居場所はここにある
長い間、ファンの間で作品化が待たれていた伝説の未発表曲”Lift”がOK Computerの20周年リイシュー盤『OK Computer OKNOTOK 1997 2017』に収録された。
『OKコンピューター』に”Lift”が収録されなかった理由は、何かの記事で読んで出典は忘れちゃったんだけど、ジョニー・グリーンウッドはOK~に入れたかったけど、トム・ヨークは反対した、と。
その理由は『OKコンピューター』は「閉塞感」をテーマにしていて、「居場所はここにない」というアルバムだったから「居場所はここにある」という”Lift”はふさわしくない、ということで外すことにした、と。
たしかに『OKコンピューター』は、車、高速道路、路面電車、飛行機、パニック、ヒステリー、パラノイア、迷子の子等、移動や不安感のモチーフが満載でトム・ヨークのインタビューでも
トム「(4年間のバス生活で)閉所恐怖症のようになっていてリアリティが何か分からなくなっていた。さらにあの当時、情報の氾濫を感じていた。今のほうが最悪だから、それは皮肉なことでもあるんだけど」また、「自分を鏡で見て、“お前は最悪だ””お前のやることは全部最悪だ。だからやめろ”と聞こえてきた。だから一瞬自分を見失っていた」
トム・ヨーク ローリング・ストーン誌
と、当時がめちゃくちゃな精神状態だったことがわかる。
というかマジでめちゃくちゃだな(笑)
そんなわけで傑作”Lift”は、一旦お蔵入り。長い間、有名な動画 (Pinkpopの黄色いレインコートみたいなの着てるやつ)や、ブートレグなんかでしか聴けなかったんだけどようやく聴ける日がやってきた!
“Lift”は確かに良い曲。だけどちょっと待たせすぎだよね(20年だよ!)。True Love Waits”の時も思ったけど……。期待値が上がっちゃうからね。
さて、以下が歌詞です
リフト 和訳
This Is The Place
ここだよ、
Sit Down, You’re Safe Now
ほら座って、もう安心だ
You’ve Been Stuck In A Lift
君はエレベーターに閉じ込められていたんだよ
We’ve Been Trying To Reach You, Thom
こちらからもなんとか連絡を取ろうとしていたんだ トム
This Is The Place
ここなら大丈夫、
It Won’t Hurt Ever Again
もう二度と辛い思いはしないから
The Smell Of Air Conditioning
空調の匂い
The Fish Are Belly Up
魚は死んだ
Empty All Your Pockets
ポケットの中身を空にするんだ
Because It’s Time To Come Home
もう家に帰る時間だから
This Is The Place
ここだよ
Remember Me? I’m The Face You Always See
僕のこと憶えてる? 君がいつも見てるあの顔だよ
You’ve Been Stuck In A Lift
君はエレベーターに閉じ込められていたんだよ
In The Belly Of A Whale At The Bottom Of The Ocean
鯨の腹の中 海の底
The Smell Of Air Conditioning
空調の匂い
The Fish Are Belly Up
魚は死んだ
Empty All Your Pockets
ポケットの中身を空にするんだ
Because It’s Time To Come Home
もう家に帰る時間だから
Today Is The First Day Of The Rest Of Your Days
今日は君の残りの人生の最初の日
So Lighten Up, Squirt
だから元気出せよ、坊や
Radiohead 対訳 今井スミ
認識の匂い、空調の匂い
ぼくはサビ部分のThe Smell Of Air Conditioning(空調の匂い)をA smell of recognition(認識の匂い)だと勘違いしていて(なぜだろう、友達にそう言われたのか、何かで読んだのか)、認識の匂い……!なんて詩的なんだ。と思っていた。公式音源がなかなかリリースされないからこういうことになる……。
だけど、「空調の匂い」のほうが人工的不安感があって相応しいし、しっくりくるよね。
この曲はレディオヘッドには珍しいシンプルでポジティブなフィーリングを持つポップソングだ。
安全で誰にも傷つけられない「Home」に帰ろう、という曲。
冷徹にこの世界の欺瞞や偽善、ただ生きているだけなのに不安になってしまう時代を描写しきった『OKコンピューター』、今の時代にもそのメッセージは有効だし、その中で”Lift”のようなタイムレスなポップソングが生まれたことは感動的だ。バンドは音楽の力を信じているんだな、という気持ちになる。
この時代もエレベーターに閉じ込められていると感じている人たちはたくさんいると思うし、押しつぶされそうになっている人もいると思う。
ピノキオが鯨の腹の中から脱出する時、人がエレベーターの中にいるような孤独感から抜け出す時、必要なのは魔法みたいなものじゃなくて、連帯やコミュニケーションだったりするだ。
だから元気だせよ、坊や
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