3年に1度開催される国際芸術祭
2020年8月17日、猛暑の横浜。
コロナで開催がどうなるかと思っていたけれど、無事行われることになった横浜トリエンナーレ。ぼくの住んでいる西荻窪から一時間以上かけて行ってきた。
今回のアーティスティック・ディレクターは、3名のインド人アーティスト集団「ラクス・メディア・コレクティヴ」
トリエンナーレのコンセプトは「AFTERGLOW-光の破片をつかまえる」
そして5つのテーマは
- 独学:自ら学ぶこと
- 発光:学んで光を外に放つこと
- 友情:光の中で友情を育むこと
- ケア:互いをいつくしむこと
- 毒:世界に否応なく存在する毒と共存すること
ケアや毒というキーワードが入っているのが現代的でまさに『今』この時のための芸術祭だな、と思う。
ニック・ケイヴ《回転する森》
メイン会場の横浜美術館を入ると、きらきらと美しい飾りが天井から吊るされている。
コンセプトの「AFTERGLOW-光の破片をつかまえる」に相応しい作品だ、と思ったけれど、ぶら下がっている作品の中には「ピストル」が潜んでいたり、きらきら社会に潜む闇も表現されていた。テーマの“毒と共存する”ということだね。
Instagramで横浜トリエンナーレ2020を検索すると、この作品をアップしてる人がダントツに多い。それだけ存在感もあるし、メイン会場のエントランスにある作品だしね。だけど、きらきらしていて綺麗だから、ってだけじゃなくて光の中には怖いものも潜んでいるってのも気づかなくちゃ!
ティナ・ハヴロック・スティーヴンス 《ゴーストクラス》(スティル), 2015
今展示でのお気に入りの一つ。モハーベ砂漠で、朽ち果てた飛行機の中でドラムの即興演奏をする作品。日が沈むまで行われるというから驚き……! 映像作品というよりは、もはやスピリチュアルな作品。
ズザ・ゴリンスカ《助走》, 2015
ポーランド生まれの女性作家の作品。靴を脱いで、作品の上を歩けるようになっている。階段状になっているところが想像以上に沈むので助走は無理です……。ただ、公共の場で靴を脱ぐって行為に解放感があって、次の作品への助走になっている気がした。
金氏 徹平 《White Discharge(フィギュア / 73)》, 2003
グロテスクでポップで目を奪われる作品。どこかで見たことあるな、と思ったら村田沙耶香の『コンビニ人間』の表紙のオブジェを作った人だった。この作者の金氏 徹平は、とても現代的な作家なんだと思う。かっこいい。
レーヌカ・ラジーヴ《国際的最下層に属する食糧供給者の最上から降り注ぐ力》
地味な作品だからか、多くの人が素通りしていたこの作品。作品タイトルは『国際的最下層に属する食糧供給者の最上から降り注ぐ力』薄い布に「この世界はいまだに貧困に満ちている」というメッセージが込められている。
佐藤 雅晴《浴室》
2018年9月に余命宣告を受けた佐藤 雅晴が晩年に制作した作品の一つ。作者の透明な視点が心を打つ。
横浜美術館からプロット48へ
プロット48
もう一つの会場であるプロット48へ移動。炎天下の移動は骨が折れる。かなりの量の水分を補給したけれど、ほとんどが汗で蒸発してしまう。
ジョイス・ホー 《バランシング・アクト Ⅱ》
入り口前のこちらの柵も作品の一つ。
押すと揺れる扉。黒く、重く、飾り気のない扉は倒れることはなく、ただ揺れるだけ。
ラス・リグタス《メイキング・プラネット・ブルー》, 2020
ラス・リグタス《メイキング・プラネット・ブルー》, 2020
SNS配信動画とダブルベッドに人形が配置された作品。
NNNI《SEX Cave of Funny Red and Busy Boy》
今展示の中で一番ぶっ飛んだ作品。この扉をくぐると……
NNNI《SEX Cave of Funny Red and Busy Boy》
NNNI《SEX Cave of Funny Red and Busy Boy》
R15指定なので全ては見せれないんだけど(けっこう過激)、どういう作品かというと、そもそもこのプロット48の2階の展示スペースの約半分が、エレナ・ノックスの《ヴォルカナ・ブレインストーム(ホットラーバ・バージョン)》(2019/2020)という作品スペースになっていて、共通のテーマで、様々なアーティストによる作品や、過去のワークショップで制作された作品が集まっている。
テーマというのが「どうすればエビをセクシーな気分にさせられるのか」というもの。
エコスフィアという環境システム(太陽光さえあれば、海藻、バクテリア、エビが自己循環を行い完璧に生態系が存続する)を作っても、なぜかエビたちは、繁殖することをやめてしまう。
そこでこのエレナ・レックス+グループたちは「エビのためのポルノグラフィー」を制作することとなる。
……ぶっ飛んでる。
NNNIというDee Leeと牧 唯による2人組アートユニットは、扉の中の狭い空間でSEX Cave of Funny Red and Busy Boyという作品で、エビのためのポルノ雑誌「FETISHRIMP」と、Shrimp Burger Devouring Loveというオブジェ作品と、Can’t Take My Eyes Off Youという音楽と映像の作品を展開している。
最初は、ユーモアが勝っていたんだけど、作品名の「SEX Cave of Funny Red and Busy Boy」の通り、ぼくたちって、性愛や恋愛に囚われて身動きがとれなくなる時ってあるもんな、と思いシリアスな気分に。
恋愛は本人たちが真剣なほど、周りから見れば滑稽に映るものだったりするんだよな……
NNNI《SEX Cave of Funny Red and Busy Boy》
……!!!別室に覗き穴あった!
真剣に「この作品とは…」と唸っていると別室から覗かれているのでご注意を!
光と毒
今回の展示を数時間かけて巡っている間に、光と毒について考えていた。真っ先に頭に浮かんだのは「情報」
インターネットで必要な情報を取得する。
とても便利だ。電車の乗り換えや、初めて行く場所への地図案内、ネットショッピング…もうこれらがない生活は考えられない。
それによってぼくたちは、頭を使わなくなった。思考をしない、想像をしない。
SNSの情報は四六時中チェックしないと気が済まない。自分がいない時に面白い話題が起こっていたら、と気が気じゃない。電車に乗っている時、仕事の合間、ランチをしている最中、常にSNSをチェックしてしまう。便利さと快感が毒になってしまっている。だけど、便利さと快感を知ってしまったら後戻りするのは難しい。毒と共存する道を探さなくては。
現代アートは「わからない」ことが多い。わからないから考える。自分の頭で作品に問われていることを問う。
ぼくたちは「わからない」ことがおっかない。
だけど、わからないことをわからない状態に置くことはきっと悪いことじゃないと思うんだ。多分。 わからないことを、インスタントに、お手軽に「わかった」と思ってしまうよりは、きっと健全なことだと思うから。

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