ヴェルヴェット・アンダーグラウンド/ヨーロピアン・サン 歌詞考察

歌詞考察
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デルモア・シュウォーツに捧げられた曲“ヨーロピアン・サン”

名盤『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』を締めくくる曲はこの“ヨーロピアン・サン” ランニングベースで始まり、後半はカオスな即興演奏になだれこむ。このアルバムで最も実験性の高い曲。この曲があったからセカンドアルバムに入っている大名曲“シスター・レイ”が誕生したんじゃないかな、とも思う。

この曲は7分46秒、当時のロックシーンからするとおそろしく長い。だけど歌は開始50秒弱で歌い終えてしまう。

“ヨーロピアン・サン”デルモア・シュウォーツに捧げられたと言われている。

デルモア・シュウォーツ/夢で責任が始まる ブック・レビュー
ルー・リードの文学の師 デルモア・シュウォーツの傑作短編『夢で責任が始まる』ブック・レビュー 私的ライナーノーツ ロック 文学 wagatsuma-songs.com 

ルー・リードはなんの影響もなしに、ひとりでにルー・リードになったわけではない。

1960年にルー・リードはニューヨーク北部のシラキュース大学に入学する。そこで、アメリカの伝説的な詩人デルモア・シュウォーツと出会う。デルモア・シュウォーツは大学で英文学を教えていて、ルー・リードと、同級生でのちに一緒にバンドを組むことになるスターリング・モリソンはデルモア・シュウォーツを心酔するようになる。

デルモアとは親しかった。彼は偉大な詩作をしたが、途方もない男であり、そして、俺の知りうる最も不幸な人間のひとりでもなった。ある晩、俺と飲んで大騒ぎしをた時に、俺に腕をかけながらこう言った。『俺は近々死ぬ、解ってるだろ。でも、お前になら書ける。もし、総てを売り払い、あの世がお前に取り憑いて離れなくなったとしても、その時は、俺がお前に取り憑いてやるぜ』とね」

ルー・リード up₋tight ビクター・ボクリス ジェラード・マランガ共著 訳:羽積秀明
Delmore Schwartz Wikipediaより転載

デルモア・シュウォーツは驚異的な天才だったけど、憂鬱、鎮静剤、酒、酩酊、パラノイア……とにかく60年代の天才の身に起こりがちなことがすべて降りかかり1966年にアルコール中毒により亡くなる。

シュワルツはルー・リードにジェイムス・ジョイス『ユリシーズ』ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』を薦めて、ロックンロールと同時進行的に文学への傾倒も深めていく。

ただ、この恩師はルーと出会ってからたった2年後に亡くなってしまう。だけど、この2年間はルーにとってはとても大きかった。ソロになった後に発表した『ブルー・マスク』の1曲目”My House”はシュウォーツに捧げられているし、ドキュメンタリー映画『ロックンロール・ハート』でもはっきりとシュウォーツの影響を語っている。

※デルモア・シュウォーツは日本ではほとんど知名度がないけれど、『and Other Stories―とっておきのアメリカ小説12篇-村上春樹・柴田元幸・畑中佳樹・斎藤英治・川本三郎 1988/文藝春秋』で、シュワルツ著の『In Dreams Begin Responsibilities and Other Stories (夢で責任が始まる 翻訳:畑中佳樹)』が読めます。

ヨーロピアン・サン 和訳

おまえはヨーロッパの息子を殺したんだ

21才にもなってない彼に唾を吐いて

今悲しい理由は消えた

座って別れを告げるんだ、ヘイ、ヘイ

バイバイバイ

壁紙を緑にしたんだな

おまえのヨーロッパの息子は行ってしまったんだ

座って別れを告げるんだ、仲間からも

グッバイ

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド ”ヨーロピアン・サン” 対訳:梅沢葉子

今悲しい理由は消えた

実はこの歌詞、デルモア・シュウォーツについての歌詞ではない。

デルモア・シュウォーツはロックが大嫌いで、ロックの歌詞も認めていなかった(シュウォーツが亡くなるまでルー・リードは自分がロックをやっていることを隠していた)。

だけど、バンドは何かをシュウォーツに捧げたい。そこで一番歌詞の単語が少ないこの曲を捧げることに決めたというわけである。

じゃあ、ヨーロピアン・サンて誰なの? ってことだけどジョン・ケイルのことなのかな? と思った。このバンドでヨーロピアンなのはジョン・ケイルしかいないしね。

おまえはヨーロッパの息子を殺したんだ

21才にもなってない彼に唾を吐いて

今悲しい理由は消えた

座って別れを告げるんだ、ヘイ、ヘイ

バイバイバイ

「おまえ」というのが例えば「クラシック」の高等教育だと仮定して、21才のジョン・ケイルは、その高尚な世界を捨て去ってニューヨークのアンダーグラウンドに身を置くことになる、そんなストーリー。この”ヨーロピアン・サン”の無軌道な演奏を聴くとそんな風に感じてしまう。上品で高等なテクニックをこんな危険なサウンドで表現するっていうことに。

途中、この曲でガラスが割れる音が聴こえるが、あれはジョン・ケイルが何枚かの金属板に椅子をぶつける音らしい。この音が”ヨーロピアン・サン”を象徴していると言ってしまいたいぐらいの存在感だ。

『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』商業的には成功しなかった作品だけれど、いつ聴いても新しい発見と、新しい感覚が呼び起こされる。イマジネーションの源泉といえる名盤だと思う。

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