さまざまなアーティストを魅了したポップ・ソング
『ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート』で最もポップで、フックのあるメロディを持った曲がこの“ヒア・シー・カムズ・ナウ”だ。
いくぶんぶっきらぼうに、ストレートに歌うルー・リード。キャッチーでポップなのに、どこかダークな雰囲気。
ニルヴァーナのカヴァーが有名で、バンドはパワフルにダイナミックに演奏している。シンプルなこの曲は、静から動のニルヴァーナスタイルにバッチリハマっていて、聴いていてほほえましい気持ちになってくる。
クオリティの高いカヴァーは、ギャラクシー500のもの。テンポをグッと落として、ダウナーにドラッギーに演奏している。マジ、好演なので聴いてみてほしい。コーラスが入ってくるところなんか凄く美しいから!
カオスで尺の長い曲が割合をしめる『ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート』で、この曲はたった2分という短さ。ゆえに際立っているともいえるよね。
ヒア・シー・カムズ・ナウ 和訳
もし今彼女が来たら
今、彼女が来たら
もし、今彼女が来たら
今、今、彼女が来たら
今、彼女が来たら
今、彼女が来たら
ああ、いいじゃないか
彼女が森から出てきたよ
ほら、見てみろよ
ああ、それは木製なんだ
いいから、見てみろよ
もし、今彼女が来たら、彼女が来たら
もし、今、彼女が来たら
今、彼女が来たら
今、今、今、彼女が来たら
もし、今、彼女が来たら……
VELVET UNDERGROUND Here She Comes Now TRANSLATED BY AKIYAMA SISTERS INC.E.
もし、今、彼女が来たら……
おそらくこの曲の歌詞に意味はない。アイデア一発で、展開をさせずに( ホワイト・ライト/ホワイト・ヒ ート的な方法論で)サクッと録られた曲だと思う。
だけど、「 もし今彼女が来たら」のリフレインがあまりにもしつこく繰り返されるから、ちょっとだけ考えてしまう。
来るのはいったい何なのか? って。
ルー・リードが「彼女(SHE)」と呼ぶものはいったいなんなんだろう?
舌足らずに、ふてぶてしく、呪術的に繰り返される「もし今彼女が来たら」って?
そもそもこの登場人物は、彼女が来るのを望んでいるのだろうか? うーん、わからない。
でも、 “ヒア・シー・カムズ・ナウ” はこれでいいんだと思う。
この曲が歌っているのは「答え」じゃなくて「可能性」なんだから。
「彼女」が来るかもしれない可能性について。
「彼女」は歌い手によっては「ドラッグ」や「欲望」、「危機」、「怖れ」、もしくは「待ちわびた恋」になるかもしれないし、そもそも「彼女」は来ないかもしれない。
永遠に未完成な雰囲気をもつこの曲は、『ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート』という黒い海の上で、何色にも染まらず、ぷかぷかと浮かんでいる。

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