レディ・ゴダイヴァの手術
これはレディ・ゴダイヴァ伝説に関するバロウズ的解釈。
『アップ・タイト』 ビクター・ボクリス ジェラード・マランガ共著 訳:羽積秀明
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのインタビューをまとめたバイオ本に簡潔に書かれた“レディ・ゴダイヴァズ・オペレイション”の解説だ。
そもそもレディ・ゴダイヴァ伝説ってなんなの? ってことなんだけど、 レディ・ゴダイヴァは高級チョコレート「GODIVA」の由来になった人物で、自己犠牲と博愛の象徴として語られる。
野心家のレオフリック伯爵は領民に重税をかけ、都市を発展させようと考える。妻の レディ・ゴダイヴァは、心優しい人だったので、貧しい領民へ重税を課すことを反対する。
伯爵は「 もしおまえが一糸まとわぬ姿で馬に乗り、町中を廻れたなら、その時は税を引き下げよう 」と彼女に告げる。
翌朝、彼女は一糸まとわぬ姿で馬に乗り町を廻る。そして伯爵は約束を守り、税は引き下げられた。
このエピソードから 「GODIVA」のロゴは馬に跨った裸の女性になったってわけなんだね。
さあ、そんな聖女の レディ・ゴダイヴァなんだけど、タイトルの “ レディ・ゴダイヴァ の手術 ”ってなんのことなんだろう? 歌詞を見ていこう。
レディ・ゴダイヴァズ・オペレイション 和訳
レディ・ゴダイヴァはそれはもう慎み深い装いで
別のカーリー・ヘアーの男の子の頭を結んでる
ただ他の男の子さ
沈黙に嫌気がさして彼女はすすり泣く
すでにはっきり言われた言葉を
くり返してる
ずっと前に行った事を
厚地のカーテンが優しく彼女の肩を包む
人生は彼女をずいぶん勇敢にした
彼女は町を見つけたのっさ
絹にラテン・レース、妬みを身にまとい
プライドと喜びで過ごした安物市
つかのまの気づかい
今日の彼女の髪はずぶぬれ
どんな哀れな男ともセックスするのさ
そりゃ楽しいかい
妬みと共に優雅さを支えにして
誰かが来てるかどうかレディ・ゴダイヴァが現れる
彼女は気にしちゃいないさ
医者が来た、看護婦は愛らしく考える
きちんと空気を吐き出す機械のスイッチを入れて
裸の体が横たわる
かつて叫ばれた
不注意さは放っておいて
漂う静寂、ほとんど眠りの中
雨は止むべきだ
冷たい白いテーブルに安全ひも
エーテルは体を衰えさせ
白い光の下で目覚めさせる
ナイフと包みを持って医者がやって来た
腫瘍がたいそう大事にされてるのがわかる
これは切除してはいけない
そして偉大なる決断の時が
今やってくる
医者は初めての調査を行う
ひとつはここに、ひとつはそこに
誰かがとても優しく言う
濡れた管は放っておけって
患者は真から眠っていないようだ
寝息がホール中にこだまする
代わりにペンタソールを与えようなんて
決めちゃいけない
医者は頭から
籠と魂を取り去った
俺が10を数えるまで頭は動かない
VELVET UNDERGROUND Lady Godiva’s Operation TRANSLATED BY AKIYAMA SISTERS INC.E.
医者は頭から魂を取り去った
この歌詞を見て思うのは、この世界で描かれる レディ・ゴダイヴァ は、決して聖女ではないということだ。それどころか堕落した姿で描かれる( 今日の彼女の髪はずぶぬれ どんな哀れな男ともセックスするのさ )。
レディ・ゴダイヴァは 手術台に寝かされ、ロボトミーのような手術( 医者は頭から籠と魂を取り去った )を施されている場面で幕を閉じる。
バイセクシャル的傾向のあったルー・リードは、少年時代に電気ショック療法を受ける。当時は、LGBTの理解は現在とは程遠く、「病気」と見なされていた。精神病院で行う電気ショックは、同性愛の写真を見せて電気を流し、異性愛の写真の時は電気を流さないという原始的で危険なもので(この治療は植物人間になる可能性もあった)、ルー・リードのトラウマになったに違いない。
この曲では、そのトラウマ体験と聖女 レディ ・ゴダイヴァを掛け合わせた物語となっている。
聖なるものとされている人物を堕落したものと描くことによって、ルー・リードは、自分の音楽的立ち位置を表明しているように感じる。価値の反転――不快で醜悪なものを描き切ること。タブーに自由であること。この辺が「バロウズ的」というところなのかも。
恐ろしい曲だよ。医者のあくまで清潔で、善で、無感覚な描写が不気味で、素晴らしい。さすが「アンダーグラウンド」と自ら名乗るバンドである。
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