パティ・スミス 『ホーセス』 グロリア 歌詞考察

歌詞考察
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詩人パティ・スミス ロックの価値を塗り替える

ロックはアウトサイダーの音楽だった。そして、男の音楽だった。

そんな風潮を鮮やかに更新したのがパティ・スミスだ。

パティ・スミスは、詩人のアルチュール・ランボーや画家のアメデオ・モディリアニに憧れてアーティストになる決心をする。

1966年の夏、パティ・スミスが19歳の時、2つ年下の男の子との一夜の過ちで妊娠してしまう。当時、中絶は違法だったので子どもは里子に出すしかなかった。

そのことにより、当時、美術を学んでいたカレッジを除籍になり、退屈な工場で働くことになる。その時のパティ・スミスの持ち物は、ドローイングペンと、スケッチブックとアルチュール・ランボーの『イリュミナシオン』

自分には何かがあるかもしれない、だけどここにいてはいけない。そんな思いでパティ・スミスは、なけなしのお金を持ってニューヨークへ向かう。

そして、ニューヨークで同じ野心を持った若者「ロバート・メイプルソープ」と出会う。彼がいなかったら『ホーセス』のポートレートもなかった。

パティ・スミスは自分が歌を歌うつもりなんて全くなかったみたいだ。書店でアルバイトをしたり、ニューヨークの刺激的な作家やアーティスト(ジム・キャロル、サム・シェパード等)と交際したり、ロックバンドの連中(テレビジョンのトム・ヴァーレイン等)とつるんだりしていく中で、自分の内側で発火しているものを表現するためにロックという表現を発見したんだと思う。

パティ・スミスは、ニューヨークでは熱心に詩を書いていて、それを出版することを第一の目標にしていたと思う。それから、詩の朗読をする場を求めて朗読会を開いていた。それと並行して、今や伝説のCBGBマクサス・カンサス・シティヴェルヴェット・アンダーグラウンドのライブを観に行ったりするうちに何かがはじけたんだと思う。

パティは、マクサス・カンサス・シティで出会った、レコード屋で働くレニー・ケイと友達になり、朗読会の時にギターで伴奏をお願いするようになる。これが、パティ・スミスの音楽としてのキャリアのスタートだった。そして、現在もレニー・ケイは彼女のバンドでギターを弾いているんだから凄いことだよね!

そして、憑依するような物凄いポエトリー・リーディングをしていたパティ・スミスは、ピアノ、ギター、ドラムのメンバーを揃えて、女性がリーダーのロックグループを結成するまでになる。時代でいうと1975年。パンク前夜のニューヨークで、ロックの歴史を塗り替えた瞬間だった。

グロリア 和訳

Gloria

Jesus died for somebody’s sins but not mine

キリストは他の誰かの罪で死んだ でも私の罪じゃない

Meltin’ in a pot of thieves Wild card up my sleeve

盗人たちのるつぼに溶け込んだ私には 密かな切り札がある

Thick heart of stone My sins my own

図太く冷酷な心 私の罪は私自身

They belong to me, me

それは私の物 私

People say “beware!” But I don’t care

用心しなよって人は言うけど 私は気にしない

The words are just Rules and regulations to me, me

言葉なんて私にとってはただの規則や決まり事でしかない 私

I-I walk in a room, you know I look so proud

部屋の中を歩く時 私はとても誇らしげ

I’m movin’ in this here atmosphere, well, anything’s allowed

何をしても許されるこの雰囲気の中へと私はやって来る

And I go to this here party and I just get bored

このパーティへと来てみたけど すっかり退屈して

Until I look out the window, see a sweet young thing

ふと窓の外に目をやると 若くて可愛い子が見える

Humpin’ on the parking meter,

パーキングメーターの上に背を丸めて

leanin’ on the parking meter

パーキングメーターに寄りかかっている

Oh, she looks so good, oh, she looks so fine

ああ なんて素敵な子 ああ なんて可愛い女の子

And I got this crazy feeling and then I’m gonna ah-ah make her mine

狂おしい気持ちになってしまった あの子を物にせずにいられない

Ooh I’ll put my spell on her Here she comes

私が魔法をかけると 彼女がやって来る

Walkin’ down the street Here she comes

あの道を歩いて 彼女がやって来る

Comin’ through my door Here she comes

玄関のドアを入って 彼女がやって来る

Crawlin’ up my stair Here she comes

這うようにゆっくり階段を上がって 彼女がやって来る

Waltzin’ through the hall In a pretty red dress

可愛い赤のドレスを身にまとい ワルツを踊るように廊下を歩いて

And oh, she looks so good, oh, she looks so fine

ああ なんて素敵な子 ああ なんて可愛い女の子

And I got this crazy feeling that I’m gonna ah-ah make her mine

狂おしい気持ちになってしまった あの子を物にせずにいられない

And then I hear this knockin’ on my door Hear this knockin’ on my door

それからドアをノックする音が聞こえる ドアをノックする音が聞こえる

And I look up into the big tower clock And say,

私は塔の大時計台を見上げて言う

“oh my God here’s midnight!”

ああもう真夜中じゃない

And my baby is walkin’ through the door

するとベイビーがドアを開けて入ってきて

Leanin’ on my couch

私のカウチへともたれかかる

she whispers to me and I take the big plunge

そして私が彼女にささやいて 私は一気に思いを遂げる 

And oh, she was so good and oh, she was so fine

そして ああ 彼女は最高に良かった ああ 彼女は本当に素敵だった

And I’m gonna tell the world that I just ah-ah made her mine

世界に向かって告げたいの 私があの子を物にしたことを

And I said darling, tell me your name,

私は言った ダーリン あなたの名前を教えて

she told me her name

彼女は名前を教えてくれた

She whispered to me, she told me her name

彼女は私にささやいて 彼女の名前を教えてくれた

And her name is,

そして彼女の名前は

and her name is, and her name is, and her name is G-L-O-R-I-A

そして彼女の名前は そして彼女の名前は そして彼女の名前は G-L-O-R-I-A

G-L-O-R-I-A Gloria G-L-O-R-I-A Gloria G-L-O-R-I-A Gloria G-L-O-R-I-A Gloria

G-L-O-R-I-A グローリア G-L-O-R-I-A グローリア

G-L-O-R-I-A グローリア G-L-O-R-I-A グローリア

I was at the stadium There were twenty thousand girls

そこはスタジアムだった 2万人の女たちが集まっていて

called their names out to me Marie and Ruth

私に向かって自分たちの名前を叫んでいた マリーだとかルースだとか

but to tell you the truth I didn’t hear them

でも正直な話 彼女たちの話なんて聞いてなかったし

I didn’t see

見えてもいなかった

I let my eyes rise to the big tower clock And I heard those bells

私の瞳は塔の大時計台へと引き寄せられ

chimin’ in my heart Going ding dong ding dong ding dong ding dong. Ding dong ding dong ding dong ding dong

あの鐘が心の中で響き始めるのが聞こえた ディンドン ディンドン ディンドン ディンドン ディンドン ディンドン ディンドン ディンドン

Counting the time, then you came to my room

それはあなたが私の部屋へとやって来た時間を告げていた

And you whispered to me and we took the big plunge

あなたは私にささやいて 私たちは一気に思いを遂げた

And oh. you were so good, oh, you were so fine

そして ああ 彼女は最高に良かった ああ 彼女は本当に素敵だった

And I gotta tell the world that I make her mine

世界に向かって告げたいの 私があの子を物にしたことを

make her mine Make her mine make her mine make her mine make her mine

あの子を物にしたことを あの子を物にしたことを あの子を物にしたことを

G-L-O-R-I-A Gloria G-L-O-R-I-A Gloria G-L-O-R-I-A Gloria, G-L-O-R-I-A Gloria

G-L-O-R-I-A グローリア G-L-O-R-I-A グローリア G-L-O-R-I-A グローリア 

And the tower bells chime,

そして塔の大時計台は鳴る

“ding dong”

ディンドン

they chime

鐘が響いて

I said

私は言った

They’re singing, “Jesus died for somebody’s sins but not mine.”

キリストは他の誰かの罪で死んだ でも私の罪じゃない

パティ・スミス Horses: 30th Anniversary Legacy Edition 歌詞対訳:野村信昭

女性であることに縛られることへの反抗

パティは、既に性差と個人の境界線に挑戦する詩人としてニューヨーク・シーンでは評価を確立していた。彼女は分類を拒み、女性であることに縛られるのに反抗していた。彼女は二つの性を生きようとしていた。十代の頃にランボーを読んでいた彼女は、どんな人間も男性性と女性性を持っていることを確信していた。

ニック・ジョンストン著 パティ・スミス 愛と創造の旅路 鳥井賀句訳 筑摩書房

このグロリアという曲は、ヴァン・モリソン率いるゼムのカヴァー曲だ。

どんな曲かというと、マッチョで、男らしさを称える古いロック観「強気で攻めたら女の子は落とせるぜ」、という曲だ。それを女性のパティ・スミスは男言葉で歌った。

それは、既存の概念に唾を吐きかけるパティ・スミスの挑戦だった。

そして冒頭と最後の詩“キリストは他の誰かの罪で死んだ でも私の罪じゃない”と歌うことによって、パティ・スミスがロックの世界に誕生したことを表明している。

つまりは、クソくらえってこと。

パティ・スミスがいなかったらR.E.Mもソニック・ユースも誕生していなかったかもしれないよ? それだけ後世に与えた影響は大きい。

性差の問題や、格差の問題、憂いはこの瞬間にもぼくたちの前にある。だからこそ、今こそ、パティ・スミスをこの手に!

パティ・スミス/Mトレイン ブックレビュー
パティ・スミス『ジャスト・キッズ』に続く二作目の回顧録(メモワール)パティ・スミス『Mトレイン』ブックレビュー 私的ライナーノーツ ロック 文学 wagatsuma-songs.com

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