パブリック・イメージ・リミテッド/フラワーズ・オブ・ロマンス 歌詞考察

歌詞考察
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ロックの極北 ポストパンクの傑作

「騙されたって気持ちになったことがあるかい?」

この有名なセリフを吐いて、セックス・ピストルズを解散したジョン・ライドンはパブリック・イメージ・リミテッドを結成する。

パブリック・イメージ・リミテッドのアイデアは、ピストルズのアメリカツアー中にジョン・ライドンの頭の中ですでに出来上がっていて、メンバーにも構想を話していたという。そのアイデアに食いついてきたのはシド・ヴィシャスだけで、スティーブ・ジョーンズポール・クックには無視されたらしい(わかる気もする)。

だけど、シド・ヴィシャスには深刻なヘロイン中毒と、ナンシー・スパンゲンとの破滅的な生活の果てにナンシーは刺殺で死に、シドもオーバードーズで死亡してしまう。

ジョン・ライドンは親友の死を悲しむ。

若くて、愚かで、無分別だったという意味では俺は間違っていたし、正しい認識も足りなかった。問題にぶつかっていかず、逃げてしまった。俺がまさに糾弾していた行為に俺自身も走っていたわけだ。俺の性格から、車がバラバラに崩壊していくにを楽しんでいる部分があったのも事実だ。真剣に取り組むよりもカオスの方が楽しかったからね。俺は常に性急な衝動を抱えてるのさ。だから罪悪感もない。

もっとシドを助けることも出来ただろう。おざなりにするんじゃなかった。ピラトゥス(キリストを処刑したユダヤの総督)のようにあいつと手を切るんじゃなかったと今になって思う。死ぬまで俺はこれを背負って生きていくんだ。なにが出来たかわからないけど、なにかするべきだったとは思う。方法なんていくらでもあったはずだ。自分の友人は、絶対おざなりにしちゃいけない。

STILL A PUNK ジョン・ライドン自伝

パンクの発明者ジョン・ライドンでも友だちの死というのは、簡単に乗り越えられるものじゃない。「かけがえのない」という言葉があるけれど、友だちというのがまさにそれだよね。交換ができない。仕事や金なんかは、まあ、なんとかなる。

閑話休題。

パブリック・イメージ・リミテッドはどえらいバンドである。セックス・ピストルズは世界に「NO」を突き付けて世界を変えた。そしてパブリック・イメージ・リミテッドは、ピストルズに対するアンチで始められた。ロックやパンクを解体したんだ。ポストパンクってやつだね。

バンド名はミュリエル・スパークという女性作家の『ザ・パブリック・イメージ』という本から取られた。

結成メンバーは

  • キース・レヴィン(ギター)
  • ジャー・ウォブル(ベース)
  • ジム・ウォーカー(ドラム)

このギタリストのキース・レヴィンが凄い。「どうやって弾いてんの?」ってぐらい変態なギターを弾く人で(クラッシュではお前のギター変ってことでクビになってる)個人的に崇拝しているギタリスト。

ジャー・ウォブルはバンドの核で、印象的なベースラインを披露している。座って弾く、顔の怖い人。

ジム・ウォーカーはオーディションで選ばれた人でけっこうすぐ抜けます。

冷たい音像と、新しいロックのヴィジョンを提示したパブリック・イメージ・リミテッドは、セカンドアルバムで傑作『セカンド・エディション(メタル・ボックス)』を発表して(このメタル・ボックスが最高傑作の呼び声が高い)、バンドの核のジャー・ウォブルが脱退。

実質、ジョンとレヴィンの2人体制で『フラワーズ・オブ・ロマンス』が作成されることになる。

え? このアルバムジャケットのバラをくわえた女の人だれなん? と思うよね。一応メンバーということになっている。

彼女はジャネット・リー。アルバムのクレジットにはキーボード、パーカッションとなっているけど実際はジョンの相談相手的な感じだったらしい(PiLが出演した『トップ・オブ・ザ・ポップス』では、ジャネット・リーがチェロを当てぶりで演奏しているのが見れる)。それにしてもジャケットのインパクトが凄くて、それだけでもジャネット・リーをメンバーで起用した甲斐があったと思う(ちゃんとしたドラムはマーティン・アトキンスが叩いている。全曲ではないけど)。

さて、この”フラワーズ・オブ・ロマンス”そうとうに変な曲である。トライバルなビートと、呪術的なボーカル。妙なストリングス。踊れないダンスミュージックというか……ロックに必須な楽器の音がまったく聴こえない。形式を拒否した新しい意志が宿ったロックの極北。リリースするほうも聴くほうも勇気のいるような曲だ。

※ちなみに、フラワーズ・オブ・ロマンスは、初期セックス・ピストルズの曲名でもあり(100clubで演ってた)、シド・ヴィシャスとキース・レヴィンの組んでいたバンド名でもあったりする。

フラワーズ・オブ・ロマンス 和訳

あの夏、私は幸福にもなれたし、悲嘆に暮れることもできた、

すべては相手しだいだった。

ヴェランダで将来について語り合うか、追憶にふけるか、

対話の裏で、私たちはすっかり混乱していた、

何はともあれ、私はきみに花束を贈った。

きみはねそれよりも、チョコレートを欲しがった。

ロマンスの花よ、ロマンスの花よ、

私には双眼鏡がある、

ボックスヒルの頂上で、私はネロにだってなれた、

ワシを空に放ち、何もかもやり直すのだ、

友人と名のつく者たちを当てにはできない、

きみが身を守らねばならないのは実に気の毒だ、

私は必要な物だけを持って、新たに生まれ変わるのだ。

パブリック・イメージ・リミテッド ”フラワーズ・オブ・ロマンス” 訳詞:山本安見

新たに生まれ変わるのだ

この曲はシド・ヴィシャスに対するお別れの曲なのかもしれない。

すべては相手しだいだった」というのは、すべてはシドしだいということで、「ヴェランダで将来について語り合うか、追憶にふけるか」というのは、一緒にPILをやるか、パンクの偶像でいるのかということか。「何はともあれ、私はきみに花束を贈った」は、オファーや支援をしたということかな?

きみはねそれよりも、チョコレートを欲しがった」欲しがったのはナンシーとの破滅的生活? それともドラッグ?

友人と名のつく者たちを当てにはできない」の一節は辛辣だけど、このフレーズに続く「きみが身を守らねばならないのは実に気の毒だ」という言葉は、心の弱かったシド・ヴィシャスを思わせて寂しい気持ちになる。

シドは俺のやっていることに興味を示して、一緒にやりたいと言ってくれた。本当なら彼の初めての貢献を目撃できるはずだったのに、サンフランシスコであいつがドラッグに手を出した、その時点で終わってしまったんだよ。

~中略~

俺は行動の全てに意味や目的がないといけない人間だから、計算高いと非難される。でもそういう人間なんだ。俺は常に自分の次の行動を把握してる。死にたいと思ったことはないがね。俺が手にしてるのはこの人生だけなんだ。人生が終わったその後になにが起こるかなんて、正直言って俺にはわからないし、急いで知りたいとも思わない。シドのキャラクターは確かに人気があるけど、人はシドの神話は買ってもレコードは買ってはくれないよ。無駄なんだよ。不運を嘆くだけの負け犬やジャンキーのためのドラッグ・カルチャーさ。俺はそんな仲間に入りたくはないし、入ったこともない。俺は外に出て行って、物事が良くなるように努力する。それが狂信的シドと社会尊重主義ジョン・ライドンとの決定的違いだね。生と死だよ! 死ぬことはなにも神々しいことじゃない。誰にだってできるんだから。

STILL A PUNK ジョン・ライドン自伝

これがジョン・ライドン哲学だ。パンクの始祖で音楽業界の狡猾なサバイバー。死ぬことはなにも神々しいことじゃない。

シド・ヴィシャスは死ぬことを選んで、ジョニー・ロットンは必要な物だけを持って、ジョン・ライドンとして新たに生まれ変わった

ライドン爺さんは、現在もお騒がせ爺さんとして活躍中! 長生きしてもらいたいものである。

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