ブレイディみかこ/R・E・S・P・E・C・T ブックレビュー

レビュー/雑記
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世界最速レビュー#19 ブレイディみかこ著『R・E・S・P・E・C・T』

2023年8月3日ごろ、ブレイディみかこの新刊小説『R・E・S・P・E・C・T』が発売されます。

「世界最速レビュー」シリーズとは、発売日まもなく書店員が、その小説の見どころをたっぷりお伝えする連載です。

『R・E・S・P・E・C・T』

小説『R・E・S・P・E・C・T』は、シングルマザーの女性のスピーチに始まります。

「あたしは社会運動家でも労働組合員でもありません。20歳の母親です」 と訴える女性。

区やお偉い方の決定によって住む場所を追いやられる若い母親たちは連携を組んで声を上げていきます。

それは世界へ向け中継され、とある日本人男性の元へも届きます。

わたしは「アナキズム」「アナキスト」に過剰に興奮して、はやしたてるような姿勢を感じました。

野次馬的というか、目の前で見てみたくて「俺イギリスまで行っちゃうぜ」といったノリを感じる日本からの出発。

その男性は、小説『R・E・S・P・E・C・T』の主人公のひとりであるジャーナリスト・史奈子さんの元恋人です。

ロンドンへ集結することとなった『R・E・S・P・E・C・T』の登場人物たちを我々日本読者は「日本的視点」を踏まえて読み進めることとなるでしょう。

日本人読者への仲介者・史奈子さん

この小説『R・E・S・P・E・C・T』を読み進めていくにあたり、多くの読者が「見えない文化の壁」を感じるかもしれません。

実に小さいところに、考え方の違いが現れているような気がしました。

日本社会に苦しさを感じて、イギリス駐在記者となった史奈子さん。

イギリスの暮らしにも慣れていて、日本の文化もよく心得ている登場人物は『R・E・S・P・E・C・T』の中には史奈子さんに以外にいないと言ってもいいでしょう。

史奈子さんが一人称で語るパートにはそんな文化バリアフリーの要素があります。

日本的感覚からの疑問をイギリスではこうなのだよと解説してくれるのが、史奈子さんの役割なのだと思います。

彼女が同じようなことを言っていて、「なんだかその日本的感覚もわかる」というような文体で描いてくださることで、自分の認識は間違っていなかったことと、文化の違いがこんなところにも現れてくるんだということを読者に教えてくれます。

実際に史奈子さんはかなり日本寄りの思想の持ち主であることが読み進めるごとによくわかります。

そんな彼女がこの物語『R・E・S・P・E・C・T』の中にいてくれたことで私に与えられた影響は、とても大きかったと感じています。

貧しいということは

『R・E・S・P・E・C・T』の後半に、貧困について語られるこんな一節があります。

「貧しいということは、単にお金がないということだけではないからだ。それは、それが理由でほかの多くのものまで奪われてしまっている状況だ。いま知っていること以上の何かを教わる機会や、こことは違う新しい環境に出会うチャンス。自分に対する自信とか、明日やあさっての生活への安心とか、他人を信頼する勇気。」 

私はここにものすごく胸を打たれました。

彼女たちは住む場所に困るほどの貧しさに困っているはずなのに、日本の景気の悪さを嘆く私たちと同じような苦悩もまた、感じていると分かったからです。

ここ『R・E・S・P・E・C・T』で書かれているのは「卵が値上がりしていて買えない」とはまた違った貧しさのはずでした。

貧しさにはグラデーションがあると思います。

しかし貧しさの度合いが違うからといって、何もかもがまるっきり違うわけでは無いのだと思いました。

そしてお金がないこと、

お金がない家に生まれたことに対する「絶望」や「恨み」を持つ人を減らすことは、

政府のような大きな機関に属し、大きなお金を持つ人たちにしかできないことだと私も切に感じています。

では、貧しさを実感している人への「救い」になるのは一体どんなものでしょうか。

「あたしたちが求めているのは少しばかりのリスペクトなのです」

この小説タイトルの『R・E・S・P・E・C・T』や、小説はじめのスピーチで行われていた中の「あたしたちが求めているのは少しばかりのリスペクトなのです」 と言う言葉。

頻出するのは「リスペクト」という単語です。

私は『R・E・S・P・E・C・T』を読みながら、著者のブレイディみかこは読者に対してある問いを投げかけているのではないかと感じました。

「リスペクトを日本語に訳すとしたら」を1冊の小説を通して読者に投げかけているのではないかと感じています。

日本の学校教育で、「尊敬」と訳すように教わった日本人読者に向けて、「さああなたはリスペクトをなんと訳す?」と挑戦しているような気がしてならないのです。

小説『R・E・S・P・E・C・T』においての「リスペクト」

私は『R・E・S・P・E・C・T』冒頭のスピーチで「リスペクト」というのは、「自分が求めるもの」に対しても使うことができる単語だと初めて知りました。

権利や人権のようなニュアンスになることもあるのだろうと察しました。

そして自分がこの小説を読み終わった後に、さらに新しい訳が見つかるような気がしてわくわくしながら読みました。

結論、私はこの「リスペクト」を日本的にすると「基本的人権」「最低限度の文化的な生活」のようなものにあたるのではないかと考えています。

実際、小説『R・E・S・P・E・C・T』の最後の方で、この「リスペクト」の答えを著者は明かしていらっしゃいます。

「尊厳」と登場するのです。

正直、学校教育で習っていたものとそんなに変わらないし、「間違ってはいないけれどあまりクリエイティブではないなあ」とちょっぴり残念に思ってしまいました。

けれども、それも著の罠かもしれないと気がついたのです。

クリエイティブでないなあと思わせるような回答を小説の最後にあえて提示することによって、逆に「あなたが死守するべきリスペクトは何であるか」を読者に考えさせるきっかけをくれているような気もしました。

自分の人生の中において、死守するべきリスペクトは何かを考えさせられました。

ものすごくお上手に読者を誘導してくれる小説だと思います。

日本の学校教育で、「尊敬」と訳すように教わった日本人読者たちへ。

さあ、あなたは「リスペクト」をなんと訳す?

あなたもぜひ、この小説を読んで答えてください。

文:東 莉央

東 莉央

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