サーストン・ムーア 『サイキック・ハーツ』 サイキック・ハーツ 歌詞考察

歌詞考察
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ギター・マガジンの表紙にサーストン・ムーアが!?

2021年4月号のギターマガジンに「90年代オルタナ革命」と銘打った特集で、サーストン・ムーアが表紙を飾った! ギターマガジンといえば正統なギタリストを特集するイメージがあったので、かなり驚いた。おそらくギターマガジン史上一番“弾けない”ギタリストがカバーを飾ったんじゃないだろうか。

サーストン・ムーアは“弾けない”ギタリストではあるかもしれないけれど、誰よりもギターをロックさせるギタリストだから、同じ“弾けない”ギタリストであるぼくとしては憧れの存在である。

サーストンは、ある意味ギター界の革命児で、ロック界のダダイストといえる存在だと思う。自分の担当楽器であるギターの腕を上達させる、という当然ともいえる行為を放棄して、独自のアイデアによって、ギターの違う側面、価値を押し出した。変則チューニングや、ドラムスティックを弦とピックアップの隙間に挟んでピッチを上げる奏法や、ギターをアンプに擦りつけてフィードバックを出す奏法など、アンチギター奏法ともいえるアイデアだ。

今号のギターマガジンでは、過去のインタビューや機材紹介なども掲載されているので、オルタナティブなみなさんはぜひ観てほしい。

パンクへのラブレター

ソニック・ユースはニューヨークのアートシーンや実験性、パンクの影響下で生まれたバンドだけれど、一番パンクの影響を受けたのはサーストン・ムーアだと思う。

ラモーンズ、MC5、テレビジョン、パティ・スミスというアーティストに痺れたサーストンは、リー・ラナルドやキム・ゴードンと出会い、自身のバンドで実験性を高めていくけれど、サーストン少年のルーツはストーレートなロック・ミュージック。パンク前夜の原初パンクだった。

自身初のソロ・アルバム『サイキック・ハーツ』のタイトル・トラック “サイキック・ハーツ”で、サーストンはシンプルでむき出しのロックを演奏している。ドラム、スティーブ・シェリーのこれ以上シンプルにできないよ、というような激タイトなリズムと、畳み込むようなサーストンの言葉。ここにはパンク前夜の響きが鳴っている。それは、実験性の衣を脱いだ、むき出しのサーストンの精神性といったようなもので、べらぼうにかっこいい。Fワード搭載のパンクへのラブレター。

歌詞は以下の通り

サイキック・ハーツ 和訳

知ってるよ、おまえの人生メチャクチャだったって

バカげた街に育ち

母親は精神異常

父親はただのスケこまし

いささか身の程知らず

できればあいつを殺してやりたい

やかましい連中を皆殺しにして

あいつらには面白いらしいタワごとも抹殺したい

学校ではガキどもがおまえを売女呼ばわり

何てことない ― あいつら何のつもりなんだ

あの愚かどもめが

 ― アホな負け犬たちが幸運を吸い尽す

行き場がない ― おまえの世界

僕が取り戻してやれるならそうするよ

そしてあいつらを街中から一掃だ

この街を僕が引っ繰り返してやる

おまえのことをそんなによく知ってるわけでもないのに

どうしたんだろう ― 夏の魔力か

どんな気分だろう

誰も自分を分かってくれないなんて

虐待され、利用され、ボロボロになって

用もないズルい男どものせい

笑ってばかり、ハイになりたくて

偽りを隠そうともしない

あいつらがそれを狂わせた、それは確かだ

破れたハートを今は毛皮に包むおまえは

セックスの異常さを知っている

魔法の力で苦しみは消える気がする

頭の中を巡るあれこれが

自分のせいだと思わせる

そんなふうに考えるなよ ― 忘れてしまいな

万人を愛せ、そう口に出せ

おまえを卑しめた嫌な奴らと闘え

スゴイのが迷いから覚めたと叫ぶんだ

何が正しいのか教えてもらわなくてもいい、と

みんな間違ったものばかり信じ込んでいる、と

悲しみが今も昔も、これからも続くのは

慰めをもたらすのが最も遠いところにいる人だから

でも悲しい歌にさいている時間はない

おまえに言われなくても僕はクレイジー

舌を突き出して僕をごらん

嚙み切ってやるから

おまえをひざまづかせてやるから

だらしなさを笑い飛ばすかい

女は他にもいるけれど

僕を落ち込ませるのはおまえだけ

心霊たちがおまえを襲う

心霊たちがおまえを照らす

全て計画通りいくように祈るよ

そしておまえが好きに生きてくれるように

ただ僕のために1つだけ覚えておいてくれ

いつだって僕はおまえを愛している

いつだって僕はおまえを愛している

サーストン・ムーア サイキック・ハーツ 対訳:染谷和美

魔法の力で苦しみは消える気がする

サーストン・ムーアは言う。

知ってるよ、おまえの人生メチャクチャだったって

そこから機関銃のように悲惨な情景をまくしたてる。

きみは、バカげた街に育ち母親は精神異常父親はただのスケこまし

そしてこの不遇な状況に憎悪を抱いている(できればあいつを殺してやりたい、やかましい連中を皆殺しにして、あいつらには面白いらしいタワごとも抹殺したい)

あいつらには面白いらしいタワごとも抹殺したいというフレーズがいいよね。実際、アウトサイダーな性質をもった少年少女たちは、同級生たちが夢中になっていることに対してバリバリアンチだもの。

サーストンは言う。

行き場がない ― おまえの世界

僕が取り戻してやれるならそうするよ

そしてあいつらを街中から一掃だ

この街を僕が引っ繰り返してやる

まるでナイトのような発言。きっと、少年時代に何度も考えていたことなんだろうな。行き場のない思いを抱えた女の子をここから連れて行ってやる、って。

魔法の力で苦しみは消える気がする

「おまえの世界を取り戻す」のには魔法の力が必要だ。

続けてサーストンは、「スゴイのが迷いから覚めたと叫ぶんだ」と言う。そして「悲しい歌にさいている時間はない」とも言う。

不遇を燃料に自分を解き放てというメッセージに感じる。

心霊たちがおまえを襲う

心霊たちがおまえを照らす

サイキック・ハーツがおまえを襲い、照らす。サーストンは超能力を信じている。サイキック――超能力というものは同じ能力を持った人間同士がやり取りできるツールだ。ここでサーストンは「ぼくもおまえも一緒なんだ」と言っている。人生メチャクチャなきみとぼくは回路がつながっている、と歌っているんだ。つまりこの曲はマイノリティ(アウトサイダー)側にぼくは立つ、という宣言ともいえる。正統なプレイにアンチテーゼを突き付けるサーストンらしいパンク・ソングだ。

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