ヒップホップ・アンセム “ホエア・イッツ・アット”
『オディレイ』の中核を担うヒップホップ・アンセムがこの“ホエア・イッツ・アット”だ。
モンドなキーボードに、オールドスクールなラップとクールなビート、遊び心満載のサウンドに、時折入るハウリングノイズ……! クールな楽曲だ。
遊び心として笑えるのは60年代の性教育の教材がサンプルとして使われていること(それでは両性愛といわれる人々、いわゆるAC/DCの場合は? というフレーズ)。なんじゃこりゃ、と感じるけど、プロデューサーであるダスト・ブラザーズの手腕によってかっこよく楽曲に溶けこんでいる。
“ホエア・イッツ・アット”は、ヒップホップの洗練されていない時代のナマなエナジーが感じられる。ブルースもヒップホップも起源は路上で、ノンプロな音楽だ。
〈ホエア・イッツ・アット〉は、ヒップホップに対する僕の表明なんだ。ヒップホップ誕生に寄せるトリビュートってとこかな
『ベック』ジュリアン・パラシオス著 山本安見訳
そうベックが話す通り、歌詞はちょっと素朴というか、精一杯格好つけてる感じがあって、面白い。ルーツの探究者であるベックらしい視点が垣間見える楽曲でもある。
ヘンテコだけどかっこいい“ホエア・イッツ・アット”のPV。ベックがどことなくソニック・ユースのサーストン・ムーアに見える…。
ホエア・イッツ・アット 和訳
目的地は この道の少し先
なじみの家や町の少し先
抑えた灯りが見えたあの場所
ジャズをバラせ 流れを変えろ
調子に乗って 気前よく
ターンテーブル2台に マイク1本
ボトルに缶に いいから手拍子
とりあえず手拍子
それが肝心(ターンテーブル2台に マイク1本)
遠慮しないで出てこいよ
持ち前の上昇志向とひらめきで
ここは会員制
催眠術師が救急車のドライバーよろしく動き回る部屋
マイクロフォンの憂鬱で あんたの靴はピッカピカ
まいた種から育った果実でうっそうとしてる
西から東まで みんなをアッと言わせて回る
俺のダチのゲイリー・ウィルソンが
たいていのやつをロックしちまうように
Beck ODELAY WHERE IT’S AT ベック オディレイ ホエア・イッツ・アット 対訳 染谷和美
ジャズをバラせ 流れを変えろ ターンテーブル2台に マイク1本
70年代のニューヨークで盛んに行われていたブロック・パーティー。ストリートにターンテーブルとマイクを持ち出してブロック(区域)ごとにパフォーマンスを繰り広げる。DJがいてMCがいる。これがヒップホップというジャンルのルーツだ。
ターンテーブル2台に マイク1本
ボトルに缶に いいから手拍子
とりあえず手拍子
それが肝心(ターンテーブル2台に マイク1本)
この歌詞はまさに、ヒップホップがジャンルとして誕生する瞬間を描いたかのような、アマチュア感と地域のお祭り感が出ていて楽しい(PVもなんかそんな感じだったもんね)。
目的地は この道の少し先
なじみの家や町の少し先
抑えた灯りが見えたあの場所
ジャズをバラせ 流れを変えろ
そう思って歌詞を読むと、「イカした」ことをやってやろうぜ~、この辺じゃ俺が一番クールだぜ~と近所で競っているような風景が浮かんできてほほえましい。
まいた種から育った果実でうっそうとしてる
このフレーズはまさにそうで、小さなコミュニティで育った小さなジャンルが今では、ビッグ・ビジネスに育っている。
西から東まで みんなをアッと言わせて回る
俺のダチのゲイリー・ウィルソンが
たいていのやつをロックしちまうように
ここでカルトなミュージシャンのゲイリー・ウィルソンの名前が登場。なんでもアリ感が出ていてクールだし、「ゲイリー・ウィルソンって知ってるかい? 知らないだろ? クールな音楽なんだぜ」といったような内輪ノリ感もこの曲っぽくて素敵。
とにかく最高の曲なんだ、“ホエア・イッツ・アット”
ゴキゲンな日もサイテーな日でも寄り添ってくれる“ホエア・イッツ・アット”
気づいたらきみも「WHERE IT’S AT」と口ずさんでいるはず!
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