じられないぐらい滑らかで

可能性の海における可能性は剣だった

光輝く剣 私は可能性の海への鍵を握っている

そこには私の両手を見つめる島以外に島はなかった

そこに貫いて流れる一筋の赤い小川

砂はまるで指みたいに 動脈みたいに 指みたいに

(あらゆる知恵は馬の両目の間に備わっている)

彼はそれを自分の喉に(あなたの瞳に)押し当てて横たわった

彼は喉を(あなたの瞳を)開いた 彼の声の和音が

(馬の)狂った下垂体のように撃ち始めた

彼が上げた叫び声(私の心)はとても甲高く

(私の心は)かつて誰も耳にしたことがないような高音を発した

誰も聞いたことがないその叫び(ジョニー)蝶々がひらひら飛んでいる

彼の喉の中には彼の指 誰も聞いたことがない 彼はあのベッドにいた

それはまるでゼリーの海 彼は最初の物をつかんだ

彼の声の和音は(可能性)狂った下垂体のように撃った

それは黒い管だった 彼は自分が崩壊していくのを感じた

(まったく何事も起きていない)そして黒い管の中へと入っていく

ふと彼が窓の外の町に目をやると

一人の素敵な若い子が

パーキングメーターに背を丸めて

パーキングメーターに寄りかかっているのが見えた

シーツの中に一人の男がいた

フェンダー・ギターの長いすすり泣きのように

彼の周りですべてがほどけていく

シンプルなロックンロールに乗って踊りながら

パティ・スミス 『ホーセス』 ランド 歌詞対訳:野村伸昭

ホーセス 白い輝きを放つ銀色の馬の群れ

その少年は廊下にいて グラスに入った紅茶を飲んでいた

リラックスしているジョニー。このすぐあと廊下内に緊張が走る。

廊下のもう一方の端から 次第にリズムが沸いてきて

別の少年が滑るように廊下へと上がってきて

彼は完璧に廊下に溶け込んだ

別な少年が向こう側からジョニーに向かって歩いてくる。この少年は現れた瞬間に場を制圧している(彼は完璧に廊下に溶け込んだ)。

少年はジョニーを見た ジョニーは逃げ出したかったけど

少年はジョニーの手を取り ジョニーをロッカーに押しつけた

彼はあれを突っ込んだ 深く突っ込んだ

ジョニーの身体の奥まで突っ込んだ

暴力で少年はジョニーを支配する。ジョニーは錯乱して見えないものを目撃する。

少年が消えると ジョニーはくずおれて

ガンガンとロッカーに頭をぶつけた

ヒステリックに笑い始めた

彼を取り囲んでいたのは

馬 馬 馬 馬

馬は美しく(白い輝きを放つ銀色)、ジョニーの頭を駆け巡る。ここまでがホーセスと名付けられた章の部分だ。次のパートはランド・オブ・ア・サウザンド・ダンシーズ。このパートはシンプルなスリーコードで、パティ・スミスは自由に詩を歌う。

ランド・オブ・ア・サウザンド・ダンシーズ ラ・メール

続いては森の場面。そこには馬がいて、その馬のたてがみに階段を発見する。その階段を上るとそこには海がある。

黄色いたてがみの 黒光りする雌馬が一頭そこにいる

その絹のようなたてがみを私は指で梳いて

階段を見つけた 私は一刻も無駄にすることなく

ただ昇っていくと そこにそれを見た

上には海がある 上には海がある

シュルレアリスム詩のような象徴表現。

そこにはあの島(ランド)以外の島はない

私は最初の可能性を手にする 私を取り囲む海

ここは強いフレーズだ。

(可能性の海で)私は彼の手を膝に感じた

(スクリーン上で)そして私はジョニーを見た

私は燃える珊瑚の枝を彼に手渡した

この部分はロバート・メイプルソープに捧げた詩「ザ・コーラル・シー」を想起せずにいられない。

彼は剣を拾い上げ それを自分の滑らかな喉に押しつけて

徐々に浸した(欠陥に)

可能性の海に浸した

それは固くなってきた 私の手の中で固くなってきて

私は欲望の矢を感じた

私は彼の頭蓋骨の内側に手を置いた

ああ 私たちは脳みそが絡み合う情事を交わした

そして歌われるのはショッキングな情景。ジョニーは自殺し(それを自分の滑らかな喉に押しつけて)、セックスをする。

レイプ、自殺、セックスと場面が続いて、ロック史上最も画期的な瞬間が訪れる。

(ランボーへ ランボーへ ランボーへと)

ああ ゴー ジョニー ゴー

暴力と性と死に対して、パティ・スミスは自身の英雄的な詩人アルチュール・ランボーを登場させる。

そして、「ワトゥーシを踊りましょう」と3回繰り返し、ここから血なまぐさい場面から反転して、陽的暴力、祝祭へと舵を取る。

私たちの人生は絡まり合った 4年の歳月をかけて私たちは巻きつき合う

黒く輝く馬のたてがみこそがあなたの中枢

そして私のすべての指は 絹のようなあなたのたてがみと絡み合った

私はそれを感じた 私の指の間にあるあなたのたてがみを

祝祭としての性、生が歌われ、その後のフレーズで「創世記」に登場するバベルの塔が現れる。

バベルの塔を築いた連中は自分は自分たちの求める物を知っていた

彼らは自分たちが何を追い求めているか知っていた

ここでバベルの塔は突飛かもしれないけれど、ここでのメッセージは「神への挑戦(批判)」だと思う。つまり、「神は誰かの罪で死んだけれどそれは私のせいじゃない」と同じような、パティ流の宣言だ。

実現不可能な天にも届く塔を建設しようとして、崩れてしまった(神に壊された)という故事にちなんで、空想的で実現不可能な計画の比喩としても用いられる

バベルの塔 Wikipedia

可能性の海における可能性は剣だった

光輝く剣 私は可能性の海への鍵を握っている

ここでパティ・スミスは男根のシンボルである剣を持ち出している。ここでパティは「ロックの世界に入っていくには男性的なふるまいをしなければなかった」と言っているかのようだ(もしくは剣のモチーフは攻撃性や挑戦すること、なのかもしれないけれど)。

確かに、パティ・スミスはロック界に登場した時、「女ボブ・ディラン」や「キース・リチャーズ風女詩人」「ボードレール風の黒い~」などと形容されることがあった。

この曲は、死と再生をアルチュール・ランボーとロックンロールの力を借りて表現した曲なんだと思う。「可能性の海」においては死をも乗り越えることができるし、ランボーや、神話もミックスすることができる。そして性をも超越していける。

一人の素敵な若い子が

パーキングメーターに背を丸めて

パーキングメーターに寄りかかっているのが見えた

シンプルなロックンロールに乗って踊りながら

最後の場面はこの曲の冒頭(映画を観ているシーン)のようでもあり、『ホーセス』のオープニング・ナンバー“グロリア”に付随した物語のようにも見える。男が女の子に色目を使い、モノにしようとしている典型的な古いロック観を表している情景。これを女性のパティが歌うことにより、ギョっとする皮肉的な効果を生んでいる。

この曲は凄い。物凄い。『ホーセス』はロックと詩の結婚であり、ロックは男のものという価値観を変た。可能性の海ではすべてを超えていける。

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