W.G.ゼーバルト/アウステルリッツ ブックレビュー

レビュー/雑記
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最も透明な戦争文学

ユダヤ人迫害の物語を描くとき、憎悪や怒り、悲しみを抜きにして書くことは可能なのか? 俺は絶対に無理だと思っていた。圧倒的な出来事には、圧倒的な熱量、感情が必要だと思うから。

アウステルリッツ[新装版] - 白水社
全米批評家協会賞ほか、多数受賞の最高傑作 建築史家の主人公が語る暴力と権力の歴史 建築史家のアウステルリッツは、帝国主義の遺物の駅舎、要塞、病院、監獄を巡り、〈私〉に暴力と権力の歴史を語る。解説:多和

全米批評家協会賞ほか、多数受賞の最高傑作
建築史家の主人公が語る暴力と権力の歴史

建築史家のアウステルリッツは、帝国主義の遺物の駅舎、要塞、病院、監獄を巡り、〈私〉に暴力と権力の歴史を語る。解説:多和田葉子

ウェールズの建築史家アウステルリッツは、帝国主義の遺物である駅舎、裁判所、要塞、病院、監獄の建物に興味をひかれ、ヨーロッパ諸都市を巡っている。そして、彼の話の聞き手であり、本書の語り手である〈私〉にむかって、博識を開陳する。それは近代における暴力と権力の歴史とも重なり合っていく。
歴史との対峙は、まぎれもなくアウステルリッツ自身の身にも起こっていた。彼は自分でもしかとわからない理由から、どこにいても、だれといても心の安らぎを得られなかった。彼も実は、戦禍により幼くして名前と故郷と言語を喪失した存在なのだ。自らの過去を探す旅を続けるアウステルリッツ。建物や風景を目にした瞬間に、フラッシュバックのようによみがえる、封印され、忘却された記憶……それは個人と歴史の深みへと降りていく旅だった……。
多くの写真を挿み、小説とも、エッセイとも、旅行記とも、回想録ともつかない、独自の世界が創造される。全米批評家協会賞、ハイネ賞、ブレーメン文学賞など多数受賞、「二十世紀が遺した最後の偉大な作家」による最高傑作。
多和田葉子氏の解説「異言語のメランコリー」を巻末に収録。

[原題]AUSTERLITZ

[著者略歴]
W・G・ゼーバルト
W.G.SEBALD
1944年、ドイツ・アルゴイ地方ヴェルタッハ生まれ。フライブルク大学、スイスのフリブール大学でドイツ文学を修めた後、マンチェスター大学に講師として赴任。イギリスを定住の地とし、イースト・アングリア大学のヨーロッパ文学の教授となった。散文作品『目眩まし』『移民たち 四つの長い物語』『土星の環 イギリス行脚』を発表し、ベルリン文学賞、ハイネ賞など数多くの賞に輝いた。遺作となった散文作品『アウステルリッツ』も、全米批評家協会賞、ハイネ賞、ブレーメン文学賞を受賞し、将来のノーベル文学賞候補と目された。エッセイ・評論作品『空襲と文学』『カンポ・サント』『鄙の宿』も邦訳刊行されている。2001年、住まいのあるイギリス・ノリッジで自動車事故に遭い、他界した。

白水社

『アウステルリッツ』の凄いところは、徹底的な客観性があるところだ。
自分のルーツを求める失われた男、アウステルリッツはヨーロッパ各地を渡り歩き、駅舎、図書館、要塞、監獄ーーそれらの建物を見る。そして、アウステルリッツは語る。その語りからホロコーストの悲劇を感じることはできない。彼は失われてしまっているからだ。
 
『流刑地にて』を書いたフランツ・カフカは拷問器具を執拗に描写することで暴力以上の恐怖を描いた。

フランツ・カフカ 『流刑地にて』

『アウステルリッツ』も同様、失われたものを執拗に描くことで、極上の哀しみ、虚しさ、喪失感を描いた(戦争を描かないことで戦争を描いた)。

とても美しい小説だ。ほかにこんな本はなかなかないよ。
『アウステルリッツ』は、世界で最も透明な戦争文学だと思うんだ。と我妻は語った。

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