救いのないジャンキーの悲哀
エコー&ザ・バニーメンのウィル・サージェントがギターを弾く“ホェン・ザ・ボム・ドロップス”
憂いを帯びたアルペジオがクールな、ニューウェイヴ・テイストのロック・ナンバー。『ライオット・シティ・ブルース』の1~3曲までがけっこうゴキゲンなロックでスタートしたんだけど、ここで一旦マイナーなトーンに変わる。ジャンキーやキリストについては“ニッティ・グリッティ”や“スーサイド・サリー&ジョニー・ギター”にも出てくモチーフだったけれど、この曲に出てくるソレはなんというか、もっとシリアスだ。
プライマル・スクリームとドラッグの関係はかなり密接で、歴史的な金字塔『スクリーマデリカ』リリース時、彼らにとってドラッグは良いものだった。花開くレイヴ・カルチャーの中、“エクスタシー(通称E)”はトレンドのドラッグだった。プライマルももちろんのめり込み、そのカルチャーの中で一気にスターにのし上がっていく。
そして、絶頂からの下降もプライマルは速かった。次作『ギブ・アウト・バット・ドント・ギブ・アップ』で、“ヘロイン”に手を出してしまい、クリエイティヴィティは地の底までダウン。活力も評価も急下降。物事はダークなものになっていった。
“エクスタシー”で時代の寵児になり“ヘロイン”で真っ逆さま。
90年代のUKロックシーンである。
さあ、ドラッグの負が満載の“ホェン・ザ・ボム・ドロップス”を見ていこう。
ホェン・ザ・ボム・ドロップス 和訳
楽しいことがたくさんあったじゃないか ブラザー
物心ついたときからのつきあいだ
終わりのない夜に向かう旅で
血とドラッグと女をごっちゃにしてたおまえ
おまえが与えられた愛を台無しにするのを見てきた
天国を一瞬垣間見るためにおまえは夢を売り払ったのさ
かつてのおまえは情熱の盗人だったけど
今やただのジャンキーの嘘つきに成り下がった
爆弾が落ちてくるっていうのに
何を頂こうってんだ?
おまえみたいなヤツはこれまでに
百万人もいたよ ブラザー
善悪を超越してると思ってるんだろ
ドアさえ見つけられないくせに
ジャンキーの血で
壁に絵を描いてる
よお すごいな! クールじゃないか
すっごいきれいだよ
おまえを治してくれるクスリなんかない
おまえが愛せる女なんかいない
死だけがおまえの苦痛を取り去ってくれる
死だけがおまえをイカせてくれる
十字架に掛けられたジャンキーのキリスト
雑種の犬みたいに残飯を乞い求める
プライマル・スクリーム 『ライオット・シティ・ブルース』 ホェン・ザ・ボム・ドロップス 訳:沼崎 敦子
善悪を超越してると思ってるんだろ
物心ついた時からのつきあいの親友が死にかけている。理由はもちろんドラッグだ。
血とドラッグと女をごっちゃにしてたおまえ
おまえが与えられた愛を台無しにするのを見てきた
天国を一瞬垣間見るためにおまえは夢を売り払ったのさ
かつてのおまえは情熱の盗人だったけど
今やただのジャンキーの嘘つきに成り下がった
これは、ボビーがかつてのボビーに語っているように感じる。ドラッグが見せる幻覚や多幸感をクリエイティヴィティの源にしてしまった代償が描かれているようだ。
おまえみたいなヤツはこれまでに
百万人もいたよ ブラザー
善悪を超越してると思ってるんだろ
ドアさえ見つけられないくせに
プライマル・スクリーム以前のロックンローラーたちも、やはりドラッグ体験は盛んだった。ビートルズ、ストーンズ、ザ・フーにヴェルヴェッツ、ドアーズ……というか60年代のバンドでドラッグをやってないバンドを挙げてみて? と訊かれたほうが難しいかも。
アイコニックなドラッグ・ロッカーはドアーズのジム・モリソンかも。ドラッグと詩の力で“知覚の扉”を開けようとした彼は、命を燃焼し尽して27歳で生涯を終えることになる。
ロックにはこういう「伝説」や「エピソード」に事欠かないわけだけど、この曲では、ドラッグはドラッグでしかないという事実が描かれている(善悪を超越してると思ってるんだろ/ドアさえ見つけられないくせに)。
ドラッグを燃料にアート活動を行っても
ジャンキーの血で
壁に絵を描いてる
よお すごいな! クールじゃないか
すっごいきれいだよ
これが末路だよ、ということを示している。
そして結末は死だ。
おまえを治してくれるクスリなんかない
おまえが愛せる女なんかいない
死だけがおまえの苦痛を取り去ってくれる
ラストのキリストのモチーフも、ヒロイックに酔うのは結構だが、結局お前は雑種の犬みたいに残飯を乞い求めるようにしか見えない、ということだろう。
ここまで痛みを感じる歌詞を書けるというのは凄いね。ドラッグで絶頂とどん底を体験したボビーならではの視界なんだろうね。
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