今こそロックンロールをこの手に
まだ二十歳前、新宿ルミネでアルバイトしていたぼくはある日、どうしても働きたくなくなって仮病を使ってバイトを早退した。どうして働きたくなくなったか? それは説明が難しい(ハード・トゥ・エクスプレイン)……。
急にやってくる怠け心は説明できないが、ストロークスのかっこよさは説明できる。それはストロークスが夢の中でバンドメンバーを集めたような(山崎洋一郎か粉川しのが言ってた気がする)完璧な佇まいだから。
伊達男のアルバート・ハモンドJR、ジョニー・サンダースのようにかっこよくギターを弾くニック・ヴァレンシ、クールでベーシスト然としたニコライ・フレイチュア、ムードメーカーのハンサムガイ ファブ・モレッティ、カリスマシンガー ジュリアン・カアサブランカス。
メンバー全員がこんなにキャラクターの立ったバンドというのも珍しい! ロックンロールバンドの理想を体現したようなその姿に当時のキッズたちは熱狂した。とにかくメンバーの立ち姿がかっこいい……! もちろんぼくも熱狂していたキッズの一人だったので、当時、ルミネに入っていた青山ブックセンター(現在はブックファースト)で、ストロークスが表紙のロッキンオンを購入して家に帰った(早退して)。
新宿駅の16番線ホームでロッキンオンを取り出す。表紙には赤字で《今こそロックンロールをこの手に》と書かれていた。
それは、2001年。911が起きるちょっと前。
俺は若すぎ、彼らは歳を取りすぎ
シングル曲のハード・トゥ・エクスプレインは、激タイト、激シンプル。最初のドラムが鳴り始めてギター、ベースが重なった瞬間、ジュリアンのボーカルが入った瞬間、毎回、はじめて聴いた曲のようにわくわくする。
シンプルなのに不思議と飽きの来ない、ロックンロールの高揚感をダイレクトに伝えてくれる最高の曲だ。
さて、この曲はどんなことを歌っているのか?
ハード・トゥ・エクスプレイン 和訳
Was an honest man
かつては正直者だった
Asked me for the phone
電話を欲しいと俺に頼んだ
Tried to take control
操ろうとした
Oh, I don’t see it that way
俺はそういう風には見ていない
I don’t see it that way
俺はそういう風には見ていない
Oh, we shared some ideas
いくつかのアイデアを共有した俺たち
All obsessed with fame
その全ては名声にとらわれていた
Says we’re all the same
俺達はみな同じだと言う
Oh, I don’t see it that way
俺はそういう風には見ていない
I don’t see it that way
俺はそういう風には見ていない
Raised in Carolina
カロライナで言った
“I’m not like that”
「私はそういう風じゃない」
Trying to remind her
彼女に思い出させようとしている
When we go back
俺達
がいつ戻るのかを
I missed the last bus,
最終のバスを逃した
I’ll take the next train
次の電車に乗ろう
I try but you see,
試してはみるけど、
it’s hard to explain
説明しづらいな
I say the right things,
正しい事を言って、
but act the wrong way
間違って行動する俺
I like it right here,
ここが好きだけど、
but I cannot stay
いつまでも居られない
I watch the TV;
TVを見て、
forget what I’m told
言われたことを忘れる
Well, I am too young,
俺は若すぎ、
and they are too old
彼らは歳を取りすぎ
The joke is on you,
君をネタにしたジョーク、
this place is a zoo
この場所は動物園
“You’re right it’s true”
「その通り、あなたは正しい」
Says he can’t decide
彼は決められないと言う
I shake my head to say
俺の頭を振り、言えよ
Everything’s just great
全てはただ素晴らしいと
Oh, I just can’t remember
俺はそういう風には見てない
I just can’t remember
俺はそういう風には見てない
Raised in Carolina, she says
カロライナで育った彼女は言う
” I’m not like that”
「私はそういう風じゃない」
Trying to remind her
彼女に思い出させようとしている
When we go back
俺達がいいつ戻るのかを
I say the right things
正しい事を言って、
but act the wrong way
間違って行動する俺
I like it right here
ここが好きだけど、
but I cannot stay
いつまでも居られない
I watch the TV
TVを見て
forget what I’m told
言われたことを忘れた
Well, I am too young,
俺は若すぎ、
and they are too old
彼らは歳を取りすぎ
Oh, man, can’t you see I’m nervous,
あぁ、俺が緊張してるんだって分からないかい?
so please Pretend to be nice,
親切な振りをしてくれ
so I can be mean
そうしたら俺は意地悪くするから
I miss the last bus,
最終のバスを逃した、
we take the next train
次の電車に乗ろう
I try but you see,
試してはみるけど
it’s hard to explain
説明しづらいな
The Strokes Hard To Explain 対訳:岡本将生
ブレット・イーストン・エリスという作家の処女作に『レス・ザン・ゼロ』という作品がある。
退廃的なヤッピーの生活を描いた作品で、金はあるし、満ち足りているのにどんどん損なわれていってしまう類の小説なんだけど、ジュリアンの書く歌詞にもそんな雰囲気が漂う。
ジュリアンは生まれながらの金持ちで、ニューヨークの名門スクールに通っていた不良で、自分に対する自信と不安と苛立ちが初期の歌詞には表れているように思う。レス・ザン・ゼロの登場人物のように。
正しい事を言って、間違って行動する俺
ここが好きだけど、いつまでも居られない
TVを見て、言われたことを忘れる
俺は若すぎ、彼らは歳を取りすぎ
都市生活者の若者の心理なのか、都会ゆえのディスコミュニケーションの物語なのか、説明のつかない憂鬱さと虚しさと曖昧さを感じる。
「まあ、とにかくこんな感じなんだ。説明しづらいけど」
そんな、ジュリアンのメッセージなのかな。
アルバムタイトルも『ディス・イズ・イット』じゃなくて『イズ・ディス・イット』だしね。
ぼくは2003年のサマーソニックでストロークスを観たことがある。原宿で買ったゴーストバスターズのTシャツを着て、まだ未発表だったレプティリアを披露したアレだ。
2020年のフジロックでは、少年から大人になった彼らがどんなパフォーマンスをするのか楽しみにしていたんだけど、、まあ、何も言うまい。今夜はキンキンに冷やしたハイネケンを飲もう(ジュリアンもよくハイネケン飲んでるよね!)。
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