エレクトリック・ミュージック・アンド・ザ・サマー・ピープル
コモンドール・シープドッグがハードルをジャンプしてるお茶目でイカしたアルバムジャケットが目印のベックの代表作の一つ『オディレイ』のオープニング・ナンバー。
“デヴィルズ・ヘアカット”はもともと“エレクトリック・ミュージック・アンド・ザ・サマー・ピープル”というタイトルだった。ちなみにアルバムタイトルのオディレイも『ロボット・ジャズ』というタイトルになる予定だったらしい。
ベックが『ロボット・ジャズ』で、レディオヘッドが『OKコンピューター』
時代の空気を捉えるアーティストは自然と似たような発想になるのか、なんか似た雰囲気のアルバムタイトルだよね。
僕はカットアップ・ミュージックのサウンドが好きなんだ。僕らの時代を、実にうまく表してると思うから。いつもなんらかの音が耳に入ってくるし、TVや雑誌からもたえず情報が流されているよね。いろんな断片がどんどん積みかさなってく。ヒップホップのサンプリング・テクニックは取りいれるけど、あくまでもフォークやトーキング・ブルースからアプローチしていくっていう考え方が、すごく気にいってるんだ
ベック ジュリアン・パラシオス著『ベック』P192 山本安見 訳
1998年のインタヴューで、ベックは周りの環境に合わせて色を変えるカメレオンだ、という意見にノーを表明している。あくまで自分のベースはフォークであり、ブルースだと言っている。それを、自分の生きている時代と場所とパーソナリティーをミックスさせて、ベックにしか生み出すことのできない音楽を作っている。レディオヘッドもそうだよね。現代音楽やエレクトニカは手段であって、まずはアーティストの核となる本質があることが重要。
エレクトリック・ミュージック・アンド・ザ・サマー・ピープルは、独立した曲としていろいろなアルバムに収めれれている。オディレイ デラックス・エディションのバージョンが、ノイジーでパンキッシュでかっこいい……! そしてタイトル通り「夏」を感じる。
そして、”デヴィルズ・ヘアカット” こちらもやはりパンキッシュで夏を感じる。だけど、バカンスのような能天気な夏じゃなくて、チャールズ・ブコウスキーの小説に出てくるような、干からびたカリフォルニアの侘しく埃っぽい夏の景色だ。
テンガロンハットを被り、ラジカセを持って街を一人彷徨うベック。ルーザーの時のかったるそうにダラダラ歩いていたときとは違う。行き当たりばったり感が強かった(だけど、そこが魅力の)『メロウ・ゴールド』との違いは、ベックの「自立感」じゃないかな、と思った。
どうでもいいぜ、ってフィーリングが強かったベックがアーティストとして一皮むけたというか、代表作を作るんだ、という意欲を感じるというか。
ダスト・ブラザーズと組んでアイデアが形にしやすくなったのもあるかもしれないし、単純のソングライター、アーティストとしての成長かもしれない。
とにかくこの『オディレイ』を再生して数秒で、凄いアルバムを今聴いていると感じると思う。
さて、オープニングの”デヴィルズ・ヘアカット”は何を歌っているのか?
デヴィルズ・ヘアカット 和訳
Something’s wrong ‘cause my mind is fading
何かがヘンだ 頭がボンヤリしてる
everywhere I look There’s a dead end waiting
どこを見ても デッド・エンドが待ち受ける
Temperature’s dropping at the rotten oasis
冷え込み激しい腐ったオアシス
Stealing kisses from the leperous faces
くずれた顔から奪うキス
Heads are hanging from the garbage man trees
絞首台にぶら下がる首の数々
Mouthwash jukebox gasoline
マウスウォッシュ ジュークボックス ガソリン
Crystals are pointing At a poor man’s pockets
ピストルの向く先は貧乏人のフトコロ
Smiling eyes ripping out of his sockets
笑った目玉が穴から飛び出す
Got a devil’s haircut in my mind
気分は悪魔のヘアカット
Love machines on the sympathy crutches
情けが支えるラヴ・マシーン
Discount orgies on the dropout buses
落ちこぼれ組の乗るバスは安上がりな宴会場
Hitching a ride with the bleeding noses
鼻血をたらしてヒッチハイク
Coming to town with the brief case blues
ブリーフケースに憂鬱を詰めて街へ乗り込む
Got a devil’s haircut in my mind
気分は悪魔のヘアカット
Beck ODELAY DEVILS HAIRCUT ベック オディレイ デヴィルズ・ヘアカット 対訳 染谷和美
どこを見てもデッド・エンドが待ち受ける
どこを見ても デッド・エンドが待ち受ける
絞首台にぶら下がる首の数々
ピストルの向く先は貧乏人のフトコロ
落ちこぼれ組の乗るバスは安上がりな宴会場
鼻血をたらしてヒッチハイク
ブリーフケースに憂鬱を詰めて街へ乗り込む
気分は悪魔のヘアカット
貧乏白人の若者だったベックは、なけなしの金とアコギを持ってカリフォルニアからニューヨークへバスに乗って向かった。歌詞からは、そんな自伝的なベックの目を通したリアルが感じられる。ブルースというのは、ブルー(憂鬱)を歌う音楽だ。
ベックにとってブルースは伝統音楽なんかじゃなくて、リアルな表現方法なんだと思う。
そのリアルは、貧乏人、落ちこぼれ組、鼻血をたらす間抜けに向けられる。そんな同胞たちとブリーフケースに憂鬱を詰めて街へ乗り込む。どこを見てもデッド・エンドが待ち受けているように感じる時代を、妥協をしない音楽への情熱で自分の道を切り開いたベック。
穏やかで至福に満ちた安らぎの世界の裏には、混沌と狂気を孕んだ笑いがひそんでる。それを反映してない音楽なんて、ただ退屈なだけさ
ベック ジュリアン・パラシオス著 山本安見 訳
『オディレイ』のリリースから24年(!)、もうロッククラシックと呼ばれるようになっちゃうかもしれないけど、今聴いても鮮やかで、ノイジーで、不完全で、それゆえに完璧なマスターピース。
それじゃあね!Orale!
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