ニューヨークのハーレム地区でドラッグの売人を待つ
アイム・ウェイテング・フォー・マイ・マン、ここで待っているマイ・マンとはドラッグの売人のことだ。軽快で直線的なロック・アンド・ロールで演奏されるこの曲からはドラッグの重苦しさがまったく感じない。まるでホットドックを買いに行くような調子で主人公はヘロインを買いに出かけている。
この曲は「ドラッグを買いに行く曲」で、それ以上でもそれ以下でもなさそうだ。
ビクター・ボクリス ジェラード・マランガ共著の『up₋tight』を見てもこう書いてある。
「僕は待ち人」:これはハーレムでヘロインを入手することを歌っている
up₋tight ビクター・ボクリス ジェラード・マランガ共著 訳:羽積秀明
実に簡潔! 歌詞を見ていこう。
僕は待ち人 和訳
俺のオトコを待ってるんだ
26ドル手に握って
レキシントンでね、1時から5時まで
気分悪いぜ、汚くて
生きたここちもしやしない
俺のオトコを待ってるんだ
ヘイ、ホワイト・ボーイ、何してるんだい
そんな山の手で
ヘイ、ホワイト・ボーイ
この辺の女を追いかけ回すなよ
俺に歓声をあげてくれよ、サー、心から出てくるんだ
俺はただ二通りの自分て奴を
探してるのさ
俺のオトコを待ってるんだ
来たぜ、黒ずくめだ
さあ、おまえの靴に麦わら帽子だ
奴は絶対早めには来ない、必ず遅れるんだ
まず知っておいたほうがいいのは
おまえはいつだって待ちぼうけってことさ
俺のオトコを待ってるんだ
ずっとそうしてるんだ
裕福階級の二人、階段での喧嘩
パーティじゃ誰もおまえを突き刺せない
誰も気にしちゃいないのさ
奴には仕事がある
さあ、お好みの甘さだよ
待ってる時間なんかないから
おまえは唾を吐き捨てる
俺のオトコを待ってるんだ
ベイビー、そんなの持つんじゃない
名前を読んで叫んだりするんじゃない
いい気分だ
うまくやれると思うよ
いい気分だ、最高さ
明日までだ
時間がある
俺のオトコを待ってるんだ
家まで歩いていくのさ
ヴェルヴェット・アンダーグラウンド ”僕は待ち人” 対訳:AKIYAMA SISTERS INC
ストーリー・テラーとしてのルー・リード
この曲のストーリーは、主人公が黒人街(黒人とは書いていないけどおそらく非白人)にヘロインを買いに行き、その途中でワイルドな非白人に
ヘイ、ホワイト・ボーイ、何してるんだい
そんな山の手で(山の手→アップタウン)
ヘイ、ホワイト・ボーイ
この辺の女を追いかけ回すなよ(俺らのなわばりで俺らの女にちょっかいかけんなよって感じ?)
と脅され、ビビりながら、なんとか遅れてきた黒ずくめの男からヘロインを買っていい気分になる。だけど、ヘロインの陶酔効果は一晩かぎり。でも明日までは時間があるし、まあいいか。という話。
なんというかコミカルで漫画的な曲だ。
『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』というアルバムにはいろいろなストーリーがちりばめられていて、小説を読んでいるような気分になる。
ルー・リードはドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』のロック版を作りたいと考えていたらしい。だからだろう。どの曲もキャラクターの個性が際立っている。普通、ファーストアルバムだったらどうしても自我(エゴ)が全面に出てきがちだけど、作家ルー・リードの目線はニューヨークの暗部を描くことに徹しているような気がする。もちろん、自分の体験をベースにした曲もあるんだろうけど、このアルバムの曲を見ていくと、どの曲も「その曲固有のキャラクター、物語」が存在しているように思える。
ソングライターであり、ストーリー・テラーとしてのルー・リード。そのルー・リードの「物語を書く」才能を楽しみながらこのアルバムを聴いていくのも面白いと思う。
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