プライマル・スクリームと南部ブルース
『ライオット・シティ・ブルース』で最もダークな雰囲気を纏った曲がこの“リトル・デス”だ。
ライオット・シティの世界観においてもこの曲はちょっと異色で、ドープというか、呪術的というか、そして古いアメリカ南部への眼差しが感じられる曲でもある。
プライマル・スクリームと南部といえば、『ギヴ・アウト・バット・ドント・ギヴ・アップ』が真っ先に思いつくけれど、この曲は南部への憧れという感触にはほど遠く、どこか「根源」というか、ジャンルとしてのブルースではないブルー(憂鬱)が鳴らされているように思う。
リトル・デス 和訳
ささやかな死
魔女の呪い
オレの頭に不安を残す
カウボーイの口
インディアンの血
ささやかな死
完璧な呪い
ささやかな死
情熱の盗人
おまえを愛してるよ ベイビー
死ぬその日まで
割れた蹄
猛々しい翼
聖なる子馬
風に乗ろう
ささやかな死
クスリのように悪賢く
死のように強力で
愛のように甘美
オレを躍らせ
歌われる
おまえに髑髏を買ってやるよ
ダイアモンドの指輪も
プライマル・スクリーム 『ライオット・シティ・ブルース』 リトル・デス 訳:沼崎 敦子
死のように強力で愛のように甘美
カウボーイの口
インディアンの血
ささやかな死
プライマル特有の短いセンテンスを並べて、イメージを想起させるスタイルの歌詞だけど、ここで語られるのはアメリカ先住民族の敗北のイメージだ。
割れた蹄
猛々しい翼
聖なる子馬
割れた蹄という部分もに南部の「痛み」を表現しているように感じる。そして次の部分では、誇り高い聖性が現れているように思う。
ささやかな死
クスリのように悪賢く
死のように強力で
愛のように甘美
オレを躍らせ
歌われる
ロックの生みの親はブルースで、そのブルー(憂鬱)の背景には、窮状、苦悩の歴史がある。おそらく多くの苦悩、憂鬱、命から生まれたブルースは決して「ささやか」ではない。でも当事者じゃないぼくらからすれば歴史の変遷は「ささやかな死」だと思っているふしがある。なんというかブルースをジャンルとしか見ていない、というか。“リトル・デス”はジャンルのブルースではないブルーを感じる曲だ。
この曲では『ギヴ・アウト・バット・ドント・ギヴ・アップ』でプライマルが獲得しようとした「ルーツ・ミュージックだぜ!ゴキゲンだぜ!」といったノリとは違う姿勢を感じることができると思う。
じゃないと次のようなドマジな歌詞なんて出てこない。
おまえを愛してるよ ベイビー
死ぬその日まで
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