時代を創ることから下りたプライマルが目指した、ロックの原風景
プライマル・スクリームの名盤といえば『スクリーマデリカ』だ。この作品は、1991年という時代を捉え、今までのロックに新しい風を吹き込んだ歴史的傑作として輝いている。
その後、浮き沈みはあるけれど、『バニシング・ポイント』、『エクスターミネーター』、『イーヴル・ヒート』と、時代をクリエイトしていくような作品を立て続けに発表していく。パンク・ロックのエッジと、エレクトロニカのサウンドを融合させたサウンドは邪悪で、クールで、プライマル・スクリームのイメージを決定づけた作品群だった。
そして2006年に『ライオット・シティ・ブルース』が発表される。このアルバムはけっこう批評家泣かせで、良い曲はたくさんあるんだけど、決定打にかけるというか、プライマル・スクリームを語る上で欠かせない「革新性」や「クリエイティヴィティ」の面で語ることがほとんどないアルバムだった。
当時、よく言われたのは、『ギヴ・アウト・バット・ドント・ギブ・アップ』の時のようにルーツに回帰したアルバムだ、というやつ。どうなんだろう? 半分はそうかもしれないけれど、ぼくはこのアルバムをコンセプト・アルバムと見る。このアルバムはオープニングからラストの曲まで、繰り返し、繰り返し、同じモチーフを歌っている。それは「罪」、「ドラッグ」、「ジャンキー」、「キリスト」、「死」、「呪い」……。とにかく「罪」と「キリスト」というワードはマジで何度も出てくる!
ここで描かれているのは「ライオット・シティ」の世界。その世界で生きる「憂鬱」の物語だ。
おそらく、このモチーフがプライマル・スクリームのロックの原風景であり、ロックを創る動機なんだと思う。このアルバムでプライマルは、一旦、時代を創ることから下りたように思える。
そして、プライマル・スクリームは『ライオット・シティ・ブルース』で、ロックを再定義した。
オープニング・ナンバーは“カントリー・ガール”
本当にボビー? と思うぐらいピュアなエナジーがほとばしっている。まあ、聴いてみてよ。イカスぜ。
カントリー・ガール 和訳
おまえはそんな大物になりっこない
そんな重要になりっこないし
そんなクールになりっこない
責任を果たすのをやめちまうんだもんな
ああ そうだよ
哀れな坊やに何ができる?
ママのところに帰った方がいいよ
彼女が面倒見てくれるさ
妻に逃げられ
息子を失い
朝が来るまで
家に帰らず飲んだくれてる
ああ そうだよ
哀れな坊やに何ができる?
ママのところに帰った方がいいよ
彼女が面倒見てくれるさ
カントリー・ガール オレの手を取って
この病んだ土地から連れ出してくれ
オレは疲れて 弱って やつれ果ててる
盗みも働いたし 罪も犯した
ああ オレの魂は汚れてる
カントリー・ガール だけど持ちこたえて行かなきゃダメなんだ
イカレた女たちが
おまえの頭をメチャクチャに混乱させる
見知らぬ誰かのベッドで
酔っぱらって血まみれになったまま目を覚ますんだ
ああ そうだよ
哀れな坊やに何ができる?
ママのところに帰った方がいいよ
彼女が面倒見てくれるさ
持ちこたえて行かなくちゃ
ずっとめげすに
頑張り続けなくちゃ
ライオット・シティの憂鬱に
取り憑かれても
出て行く前に
ひとつ言っておかなきゃならないのは
自分の種に気をつけろってこと
種を蒔いたら自分で刈り取ることになるんだから
ああ そうだよ
哀れな坊やに何ができる?
ママのところに帰った方がいいよ
彼女が面倒見てくれるさ
プライマル・スクリーム 『ライオット・シティ・ブルース』 訳:沼崎 敦子
ライオット・シティの憂鬱に取り憑かれても
おまえはそんな大物になりっこない
そんな重要になりっこないし
そんなクールになりっこない
ボビー・ギレスピーの出身はスコットランドのグラスゴー。ロックへの愛と野心は人一倍もっていたボビーだけど、ロック・スターになるなんて夢もまた夢だと感じていた。いつかのインタビューで、ボビーは、地元ではせいぜい良くて工場で働くか、最悪の場合は失業者と語っていた通り、冒頭の歌詞のようなことは散々言われ、自分でもうすうす思っていたんじゃないかと思う。
妻に逃げられ
息子を失い
朝が来るまで
家に帰らず飲んだくれてる
盗みも働いたし 罪も犯した
ああ オレの魂は汚れてる
荒廃したライオット・シティの光景。労働者階級が多くいたグラスゴーの街が下敷きになっているのかもしれない。日々の楽しみはアルコールとフットボール。光の差さない暗い日々。
カントリー・ガール オレの手を取って
この病んだ土地から連れ出してくれ
そしてこの歌詞。おそらくボビーはボビー自身に対してこの曲を歌っている。少年時代、田舎の小僧だった自分自身に。
持ちこたえて行かなくちゃ
ずっとめげすに
頑張り続けなくちゃ
ライオット・シティの憂鬱に
取り憑かれても
グッとくるよね。笑
時代の先端をクールに快走していたプライマル・スクリームが、こんなド直球の歌詞をかなり真剣に歌うことにけっこう感動してしまう。
「ロックンロールはハイな魔法/ロックンロールは夢の武器」というスローガンを掲げるプライマル・スクリームはこのアルバムで、それを具現化する物語を描いている。
ボビーにとってロックンロールは、魔法でもあり、武器でもあるけれど、「罪」、「ドラッグ」、「ジャンキー」、「キリスト」、「死」、「呪い」でもあるというのがアルバム全体を通して聴くと感じられてきて、「ロックンロール」が持つものをプライマルが体現し、ぼくたちに教えてくれているようで、それはある部分では、音楽性や時代性なんかよりも遥かに大事なんじゃないか、と感じるんだ。「アティテュード」ってやつだね!
(今回の記事はマジで音楽的なことなんにも言わなかったな)
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