レディオヘッド 『キッドA』 イディオテック 歌詞考察

歌詞考察
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白痴的――終末のテクノナンバー

ライヴでもハイライトになることが多い人気曲‟イディオテック

トム・ヨークのクレイジーなダンスが観れる圧巻のテクノナンバーだ。

今は、代表曲の一つとしてカウントされている‟イディオテック”だけど、発表当時はけっこう驚かれた。そして「もうロックじゃないじゃん」とも言われた。ロックかどうかはここで問題にしないけれど、ロックを脱却しようとしていたレディオヘッドからすれば、別に全然いいよね。

さて、タイトルの‟イディオテック”Idiotequeは、“白痴”を意味する「idiot」と“ディスコ”「discotheque」を掛け合わせた造語だとされている。公式が言っているわけではないから完全な予想だけど、「氷河時代がくる!」「氷河時代がくる!」と喚くように歌う様はけっこう白痴的だし、ここのラインはこの曲のキモになっているようにも思う。

この曲のパフォーマンスの熱量からは、U2のボノや、コールド・プレイのクリス・マーティンが「さあ、みんな氷河時代がやってくる。世界を救おう」的なトーンで歌い上げるのとは違う、なにか切迫感、凄みを感じる。そこがこの曲のクレイジーなところで、白痴的で、リアルなところだ。

この曲はシリアスな曲だ。もっと言うと政治的だ。

もちろんレディオヘッドは『キッドA』を「政治的アルバム」にするつもりはなかっただろう。そのレッテルと一緒についてくる荷物を思えばなおさらだ。しかしバンドに「まるっきり」政治的意図がなかったというトムの主張は、明らかに誇張にすぎる。実際彼は「ザ・ワイヤー」誌のインタビューで次のように認めている。政治は「あらゆるものに織り込まれてしまってる、アート作品にまで。直接はあんまりあれこれ言いようがないけど、確かにあるんだ――こっちは傍観者で、参加できないっていう気分がさ」。

マーヴィン・リン著 『レディオヘッド/キッドA』 島田陽子 訳

マーヴィン・リンの著作の引用なんだけど、ここでトム・ヨークは「政治に関して、こっちは傍観者で、参加できないっていう気分」があると発言している。

それを踏まえて歌詞を見ていこう。

イディオテック 和訳

燃料庫にいるのはだれだ? 燃料庫にいるのはだれだ?

女と子どもが先、子どもが先、子どもが

笑い続けてぼくの頭は取れて落ちる

飲み込み続けてぼくは破裂する、ぼくは破裂する、ぼく

燃料庫にいるのはだれだ? 燃料庫にいるのはだれだ?

ぼくはあまりに見過ぎた、きみはまだ見足りない

笑い続けてぼくの頭は取れて落ちる

女と子どもが先、子どもが先、子どもが

今ここでぼくは生きてる、何もかもがいっぺんに

今ここでぼくは生きてる、何もかもが

いっぺんに

氷河時代がやってくる、氷河時代がやってくる

両方の話を聞かせろ、両方の話を聞かせろ、

両方の話を聞かせろ

氷河時代がやってくる、氷河時代がやってくる

奴を火に投げ入れろ、奴を火に投げ入れろ、奴を火に投げ入れろ

ぼくら、虚言で人心を惑わそうとしてるわけじゃない

これは現実に起きてることなんだ

ぼくら、人心を惑わせようとしてるわけじゃない

これは現実に起きてることなんだ

起きてる

携帯電話がぺちゃくちゃ

携帯電話がきぃきぃ

金をつかんで走れ

金をつかんで走れ

金をつかんで

今ここでぼくは生きてる、何もかもいっぺんに、

何もかも

いっぺんに

レディオヘッド 『キッドA』‟イディオテック” 対訳:山下えりか

これは現実に起きてることなんだ

この曲では有事を思わせる描写から始まる。

燃料庫にいるのはだれだ? 燃料庫にいるのはだれだ?

「燃料庫 bunker」、「bunker」を調べてみると掩蔽壕(えんたいごう)とも訳されるらしい。もちろん掩蔽壕でピンとこないので、詳しく調べると、装備や物資、人員などを敵の攻撃から守るための施設とある。つまりシェルター。だれかがシェルターにいるらしい。

それに続く歌詞は

女と子どもが先、子どもが先、子どもが

もし、この発言をしている人物がシェルターにいる人物だったら? と思わず考えてしまう。

金をつかんで走れ

金をつかんで走れ

金をつかんで

この人物がシェルターという安全圏から「女と子どもが先」と言っていたら?

妄想を続けて、もしこういったことが現実でまかり通っていたら、

笑い続けてぼくの頭は取れて落ちるだろう。

『キッドA』の初期プレス盤には、ケースの中に秘密のブックレットが存在していて、そこにこの曲の歌詞「金をつかんで走れ」という言葉が皿に乗せられた血まみれのクマの下に添えられている。

このクマはレディオヘッドファンにはお馴染みかもしれない。トム・ヨークとアートワーク担当のスタンリー・ドンウッドが考案した、遺伝子操作によって生み出されたクマだ。この遺伝子操作クマを食べるなんて、なんてグロテスクな……と思うけれど、遺伝子操作で作られた食べ物自体はすでに存在しているよね。そしてそのバイオテクノロジー企業の既得権益というものはえげつないほどになっているといわれている。だからある分野で独占する企業が出てくると、誰も口を出せなくなる。あきらかに地球温暖化に対して悪い影響があっても、だ。

だからこの曲では、

これは現実に起きてることなんだ

と歌っているんだと思う。

そして、温暖化が進み、人類が存在しなくなったあと、世界は『キッドA』のアートワークのような「氷河時代」になってしまうかもしれない。

自分が生きている時代だけ「逃げ切って」しまえば、と考えてしまうけれど、この曲があまりにもシリアスなので、少し「生き方」や「環境」について考えてしまう。

いつか「現実」が傍観者の気分でいさせてくれなくなる日が来るかもしれない。この曲は、そんな、普段は目を背けたくなる現実を痛烈に抉ってくる。めっちゃ恐い。ドーナッツをかじって昼寝をしたい。だけど昼寝をしている間にも現実は起こり続けている……

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