マゾッホの同名小説にインスパイア
毛皮のヴィーナス、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの傑作のひとつだと思う。
文学的で、退廃的で、妖しく、アンダーグラウンド的で、音楽的にも素晴らしい。
SMのSの語源はサド侯爵、そしてMの語源が『毛皮を着たヴィーナス』(原題:Venus im Pelz)の作者、レーオポルト・フォン・ザッハー=マーゾッホだ。
『毛皮を着たヴィーナス』
登場人物の青年ゼヴェリーンは、女の奴隷になりたい。毛皮の似合う愛する女性ワンダをサディストになるよう調教して、主従の契約書を交わす。決してサディストではないワンダは、愛するゼヴェリーンのためにサディストになりきる。性的、人間的倒錯を描いた文学作品。
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドというグループ名は、ジョン・ケイルの友人のトニー・コンラッドが路上で拾ったSMのペーパーバック(鞭とレザーブーツが表紙に描いてある)から取ったらしい。倒錯的なもの、そしてメインストリームへのアンチテーゼを感じるもの、そういったものへの関心がヴェルヴェッツの独自のスタイルを作り上げていったのだろう。
毛皮のヴィーナス 和訳
ぴかぴか輝く革のブーツ
暗闇で鞭を打ち鳴らす娘
鐘の音とともにお出ましだ
おまえの召使いを許すんじゃない
殴っておやり女王様、そして奴の心を癒しておやり
抜け目のない街燈の罪にその日の気分で
何を着ようか彼女は選ぶ
イタチの毛皮が傲慢そうに装う
王様が王様がそこでおまえを待っている
疲れたよ、クタクタだ
千年でも眠っていられる
千の夢を見て目が覚める
涙でできた様々な色
ぴかぴかの革のブーツにキスをする
暗闇で輝く革
革ヒモをなめろ、ムチ打つベルトを待っている
殴っておたり女王様、そして彼の心を癒しておやり
王様、王様、繊細に話す
王様、ひざまずくんだ
決して優しくはない鞭を味わってごらん
ぴかぴか輝く革のブーツ
暗闇で鞭を打ち鳴らす娘
王様、召使いが鐘を鳴らしながらやってくる
彼を絶対許さないで
殴っておやり女王様、そして彼の心を許しておやり
ヴェルヴェット・アンダーグラウンド ”毛皮のヴィーナス” 対訳:AKIYAMA SISTERS INC
千年でも眠っていられる 千の夢を見て目が覚める
ジョン・ケイルの弾くヴィオラの持続音と、ルー・リードの低音で艶のあるボーカルがめちゃくちゃかっこいい。サビの4分の3の部分(A thousand dreams that would awake me千の夢を見て目が覚める)を歌い終わったあと、にクリーントーンで気怠く「ポロロロ~ン」と弾くギターが色気があって素晴らしい。毎回※ここの部分を聴くと背筋が震える。
※ここの部分↓↓↓
I am tired, I am weary 疲れたよ、クタクタだ
I could sleep for a thousand years 千年でも眠っていられる
A thousand dreams that would awake me 千の夢を見て目が覚める
「ポロロロ~ン♪」
Different colors made of tears 涙でできた様々な色
ヴェルヴェット・アンダーグラウンド ”毛皮のヴィーナス” 対訳:AKIYAMA SISTERS INC
「ゼヴェリーン、ゼヴェリーン」と歌うところも(対訳では王様、王様となっている)、マゾッホの小説とクロスオーバーしていて、曲の世界観を作り上げている。
そしてこの曲の歌詞で最高なのが以下の部分。
疲れたよ、クタクタだ
千年でも眠っていられる
千の夢を見て目が覚める
涙でできた様々な色
『ヘロイン』では「千年前に生まれりゃよかった」と歌うんだけど、この曲の主人公は”千年でも眠っていられる”と歌う。
主人公は、自分の背徳的なものを志向する精神にうんざりしているのか、クタクタに「疲れて」いる。だけど、現実からは逃れられない。夢はやがて覚めて、本能が倒錯した愛を求めている。目には様々な色(感情)でできた涙が流れる。結局、本能は鞭とレザーブーツを求めてしまう。
これはマゾヒズムをテーマにしているけれど、マゾの部分を別なものに置き換えて考えることもできるかもしれない。依存だったり、逃れられないと感じている運命だったり、みんなが望む「自由」というのは現実ではなかなか手に入らない。ロックは「自由」や「希望」を歌ってほしいとも思う。だけど、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドは、業から逃れられない不自由な人間を描く。それが「リアル」だと感じているから。リアルはけっこうしんどい。楽しくない。だけど、突き刺さる。
映画監督ガス・ヴァン・サント作『ラスト・デイズ』に挿入歌としてこの”毛皮のヴィーナス”が効果的に使われている。この映画はカート・コバーンに捧げられた映画で、ソニック・ユースのキム・ゴードンがちょい役で出ていたり、ロック好きには見どころも多い作品なので気になる方は観てください。
コメント
セヴェリンは王様ではなくて、マゾヒストの主人公「セヴェリン」でしょ。
毛皮のヴィーナスを読んでいない?
小説の主人公は、セヴェリン・フォン・クリッチェンフェルスという青年です。彼は、自分を女性の奴隷として扱ってくれる女性を求めています。
王様ではく奴隷ですよ。