イーディ・セジウィック、宿命の女
『ヴェルベット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』のプロデューサー、アンディ・ウォーホルは音楽についてまったく口出しはしなかった。
ただ、バンドに2点だけ注文をつけた。
1、ニコをシンガーに立てろ
2、イーディ・セジウィックについての曲を作れ
1、についてルー・リードはかなり嫌だったらしいけどバンドがデビューできるなら、と承諾。
2、についてはウォーホルに「どんな曲にすればいいわけ?」と訊いたら「彼女はファム・ファタール(宿命の女)だと思わないか?」と言われ、ルー・リードが作曲し、ニコが歌うことになる。
イーディ・セジウィックについて
イーディス・ミンターン・セジウィックは、名門の家に生まれ、その美貌でモデルとして活躍、ニューヨークではウォーホルに見初められファクトリーに出入りして、社交界の注目の的、アメリカポップカルチャーのスーパースターとなる。その後、ボブ・ディランとの交際と破局があり、以前から常用していたドラッグ問題が深刻化。晩年は精神病院に入ったり、脱走したり、最期はオーバードーズで死去。享年28歳。絶頂と絶望を短期間で駆け抜けた。
アンディ・ウォーホルが「イーディの曲書いてよ」と頼んだときは、すでにイーディとは別れていた時期だったんだけど、ウォーホルはイーディの中に「宿命的な何か」を見ていたのかもしれない。
スーパースターの宿命。それは、永遠に飛び続けることはできないということなのかもしれない。
宿命の女 和訳
さあ、彼女が来た
足もと気をつけたほうがいいわ
彼女はあなたの心を切り裂くつもりよ
本当よ
全然わからないでしょう
嘘に彩られた彼女の瞳を見てみなさいよ
彼女はあなたを崩すために
あなたを持ち上げるのよ
なんてバカな奴
みんな知ってるのよ
喜ばせるために彼女が何をするか
彼女はただからかってるだけなのよ
あの歩き方を見なさいよ
あの話し方を聞いてなさいよ
彼女の本にあなたの事が書いてある
あなたは37番目だ、見てみなさいよ
しかめっ面させるために彼女は微笑むのよ
この道化者
坊や、彼女が町に出てるわ
自分のビートにあなたが乗る前に
彼女はあなたをからかうのよ
本当よ
ヴェルヴェット・アンダーグラウンド ”宿命の女” 対訳:AKIYAMA SISTERS INC
彼女はあなたを切り裂くつもりよ
ポップな小品といった曲に、ニコのどこか機械的で悲しげな歌と、ルーのなげやりなコーラスがユニークな存在感を作り上げている。
この手の曲だったら、美にフォーカスして……と思うのが当然な気がするけど、どこか素人っぽいというか、アンバランスな塩梅で、それゆえに忘れがたい一曲になっている。
この曲は前述の通り、イーディのことを主題にした曲だ。だけど、歌詞を読んで曲を聴いていると、ニコ自身が「宿命の女」なのでは? と思ってしまう。
嘘に彩られた彼女の瞳を見てみなさいよ
ニコは嘘つきで有名で、普段から嘘をつき続けていたらしい。生年月日やどこで生まれたか等も嘘をついていた。ニコのWikipediaを調べても出生についてはこんな感じ。
多くの資料では、ニコは1938年10月16日にドイツのケルンで生まれたとされるが、少なくとも2つの資料では1943年3月15日にハンガリーのブダペストで生まれたとしている[1
ニコ Wikipediaより引用
ニコ……ミステリアス。
彼女はあなたの心を切り裂くつもりよ
という、なんてことのない一節もニコが歌うと示唆的だ。
『ヴェルベット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』が発売された頃、すでにニコはバンドを離れ、セカンド・アルバム『ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート』が作られる時には、バンドはウォーホルから離れ、その後まもなく、ルー・リードとクリエイティブ面でのパートナーであったジョン・ケイルもヴェルヴェッツから離れることになる。
刹那を生きたヴェルヴェット・アンダーグラウンド。ニコはバンドに軋轢をもたらしたかもしれないけれど、ウォーホルから離れて、ジョン・ケイルが去り、ルー・リード主導で作られた三枚目のアルバムを聴くと(いいアルバムなんだけど)、やはり混沌とした(それゆえに完璧な)1枚目こそがヴェルヴェット・アンダーグラウンドらしく聴こえるし、これこそがふさわしい宿命だったんじゃないかなとも思うんだ。
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