ルー・リードの炸裂するギター
“アイ・ハード・ハー・コール・マイ・ネーム”はぶっちぎりのロック・ナンバーだ。イントロからフルスロットルでカーブを曲がっていくようなスリリングさ、ひりつくルー・リードのハウリング・ギター。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドらしさが全開だ。
ジョン・ケイルもそのギター・プレイには素直に賛辞を送っている。曰く「彼はイカレている。彼が演奏しているもの以上に、ヤツの行っているもの、その精神性に根差しているんだ」
ルー・リードのギタリストとしての精神性。それはジョン・ケージの未来で、ソニック・ユースの過去だ。つまりはギターを技術とは別のものとして表現すること。オルタナティヴロックの元祖ともいうべきアティテュードが “アイ・ハード・ハー・コール・マイ・ネーム”に現れている。
アイ・ハード・ハー・コール・マイ・ネーム 和訳
カウントダウンが始まった
過ぎていく、過ぎていく、過ぎていく
用意して、用意して、用意して、用意して
目を大きく見開いて
ただの美しい月曜日だと思ってた
目玉が膝に落ちてきた
散歩をしたよ、アリソンだ、テッド、ウィリアムスも
彼女は俺の言葉が全然理解できないってさ、だって
彼女は俺に気があるから
彼女が俺の名前を呼んでるのを聞いたんだ
彼女はずっと前からいないんだ
でも前と同じじゃないさ(彼女は同じじゃないさ)
朝俺が目を覚ますと
彼女が俺の名前を呼ぶのが聞こえるんだ
行くわ、行くわ、行くわって彼女は行ったけど
彼女の呼ぶ声が聞こえたんだ
おまえもちょっと決心したほうがいいぜ……
俺の心は大きく引き裂かれてる
VELVET UNDERGROUND I Heard Her Call My Name TRANSLATED BY AKIYAMA SISTERS INC.E.
俺の心は大きく引き裂かれてる
混乱した心を表現するように、ルー・リードはまくしたてるように歌い、ギターを弾きまくる。
歌詞を読むと、彼女との破局を歌っているようだ( 彼女は俺の言葉が全然理解できないってさ/ 俺の心は大きく引き裂かれてる)。
ただ、演奏の暴力性と無秩序さを考えるとどうしても、「惚れた別れた」だけの曲には聴こえない。
ただの美しい月曜日だと思ってた
目玉が膝に落ちてきた
のグロテスクな突飛さもいささか奇妙だ。まあ、ルー・リードだからね、ってのもあるけれど、意味深に 、カウントダウンが始まった という曲の出だしを考えると、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの崩壊を描いているような気がしてならない。つまり、ルー・リードとジョン・ケイルの決別だ。
ジョン・ケイルは、『ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート』発表後、バンドを脱退する。
ルーとジョンは互いに惹かれ合い、互いに憎しみ合っていた。ルーは自分の書く歌詞に入れ込み、ジョンはサウンド面のほうに関心を向けた。お互いの演奏には素直に賛辞を向けても、バンドの中心である二人のエゴは肥大していき、ツアー中には殴り合いの喧嘩をするようになる。
この曲でも音量合戦のように、 俺の心は大きく引き裂かれてる と歌ったあとにルー・リードはファズペダルを踏んで、バックのリズムを無視してハウリングさせたギターを弾き倒す。
歌詞の通り、崩壊のカウントダウンは始まっていたのかもしれない。 “アイ・ハード・ハー・コール・マイ・ネーム” は火花を散らした二人の天才のドキュメントだ。
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