レズビアンのカップルの別離を描く
パティ・スミスの永遠の名盤『ホーセス』は“グロリア”で幕を開ける。それに続く軽やかなレゲエテイストのナンバーがこの“レドンド・ビーチ”だ(レドンド・ビーチは、アメリカのロサンゼルスにあるビーチの名前)。
タイトルと曲調の感じからは「楽しそう」な雰囲気が漂う。ビーチで波と遊びながらビールを飲んでいるような、木陰でバカンスを楽しんでいるような、そんな感じ。
歌詞の内容は、この雰囲気とまったくかけはなれている。ある恋人の別れを描いたこの曲の歌詞には深刻な悲壮感が漂っている。
※この“レドンド・ビーチ”はモリッシーもカバーしていてなかなか気合の入った歌唱を披露している
レドンド・ビーチ 和訳
たそがれどき、夢うつつのホテル
私たちはついさっき喧嘩して そのせいであなたは出て行った
あなたを探してみたけど 本当に行ってしまったの?
異次元からあなたに電話をかけてみるけど
あなたは返事を返してくれない
ああ 私の言ってること あなたなら分かるでしょう
あなたを探しに出かけてみたけど 本当に行ってしまったの?
海のそばまで行ってみると、そこはひどく陰気な感じで
女たちがショックを顔に浮かべて立ち尽くしていた
絵に描いたような哀しみ ああ 私はあなたを探していた
みんなが歌っていた 女の子が打ち上げられたと
ああ レドンド・ビーチで 誰もがひどく悲しんでいる
私はあなたを探していたのに 本当に行ってしまったの?
可愛い女の子なのにと みんなが泣いていた
彼女は甘く誘いかける自殺の犠牲者だった
私はあなたを探していたのに 本当に行ってしまったの?
海のそばまで行ってみると そこはひどく陰気な感じで
女たちがショックを顔に浮かべて立ち尽くしていた
絵に描いたような哀しみ ああ 私はあなたを探していた
フロント係が教えてくれた 女の子が打ち上げられたと
小柄でアップル・ブロンドの髪をした天使
あなたを探しに出かけてみたけど 本当に行ってしまったの?
鍵を拾い上げて 何も答えずに
部屋に戻って 私は泣いた
あなたは小柄な天使だった 本当に行ってしまったの?
海のそばまで行ってみると そこはひどく陰気な感じで
私はショックを顔に浮かべて立ち尽くした
霊柩車が出て行った 死んだ女の子はあなただった
あなたはもうこの腕に戻らない 本当に行ってしまったから
もうこの腕には戻らない 本当に行ってしまったから
行ってしまった 行ってしまった 行ってしまった 行ってしまった
さよなら
パティ・スミス 『ホーセス』 レドンド・ビーチ 歌詞対訳:野村伸昭
私はあなたを探していたのに 本当に行ってしまったの?
物語はこうだ。レズビアンのカップルが喧嘩をして、一人が行方不明になってしまう。
たそがれどき、夢うつつのホテル
私たちはついさっき喧嘩して そのせいであなたは出て行った
そして、ホテルのフロント係から悪い知らせが入る。
フロント係が教えてくれた 女の子が打ち上げられたと
小柄でアップル・ブロンドの髪をした天使
この天使こそが主人公の恋人だった。
海のそばまで行ってみると そこはひどく陰気な感じで
私はショックを顔に浮かべて立ち尽くした
霊柩車が出て行った 死んだ女の子はあなただった
あなたはもうこの腕に戻らない 本当に行ってしまったから
なぜ喧嘩をしたのか? もともと自殺するつもりだったのか? 詳細は語られないが、この曲の一番大事なことは残された人間は真実を知ることができない、ということだろう。
生者は、死者に何度も呼びかける。「なぜ? どうして? 私が悪いの?」この想いを抱えながら、生涯、日常を生きていかなければならない。だけど死者からの回答はありはしない(異次元からあなたに電話をかけてみるけど、あなたは返事を返してくれない)。
その後のパティ・スミスの人生を考えると予見的な歌詞だ。
生者はつらい。もしかしたら死者よりも。今も残された者は異次元から電話をかけ続けている。
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