ニルヴァーナ/ユー・ノウ・ユア・ライト 歌詞考察

歌詞考察
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ニルヴァーナのベストアルバムに”ユー・ノー・ユア・ライト”が収録される

ニルヴァーナを知ったのは15歳の時で、クソ田舎に住んでいたぼくは、田舎でもまだ垢抜けた人たちが住んでいるエリアの友達に『Nevermind』を借りたのが最初だ。

『Nevermind』を聴いた時の印象は「おお、洋楽だねー」ぐらいで、ひりつくような、破滅的な音楽には感じなかった(セックス・ピストルズの時も似たような印象)。

でも、アメリカのキッズたちは『Nevermind』を聴いて熱狂したわけだから、ぼくの感性がアレなんだろう。もしくは日本の田舎に住むキッズにはこのアルバムが持つリアルさを自分のものとして感じられなかったのか。

ニルヴァーナが自分の人生でリアルになったのはその半年後ぐらいで、高校を中退して一人暮らしをしていた時。かなりピンポイントで思い出せるんだけど、夕方に高校生たちが下校していく時間帯。夕日が差して高校生たちが楽しそうに集団で帰っていく。ぼくはその時、一人ぼっちで部屋で『イン・ユーテロ』のカセットテープを聴いていた。2曲目の”セントレス・アプレンティス”のサビ部分「Go Away Get Away――」とカート・コバーンが叫んだ瞬間、ニルヴァーナというバンドが自分を捉えた。

このシンガーは何をこんなに怒っているんだろう? なんでこんなに不幸に見えるんだろう? それがどうしてこんなに心を掴むんだろう? 

それからはニルヴァーナのリリースされているアルバムは全部揃えて、VHSの作品も買って、ニルヴァーナ関連の書籍も集めて、未発表音源やカバーや怪しいライブのブートレグもニルヴァーナと書いてあれば買いに走った。

オン・ア・マウンテン

1993年10月23日、イン・ユーテロ・ツアーのシカゴ、アラゴン・ボールルーム公演で”オン・ア・マウンテン”という曲が演奏される。これが後の”ユー・ノー・ユア・ライト”だ。

ぼくはチャールズ・R・クロス著『ヘヴィアー・ザン・ヘヴン』を読んでこの曲の存在は知っていた。この本によると”ユー・ノウ・ユア・ライト”は

彼の全作品の中でも高水準と思える曲がひとつあった。後にカートが”ユー・ノウ・ユア・ライト”とタイトルをつけた曲で、~中略~”オン・ザ・マウンテン”と呼ばれていた。~中略~「俺たちは一斉にスピードを上げて、曲を仕上げた」とクリスは言う。「カートが持ってきたリフを、俺たちみんなで形にしたんだ。ニルヴァーナ化したのさ」

苦しそうに「ユー・ノウ・ユア・ライト(君は自分が正しいとわかっている)」と歌う頭にこびりつくコーラス部分を始め、歌詞の方もタイトだった。歌は、「君の邪魔はしない/それは約束しない/もう一度この言葉を口にしたら/ここから出ていく」と始まり、「俺は小便の中を歩いている/こうなることはずっとわかっていた」とカートにしか書けないような言葉が続く。~中略~コーラス部分の悲しみに満ちた叫び声はこれ以上ないほどはっきりと表現されている。カートはここで「痛み」という言葉を4音節に分けて、10秒近くも叫んでいるのだ。それは免れようのできない苦しみを思わせるものだ。

チャールズ・R・クロス ヘヴィアー・ザン・ヘヴン 株式会社ロッキング・オン

痛みの歌

ユー・ノウ・ユア・ライト 和訳

You know you’re right

I will never bother you 絶対おまえを悩ませたりしない
I will never promise to 約束はできないけどな
I will never follow you 絶対おまえの後をついていったりしないさ
I will never bother you おまえを悩ませたりしない

Never speak a word again もう二度と口を開いたりしない
I will crawl away for good よぼよぼと消えてやるよ、永遠にな

I will move away from here ここから出ていくんだ
You wont be afraid of fear おまえも恐怖に脅えることもないだろう
No thought was put into this これは別に何の意味もないから
I always knew it would come to this いつだってこうなることはわかっていたさ

Things have never been so swell 物事がこんなにハデに膨れあがったことはなかった
I have never failed to feel こんなにいい気分になったのは初めてだ

Pain 痛み
Pain 痛み
Pain 痛み

You know you’re right ああ、おまえは正しいよ
You know you’re right そうさ、おまえは正しい
You know you’re right おまえは正しい

I’m so warm and calm inside 俺の心はとても暖かくて穏やかだ
I no longer have to hide もう隠れる必要もない
Let’s talk about someone else さあ、誰かの話をしよう
Steaming soup against her mouth スターリング・シルヴァーが溶け始める

Nothing really bothers her 何ひとつ彼女を悩ませるものはない
She just wants to love herself 彼女はただ自分自身を愛したいだけだ

I will move away from here 俺はここから離れていくよ
You won’t be afraid of fear おまえももう恐怖に脅えることもないだろう
No thought was put into this これは特に何の意味もないから
I always knew to come like this いつだってこうなることはわかっていたさ

Things have never been so swell 物事がこんなにハデに膨れあがったことはなかった
I have never failed to feel こんなにいい気分になったのは初めてだ

Pain 痛み
Pain 痛み
Pain 痛み

You know you’re right そうさ、おまえは正しいよ
You know you’re right おまえは正しいよ
You know you’re right おまえは正しいよ

ニルヴァーナベストアルバム『ニルヴァーナ』2020年

いつだってこうなることはわかっていたさ

『ヘヴィアー・ザン・ヘヴン』を読むと、この時のカート・コバーンは深刻な状況に陥っていたことがわかる。

重度なヘロイン中毒。それによるメンバー間との関係悪化。夫婦間でも喧嘩は絶えず、それでも疲弊するツアーは続いていく。カートは、毎晩、メンバーやマネージャーにツアーを中止にしたい、と訴えに行く。その理由として「くだらない、アホくさい」と、もしくは慢性的な腹痛を理由にして。

ワシントン州南西部の小さな町に生まれて、親友のクリス・ノヴォゼリックとともにロック・スターになることを夢見て、小さいクラブをバンで回り、せっせとデモテープを作ってはレコード会社に送り、やっとの思いでそれを叶えたカート。

だけど、ニルヴァーナの最後のレコーディング作品”ユー・ノウ・ユア・ライト”を聴くと辿り着いた場所は「痛み」だったらしい。うつ状態を通り越して「諦め」の状態になっているのが見てとれる。

友達、どうでもいい。音楽、どうでもいい。妻や子ども、どうでもいい。自分自身、どうでもいい――

晩年、カートはドラッグのディーラーとしかつるんでいなかったらしい。憧れだったR.E.Mとのレコーディングもキャンセルして、ドラッグを優先させていた。

最終的にはドラッグのディーラーも、カートの異常な摂取量を見て、「目の前で死なれたらたまらん。大スキャンダルになってしまう」ということで、売るのはオーケーだけど、やるのは一人でやってくれ、ということになった。

カート・コバーンは人間の屑なのか? ロックの犠牲者なのか? 苦悩する天才なのか? 

カート・コバーンは矛盾したものを追い求め表現していた。美と醜、誕生と死、愛と憎悪、名声と匿名性、美しいメロディには、辛辣なメッセージを入れ、綺麗なブロンドにはピンク色のお菓子を塗り付け、スリムな身体を隠すためにサイズの大きい服を着て、エアロ・スミスとAC/DCを愛聴しながら、少年ナイフやヴァセリンズを愛した。ハロー・キティが好きでありながら、ウィリアム・バロウズを崇めていた。

ぼくたちがニルヴァーナを愛する理由は、カートの作る曲や、表現、パーソナリティーに混乱があるからだと思う。ぼくたち全員が大人になる途中で必ず経験する「混乱」、「矛盾」、それを全生命をかけて表現しきったカート・コバーン。

今、ぼく自身はニルヴァーナをあまり聴かない。それは、自分が腐った大人に近づいているから。痛みを感じたくないから。

詩人のアルチュール・ランボーは「無疵の魂なんてどこにあるんだ」と書いた。

眠れない深夜に自分を考える時、朝の光が美しくも哀しいと思う時、これからやってくる未来が恐ろしくも興奮している時、ぼくたちはたまに十代に戻っている。そういう感情とニルヴァーナの音楽は直結している。

たまに思うのは、ニルヴァーナが現在も続いていたらどんな音楽を作っていたか? 100万回は議論されている話題だと思うけれど、ぼく個人としては”レディオ・フレンドリー・ユニット・シフター”や”ミルク・イット”のようなニューウェイブの方向性で進んでいたんじゃないかな、と思う。もしくは、ピクシーズやR.E.Mのような立ち位置。もしくは、完全にアコースティックな方向。もしくは、バンドは解散してジョン・ルーリーのようなアーティストに。もしくは、シド・バレットのように隠遁……。

どんな可能性もあって、どんな可能性もないような、この答えの出ない議論は天国よりヘヴィーだ!

ニルヴァーナ 『イン・ユーテロ』 ハート・シェイプト・ボックス 歌詞考察
天使の髪の毛と赤ん坊の息が俺を傷つける―― 『イン・ユーテロ』 収録曲"ハート・シェイプト・ボックス” ロック 歌詞考察 私的ライナーノーツ ロック 文学 wagatsuma-songs.com

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