エッセイ 『キッズ・アー・オールライト』 我妻許史

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第七回『キッズ・アー・オールライト』

 この夏、引っ越しをした。俺は西荻窪という狭い地域の中だけで6回引っ越しを経験しているというなかなかタフな西荻ラヴァーで、いつか西荻窪マイスターの称号が与えられると思っている(表彰式はこけし屋の駐車場でやってほしい)。これだけ西荻窪内を転々としていると、西荻内、東西南北のすべてに住んだ経験があり、今回の住まいで北に住むのは2回目となる。1回目はキッズのころに住んでいた。ガキは単純だ。単純に行動し、考えは短絡的、喚くし、吠えるし、すぐ泣き、歌い、踊る。今の俺はおっさんだから、それなりの社会性を獲得しちゃってるし(本当にぃ?)、ガキのころよりは思慮深くなっている(はず)と思う。その証拠に俺は忍耐強くなった。現在の俺は自宅に帰るとき、かなりの遠回りをして帰っている。キッズ時代は真っ直ぐ、最短距離で帰っていたけれど、今の俺は街の呼吸を楽しむことができる。

 牛の速度で歩いていると、なかなか面白い発見がある。隠れ家的な店や、妙な建造物や、変な看板、用途不明の機器、珍妙なオブジェ、犬を散歩する人たち、路上を我が物顔で闊歩する猫たち……。猫にカメラを向けると警戒して尻尾を立てる。「にゃお」  輝ける忍耐で武装した俺には、お気に入りの道がある。それは西荻窪図書館から荻窪八幡に突き当たるストレートの道。この通りを北上していると、清浄で静謐な気持ちになれる。きっとキッズには退屈な道だろう(そりゃ乙女ロードのほうが楽しいさ)。だけど、壁の花になっちゃうようなタイプの少年少女にはけっこうおすすめだよ。孤独もたまにはいいものなんだ。ベイビー、キッズ・アー・オールライト。

我妻許史

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