ジャン・ジュネ ヴィヴィ スウィート・ロックンロール
ジャン・ジュネというフランスの作家がいる。ジュネは生まれてすぐに親に捨てられて、少年時代から生きていくために犯罪を繰り返して(主に盗み)、ヨーロッパ中を放浪する。
牢獄の中で詩や小説を書き、ジャン・コクトーやサルトルなどのフランス知識人に見出され、文学界のアウトサイダーとして誰にも書けないような美しい物語を書くことになる。
このジュネ、ロック界への影響も大きく、パティ・スミスはジュネを崇拝していたし、デヴィッド・ボウイは“ジーン・ジニー”という(ジーン・ジニーはジャン・ジュネの英語読み)曲を作っている。
プライマル・スクリームのボビー・ギレスピーもジュネを英雄視していて、雑誌『GQ』の企画で、ジュネの足跡を辿ったときに「オレはジュネの気持ちがわかる」と語っている。
ジュネは牢屋にいながら言葉の力で刑務所を出た、オレは音楽の力でグラスゴーを出るのを夢見ていたから、と。
ボビーがジュネについて語るオフィシャルの動画があったのでこちらをどうぞ。グッチでキメキメのボビーが堪能できます。
“ドールズ(スウィート・ロックンロール)”にはゲストでザ・キルズのヴィヴィがパワフルなヴォイスで参加している。不良少女って感じでかっこいい。
ドールズ(スウィート・ロックンロール) 和訳
LALALALALALALALALALALALALALA
通りを歩いてるおまえを見かけた
他の男と手をつないで
シャークスキンのスーツ 黒いエナメル革のブーツで
大きな茶色の空飛ぶ円盤みたいな瞳をしてた
そのときはおまえに話しかけなかった
お友だちとキスしてたからな
そのうえタイミングも場所もまずかった
オレは家に帰ってシャワーを浴び
ジャン・ジュネの『花のノートルダム』を読んだ
オレたちがもう一度出会うってわかってたからさ
おまえのダイアモンドがほしいわけじゃない
おまえの黄金がほしいわけじゃない
おまえの愛がほしい
おまえの魂がほしいんだ
さあベイビー 楽しくやろうぜ
LALALALALALALALALALALALALALA
楽しくやろう 素敵なロックンロール
街中を探して
ぶらぶらしてる連中をしつこく問いつめた
おまえみたいな女をこれまでに見たヤツはいなかった
オレはストリップ小屋や博物館
バーやクラブやキリストのところまで訪ね歩いた
おまえの魂のために大聖堂で祈りを捧げさえした
するとある冬の雨の火曜日
地下鉄でおまえを見かけた
おまえは地下道に入っていくところ
オレはドアのところ
ガラスに顔を押しつけると
一瞬にしておまえが通り過ぎていった
まるでオートバイがひっくり返ったみたいに
おまえはオレの頭に衝撃を与えた
さあ 彼女がやってきた
そうよ 私はまた土砂降りの雨の中を歩いてたの
あなたは誰でなぜどこにいて何をしてるのかと考えながら
幻覚みたいな夢を見たわ
震えが来て汗が出て叫び声を上げた
まるで悪くなるばかりのクスリの禁断症状みたい
そしてある長くて暑い夏の夜
オートバイに乗って出かけたの
意地悪で邪悪そうなあなたが
目から火を噴いているのに出会った
ヴードゥーのロカビリー・クイーンがあなたのマシーンを
キックスタートさせてあげる
戦地に飛んでいく戦闘機のパイロットみたいにね
あなたはピッタリした黒いレザージャケットで
背中には髑髏のマーク
あなたのジーン・ヴィンセントみたいな素敵なロック魂に祝福を
プライマル・スクリーム 『ライオット・シティ・ブルース』 ドールズ(スウィート・ロックンロール) 訳:沼崎 敦子
おまえの魂がほしいんだ
この物語は、主人公の男が女の子の裏切りを目撃するシーンから始まる。
通りを歩いてるおまえを見かけた
他の男と手をつないで
そのときはおまえに話しかけなかった
お友だちとキスしてたからな
そのうえタイミングも場所もまずかった
このあと、主人公は怒り狂うのか、嫉妬でおかしくなるのかと思いきや、家に帰ってシャワーを浴びて読書を始める。
オレは家に帰ってシャワーを浴び
ジャン・ジュネの『花のノートルダム』を読んだ
オレたちがもう一度出会うってわかってたからさ
こう読むとこの二人は恋人ってわけではないのかもしれない。主人公が片想いしてるだけなのかも。いや、わざわざ『花のノートルダム』が出てくるあたりに何かヒントがあるかもしれない。
ジュネは裏切りを美徳と考えていた。同性愛、盗み、裏切り、社会から孤立すること。その孤絶した場所でこそ真の言葉が生まれてくると思っていた。それは虚しい祈りみたいなもので、おそらくこの曲の主人公はそういったものを目指している。
だけどサビのタイミングでその聖性は一気に崩れ去る。
さあベイビー 楽しくやろうぜ
LALALALALALALALALALALALALALA
楽しくやろう 素敵なロックンロール
そう! これは文学じゃなくてロックなんだ! これはプライマルでボビーなんだ!
2番目のヴァースで主人公は、女を探すために街を彷徨い歩く。
オレはストリップ小屋や博物館
バーやクラブやキリストのところまで訪ね歩いた
おまえの魂のために大聖堂で祈りを捧げさえした
切迫感を感じる歌詞だ。このあたりから「女」を「ロック」と置き換えたほうがしっくりくる気がする。語り手が主人公から「女」に変わり(ヴィヴィのパート)、彼女はこう言う。
ヴードゥーのロカビリー・クイーンがあなたのマシーンを
キックスタートさせてあげる
戦地に飛んでいく戦闘機のパイロットみたいにね
あなたはピッタリした黒いレザージャケットで
背中には髑髏のマーク
あなたのジーン・ヴィンセントみたいな素敵なロック魂に祝福を
女は主人公をキックスタート(エンジンをかける)させる。そして、祝福を授ける。
「おまえの魂がほしい」とゴミ溜めのような街を彷徨い、祈り、ヘラヘラ踊る。この曲は軽薄なロックンロールを讃える賛歌だ。スウィート・ロックンロール!
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