ヴェルヴェット・アンダーグラウンド 『ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート』 ザ・ギフト 歌詞考察

歌詞考察
スポンサーリンク
スポンサーリンク

ルー・リードの小説を朗読するジョン・ケイル

『ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート』の2曲目はこの“ザ・ギフト”

大学時代にルー・リードが書いた短編小説を、ラジオ・アナウンスのように朗読するジョン・ケイル。そこにインストゥルメンタルの “ブッカー・T”という曲をあわせて作られたのがこの “ザ・ギフト” だ。

この曲は演奏は右チャンネル、朗読は左チャンネルと完全にパンニングされているのが特徴で、淡々と朗読するケイルと対照的に、荒れ狂った演奏をするヴェルヴェッツが面白い。

さて、歌詞(というか小説)なんだけど、コミカルでイカれた物語が描かれている。作家シャーリイ・ジャクスンの『くじ(The Lottery)』という作品にインスパイアされたという話があるらしい(『くじ』はくじを引いた人間が「昔からのしきたりだから」という理由で殺されるという後味の悪い物語)。共通点は悲惨さ、そして人間存在の滑稽さかな。

さあ、長ーーーーい歌詞に行ってみよう。

ザ・ギフト 和訳

ワルドゥ・ジェファースは限界に達した

それは8月半ば

ということは奴はずっと

マルシアと離れていたってことだ

2ヶ月以上

2ヶ月、奴が見せなきゃいけなかったものは

すり切れた3通の手紙と

たいそうな金額を払った

2回の長距離電話

学校をずる休みするのは終わったのさ

彼女はウィスコンシンに戻ってきた

そして奴はペンシルベニアのロウケストへ

彼女は忠誠を守ることを誓ったんだ

時々デートはするだろうけど

単に楽しむためだけさ

彼女はずっと誠実だろう

でも最近ワルドゥは悩み始めた

夜眠っている時問題があるんだ

恐ろしい夢を見ると

奴はベッドに横たわっても眠れない

キルティングのプロテクターの下で

寝返りをうってるんだ

マルシアが誓いをたてた姿を思い浮かべて

奴は涙ぐむ

酒とちょっとした慰めのネアンデルタールで

乗り切るのさ

ついに性的に我を忘れた最後の愛撫に

服従するんだ

それは人間の心が耐えられる限界を越えていた

誠実さを無くしたマルシアの姿が奴にとりつく

白昼夢、自由奔放な性が

奴の思考の中に浸透していった

彼女がどんな女だったか

誰にも理解できないさ

わかっているのはワルドゥだけ

直感的に奴は

彼女の心のひび割れをもらさず把握したんだ

彼女を微笑ませて、彼女も奴が必要だったのに

そこに奴はいなかった

木曜日、奴は思いついた

巨大なパレードが

予定される前に

とにかくエルダーソンの芝を

奴は刈って整えたのさ

1ドル50のために、そして郵便受けを確かめて

マルシアから何か一言でも

言ってきてないか確かめたんだ

でもアメリカのアルミニュウム会社からの

広告しかなかった

マルシアの手紙だけが欲しかったのに

それでもこの会社も悪くはなかった

ニュー・ヨークの会社だ

手紙にはどこへでも行けるって書いてある

それは奴にとって魅力だった

奴にはウィスコンシンまで行ける

金なんかなかったから

一応本当なら

自分自身を郵便で送ればいいじゃないか

ばかばかしいほど簡単さ

特別配達の郵便小包で

自分を配達するのさ

翌日、必要な物を買いに

ワルドゥはスーパーマーケットに行った

マスキング・テープの、ホチキス銃、

中ぐらいの大きさの

自分の体に合った段ボール箱買ったんだ

最低限の衝突を見込んで

とても心地好さそうに奴は箱に乗った

少しの酒に水、それに夜食のスナック

多分奴は旅行客のように

行儀よくできるだろう

金曜日の午後には準備ができた

すっかり梱包されたワルドゥ

郵便局は3時にピック・アップに来ることになってる

箱には壊れ物のマークが書かれ

発砲スチロールの上に奴は体を丸めて

休んでいた

念のためゴムのクッションも入れておいたんだ

奴はマルシアの驚きと喜びの顔を

一生懸命思い浮かべた

彼女はドアを開けて小包を見て、

配達人にチップをあげるんだ

そして箱をあけると

そこにはワルドゥ自身が入っているのさ

彼女は奴にキスをして、多分それから

二人は映画を見にいくだろう

もし、そんな事を奴が以前に考えていたら

突然誰かが乱暴の箱を持ち上げた

奴は頑張ったさ

ドスンとトラックに乗せられ奴は出発した

その頃マルシアはちょうど

髪を整え終わったところだった

きつい週末だったのさ

そんな風に酒を飲んじゃいけないと思いながら

ビルは強力してくれていたけど

二人の関係が終わっても彼はまだ

彼女を尊敬してるって言ったのさ

結局それが自然の成り行きってやつなんだ

たとえ彼女を愛していなかったとしても

情は移っていたのさ

結局二人とも大人になったんだ

ああ、ビルはワルドゥに教えてやれるさ

だけど何年も前のことのようさ

彼女の大親友、シーラ・クリンが

玄関からキッチンに入ってきた

神様、ほんとに外は恐ろしいわ

わかるわよ、私も不愉快だもの

シルクの縁取りのコットン・ローブのベルトを

マルシアはぎゅっと絞めた

シーラは台所のテーブルの上に散らばる

塩の粒を指で拾っていた

指を舐めながらキッとして

この塩を私が拾うことになってるんだろうけどって

……

彼女は鼻にシワを寄せた

吐きたくなるわ

マルシアは顎の下を軽くたたき始めた

彼女がテレビで見たエクササイズさ

そんなことは話もしないけど

テーブルから立ち上がって彼女は流しへ行った

ピンクと青のビタミン剤の瓶を

取るために

一粒飲もう、

ステーキよりずっとよさそうよ

それから膝に触ろうとした

ダイキリにはもう触れないと思うの

今度は電話を支えてる小さな机の側に

彼女は諦めて座り

多分ビルから電話がくるわ、とシーラに言った

シーラは側で枝毛を探してる

昨日の夜以降、あんたは彼と

終わると思ってたのに

あんたの言いたいことは分かるわ

彼ったらそこらじゅうに

タコみたいに手を伸ばしてるのよ

弁護しながら彼女は腕を

高くあげタコの真似をした

結局彼と喧嘩するのに

疲れちゃったのよ

金曜も土曜も

あたしは何にもしなかったわ

だから、なんて言うかあたしは彼に借りがあるのよ

言ってる意味分かる?

彼女はポリポリかきだした

口に手をあてて

シーラはクスクス笑っていた

あたしも同じように感じてたのよ

その後なんか……

彼女は体を屈めてひそひそ囁いた

そうしたかったの

そして彼女は大声で笑っていた

クレンスティロ郵便局の

ジェイムソン氏がやってきたのはその時だ

漆喰塗りの家の

ドアベルを鳴らし

マルシア・ブロンソンがドアを開けると

彼は荷物を中まで運んでくれた

黄色と緑の紙にサインをしてもらい

書斎にある母親のベージュのポケットブックから

マルシアが取り出した

15セントのチップを貰っていったんだ

なんだと思う? シーラが聞いた

後ろに手を組んで

マルシアは立っていた

そして居間の真ん中に置かれた

茶色い段ボール箱に取りかかり始めたのさ

分からないわ

箱の中ではワルドゥが

彼女たちのこもった声を聞きながら

ドキドキしながら震えていた

箱の中央まで貼られている

マスキング・テープをシーラが爪で剥がした

誰から送られてきたか

住所をみたら?

ワルドゥの心臓は早鐘のように鳴っていた

足音の振動を感じながら

もうすぐだ

マルシアは箱の回りを歩き

インクで引っかかれたラベルを見た

ああ、神様、これはワルドゥからよ

あの薄のろ、とシーラが言った

ワルドゥは期待に震えていた

開けたほうがいいわよ、シーラが言う

二人は止められたホチキスをはずそうとした

ずいぶん頑丈に閉じたわねと

マルシアは唸り声をあげた

二人は蓋をもう一度引っ張った

ちょっと、やだ、これ開けるのに

パワー・ドリルがなきゃ無理よ

もう一度引っ張ったけど

開きゃしない

息を荒げて二人は立っていた

ハサミはどう? とシーラ

マルシアは台所に走ったが

小さな裁縫ハサミしか見つからなかった

そういえば父親が色んな道具を

地下室にしまってたわ

階下に走り戻ってくると

彼女は大きなメタル・カッターを手にしていた

これが最高よね

彼女は息をきらせていた

こんなことして死んでしまうわ

彼女は大きな柔らかいカウチに身を沈め

大きな音を立てて息を吸った

シーラはマスキング・テープと

箱の蓋の間にスリットを入れようとしたが

刃が大きすぎて

十分な隙間がなかったのさ

ちくしょう、何よこれ

イライラしながら彼女は言った

そして微笑みながら、良いアイデアがあるわ

何?とマルシア

頭を指で触りながら、

いいから見てよとシーラ

箱の中でワルドゥは

凄い昂奮状態だった

息も苦しくなり

肌は熱でちくちくしていた

熱のせいで

喉も痛くなってきた

もうすぐだ

真っ直ぐ立ったシーラは

箱の反対側に歩いて行った

小包の上に乗り

シーラはしゃがんだ

両手でカッターをつかみ

深呼吸をすると思い切り

長い刃をつき刺したのさ

小包の中央を

マスキング・テープを

ダンボールを、クッションを

そしてまさしくワルドゥ・ジェファーズの頭っを

つき刺しちまった

朝の太陽の光の中

かすかに弧を描いて

赤いものが

こぼれていった

VELVET UNDERGROUND THE GIFT  TRANSLATED BY AKIYAMA SISTERS INC.E.

朝の太陽の中かすかに弧を描いて赤いものがこぼれていった

主人公のワルドゥは、学校の夏休み中に恋人になったマルシアにぞっこんだ。ただ休暇は終り、マルシアは地元のウィスコンシンに帰ってしまった。

ワルドゥはマルシアが純潔を保っていてくれると信じているけれど( 彼女は忠誠を守ることを誓ったんだ )、毎晩悪夢にうなされる。

自分を発送することに成功したワルドゥは(どうやって蓋をしたんだろう)、ドキドキしながら配達員に運ばれていく。これがギフトの意味だ。

一方、マルシアは親友のシーラと、酒の失敗について談笑している。ダイキリはもう飲まない、とマルシアはシーラに宣言する。

ワルドゥの気持ちも知らずに、二人はビルという男性について話している。

そんなとき、マルシアのもとにギフトが届く。

差出人はワルドゥ。

「ああ、神様」とマルシアが言い、「あの薄のろ」とシーラは吐き捨てる。ワルドゥは開けられるのを昂奮しながら待っている。ああ、哀れなワルドゥ……。

ギチギチに梱包された段ボールはなかなか開かない( ちくしょう、何よこれイライラしながら彼女は言った )。

悪戦苦闘を続けたあと、シーラは「良いアイデアがある」と言って、メタル・カッターを思いっきり段ボールにつき立てる。脳天をつき刺されるワルドゥ……!  朝の太陽の光の中かすかに弧を描いて赤いものがこぼれていった という描写で物語は締めくくられる。

“ザ・ギフト” はシリアスといえばシリアス。滑稽といえば滑稽な物語だ。作者のルー・リードではなくジョン・ケイルに朗読を任せているところもポイントが高いと思う。ルーの朗読ではちょっとニヒルにすぎるんじゃないかな、と思うし、クールに悲惨で滑稽な物語を淡々と読む、というのがこの作品に、緊張感と不気味さを与えていると思うから。

3分ポップが主流だった時代にこんな作品を作ってしまうヴェルヴェッツは凄い。誰の指図もアドバイスも受けないぜ、というアティテュードを感じる。実質、オリジナルヴェルヴェッツの最後の作品となる『ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート』は、こういった凄まじさに満ちている。

コメント

タイトルとURLをコピーしました