ウェスト・コースト・トラヴェリング・ソング
『オディレイ』の2曲目“ホットワックス”は、レイドバックしたサウンドのブルースファンクナンバーだ。
ルーズなビート感をもつこの曲をベック本人は、「ウェスト・コースト・トラヴェリング・ソング」と呼んでいる。
この曲のサンプルに使われたのは、プリティ・パーディの“ソング・フォー・アレサ”とモンク・ヒギンス&ザ・スペシャリティーズの“アップ・オン・ザ・ヒル”
歌詞にはなんのアイロニーもこめていない素直な曲だ、と語るベックだけど、読んでみるとこれがけっこうヘンテコなんだ。ナチュラルに「コワレテ」いるのがウェスト・コースト・スタイルなのかもしれない。
ホットワックス 和訳
間の悪い歌は 間の悪いやつじゃなきゃ歌えない
火が消えた後のフライパンとか
イビキかいて寝ていたら
草むらでクマが写真を撮ってたとかで
ラジオをつぶされて でもピアノは夕陽の中だから
1日が終わるのをダラダラ待つとか
キャプテンの衣装で過ごす土曜の夜
ブリキのホルンが鳴って 俺の宝石が凍りつく
オレハ イカシタ ディスクヤロウ
オレノアタマハ チクルダラケ
帰る道がわからない クスリがガンガンに効いてる
自堕落小屋でカラオケの週末 地元サービス
俺は相変わらずのヒモ
この指に刺激を この手にスパイスを
国中に病気をばらまき放題
素晴らしきエアコン 台所に座り込み 願うは…
決まりごとを歪められて意気消沈
お偉いさんは俺にかまいっぱなし
何しろ…
俺は本気だから どこまでも本気だから
オレハ イカシタ ディスクヤロウ
オレノアタマハチクルダラケ
しましまバーテンダーが絞り出す残りかすのような歌
カントリー&ウエスタンの西部組合
ロマンスに燃えるギンギツネどもは
タバコの耐えないカンザスで
フラッシュダンスばかりのケツ出しスタイル
熱いロウの跡が残る
そのくらい抜け目がなければ
あんたには負けないだろう
俺の脳ミソから端金をくすねてく
危険が招く アラモへの道
レーダー・システムが人の魂に穴をうがつ
そんだけドロドロしてれば捕まりっこない
俺はといえば はっきりしない物言いの日々
ハイジャック・フレイバー 鳥みたいにジタバタ
Beck ODELAY HOTWAX ベック オディレイ ホットワックス 対訳 染谷和美
俺は本気だから どこまでも本気だから
間の悪い歌は 間の悪いやつじゃなきゃ歌えない
ラジオをつぶされて でもピアノは夕陽の中だから
1日が終わるのをダラダラ待つとか
帰る道がわからない クスリがガンガンに効いてる
自堕落小屋でカラオケの週末 地元サービス
俺は相変わらずのヒモ
脈絡はないけれど、歌詞から伝わってくるのは負け犬(ルーザー)のソレだ。それでも不思議と明るいというか、自己否定や自己憐憫の匂いは感じない。
しましまバーテンダーが絞り出す残りかすのような歌
カントリー&ウエスタンの西部組合
ロマンスに燃えるギンギツネどもは
タバコの耐えないカンザスで
フラッシュダンスばかりのケツ出しスタイル
まず、過去の遺物である「残りかすのような歌」、「カントリー&ウエスタン」を挙げて、その後はこれまた遺物のロックンロールな風景を切り取るベック。
俺はといえば はっきりしない物言いの日々
ハイジャック・フレイバー 鳥みたいにジタバタ
グランジ、オルタナ勢が燃え尽きたあとの90年代の空気というか、希望もないけど悲観もしないといったムードが出ている歌詞だと思う。
ベックはこのアルバムで時代の寵児になったわけだけど、やはりルーツはブルースで、その古典な音楽のソウルを大切にしていた。そして知的だったから、自分がどんな風に見られるのかってのもわかっていたと思う。ヒップホップやファンクの手法、サンプリングを取り入れたのは流行りではなく、それがノン・プロな音楽で、ブルースと同じように路上から広がっていったものだからだと思う。
ハードかと思えばメロウ、ポップかと思えばパンク、牧歌的かと思えば都会的……イメージがごちゃっと混沌としたまま曲が進んでいって捉えどころがない。その感覚が「90年代」の風景なんだと思う。
何しろ…
俺は本気だから どこまでも本気だから
そう、この曲でベックは「俺は本気だ」と歌うんだけど、ここのメロディは「ジングルベル」をパロって※いて、「マジ」なのか「ギャグ」なのかがわかない。これこそがベック――そして、これがグランジ以降の景色だ。
※
I get down I get down I get down all the way(俺は本気だから どこまでも本気だから)
Jingle bells Jingle bells Jingle all the way(ジングルベル)
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