プライマル・スクリームのバンド原理
さあ、楽しい時間の始まりだ。
『ライオット・シティ・ブルース』のダークなゾーン(“ホェン・ザ・ボム・ドロップス”と“リトル・デス”)を通り抜けたあとにやってくるのはプライマル・スクリーム流のロック&ロール・ナンバー“ザ・ナイティナインス・フロア”だ。
曲は強烈にシンプル。何も考えなくていいよ。そう、リズムに身を委ねてダンスすればいいんだ。ここで言っていることは他のライオット・シティの曲と大差ない。そうドラッグとゴミ溜め街の話だ。
このアルバムでプライマルは「時代をクリエイトすることをやめた」と以前のブログで書いたんだけど、アーティストによってはアルバムを出すごとに「進化していくもの」という気概があったりして、“ザ・ナイティナインス・フロア”のような剥き出しのガレージロック&ロール・ナンバーは収録しづらいはず(?)だと思うんだけど、プライマルは躊躇しない。この曲(というかアルバム)の位置付けを考えるのは批評家やリスナーの勝手であって、ロック・バンドはその時にフォーカスしている曲を演奏するだけ、というバンド原理を貫いている。というかぼくがこんなことを語るのもボビー・ギレスピーからしたらアレかもしれない。すみません、ミスター・ギレピー。
ザ・ナイティナインス・フロア 和訳
どこに行って
誰に会っても
言われるんだ
「どうしたんだよ、ヘンな病気にでもかかったのか」って
ああ わかってるよ
どっかがおかしいんだ
心に穴が空いちゃったのさ
かつてはオレの彼女がいたところに
空には鳥
地には犬
ゴミ溜にはネズミ
だけどオレの彼女はどこにも見あたらない
おかしくなっちまいそうだよ
彼女は夜行列車に乗って出てったそうだ
空に穴が空いてて
クラスター爆弾が豪雨のように降り注ぐ
医者に診てもらいに行って
クスリをたっぷり射たれた
オレは99階の端にいて
みんなが「飛べ!」と言っている
頭に穴が 穴が空いてるんだ
階段には死
ドアのところには疫病
ベッドの中には亡霊
「彼女はもうおまえを愛してないんだよ」と叫んでる
ああ ママ お願いだ
君は王国への鍵を持っているんだ
オレは腕にいくつも穴を空けてるけど
注射を打ったって自由には辿り着けないのさ
彼女を見かけたら
オレが燃えてるって伝えてくれ
彼女に水をくれって懇願してるんだ
だけどもうガゾリンは結構
ああ ちきしょう
もう耐えられないよ
オレの手の穴は
彼女に床に釘付けされたときのもの
地面に穴を掘ってくれよ
99階から飛び降りるから
プライマル・スクリーム 『ライオット・シティ・ブルース』 ザ・ナイティナインス・フロア 訳:沼崎 敦子
頭に穴が 穴が空いてるんだ
この歌詞が痺れるのは、言葉がロックしてるからだ。かなりテキトーな歌詞だと思うんだけど、外さないのがボビー・ギレスピー。ロック・センスの塊だ。
内容はルー・リード時代から脈々と描かれる不良のロック・ストーリー@ライオット・シティ。
主人公は心の穴を塞ぐためにドラッグを求める(心に穴が空いちゃったのさ)。
ドラッグによる作用で精神が錯乱している主人公はパラノイアに陥っていて、頭に穴は空いているわ、手の平にはガールフレンドにやられて穴が空いているわ(オレの手の穴は彼女に床に釘付けされたときのもの)、腕は注射の針穴だらけだわ(オレは腕にいくつも穴を空けてるけど)、空に穴は空くわ、地面に穴を掘れって言うわ、この曲は「穴」にまつわる言及だらけだ。だから(だからって繋がるかな?)この曲は100階じゃなくて99階なんだと思う。
注射を打ったって自由には辿り着けないのさ
オレの手の穴は
彼女に床に釘付けされたときのもの
このフレーズは『ライオット・シティ・ブルース』で何度も取り上げられるテーマで、ドラッグの行き着く先は死(99階から飛び降りるから)ということと、磔刑のキリストのモチーフ(ヒロイックなロック)が現れている。
結論:ドラッグで自由には辿り着けないし、善悪を超越することもできない。
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