天国でも地獄でもない中間地点
もともとは”Lost at Sea(海で失われた)”というタイトルがつけられていた“イン・リンボー”
ギタリストのエド・オブライエンが『キッドA』制作中に公開していたウェブ日記で、「In Limbo(どっちつかず)」と記したワードからこの曲の正式タイトルが決定した。
In Limboには宙ぶらりん、どっちつかずという意味もあるけれど、このLimboには「忘却の彼方」「忘れ去られた場所」そして、「地獄と天国の間にある中間地点(辺獄)」という意味もあるらしい。
キリスト教カトリックの考えでは、死後、人間が行く場所は5パターンに分かれている。
1 天国 キリストを信じて徳を信じた人が行く場所
2 地獄 邪悪な人間が行く場所
3 辺獄 キリスト以前に生まれた義人 洗礼を受けてない人が留まる場所
4 幼児の辺獄 洗礼を受けないで死んだ幼児が行く場所 天国と地獄の中間地点
5 煉獄 キリストを信じたが罪を犯してしまった人が行く場所。浄化が目的
天国と地獄はまあ、わかる。ただ、キリスト以前に生まれた人たちって、もう運でしかないから、そんな人たちが天国と地獄の中間地点で待ちぼうけをくらうってのはあんまりな気もするけれど……。
まあ、でもそういうルールだからしょうがない。ぼくだって15年以上使っていたリンキー・ディンク・スタジオの会員証をウェブ予約できるようにウェブ会員に変えたいなと思って、ネットで調べたら、以前から利用している会員は一度スタジオまで直接行かないと手続きができない、ということだった(これから新規になる人はウェブ上で完結)。まあ、こんな話はいいんだ。
“イン・リンボー”の歌詞をみていこう。
イン・リンボー 和訳
(ルンディ ファストネット アイリッシュ海 メッセージを受け取ったけど読めない)
ぼくはきみの味方
隠れ場所がない
開くドアはすべて遮断しろ
ぼくは螺旋状に下っていく
(おまえは空想の世界で生きてるんだ)
ぼくは海ではぐれた
放っといてくれ
ぼくの海がなくなっちまった
ぼくの海がなくなっちまった
(おまえは空想の世界で生きてるんだ)
(この世でいちばん美しい女)
戻ってこい!
戻ってこい!
戻ってこい!
(ルンディ ファストネット アイリッシュ海 メッセージが来たけど読めない)
レディオヘッド 『キッドA』‟イン・リンボー 対訳:山下えりか
ぼくの海がなくなっちまった
“Lost at Sea”と名付けられていたこともあって海のモチーフが出てくる。
この曲では、断絶やコミュニケーション不全が描かれている。
ここでは、メッセージを受け取ったけど読めない
そして、隠れ場所がない
ぼくは海ではぐれた
海というのは「情報」や「現代社会」を表しているのかもしれない。2000年になり、インターネットでできることが加速度的に増えた。今となっては部屋にいても情報や広告に晒され続けて、情報を取りにいくより、情報から身を守るような時代になってきている。便利さが首を絞めているような感じだ。遠くにいる人と繋がりたくてはじめたのに、遠くの人が目の前まで来て攻撃してくる時代。自ら望んでオンラインになっているのに、オフラインのほうが贅沢に感じる矛盾。
この曲の歌詞は一見支離滅裂だけど、そういった目線で見ると腑に落ちるというか、現代の我々には理解しやすいかなと思う。
ある声は言う。「ぼくはきみの味方」
ある声は言う。「この世でいちばん美しい女」
ある声は言う。「放っておいてくれ」
そしてぼくたちはこの海で「空想の世界で生きてるんだ」
この曲は「ぼくの海がなくなっちまった」という哀れさと、最期の現実に「戻ってこい!」というリフレインの間でゆらゆらと現代の辺獄に留まっている感じを歌っているのかもしれない。
(あまりライヴで演奏しているイメージがないのでやってほしい)
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