「国歌」と名付けられた曲
執拗なベースラインと不安感を煽るヴォイスと過激なホーンセクションが特徴のダンスナンバー。
高揚感は感じるけれど、みんなでセレブレーションしたくなる類のダンスナンバーではなく、曲のクライマックスとともに不安感も増すという不思議な曲だ。
ベースラインはトム・ヨークが考案。レコーディングでもトム自身で弾いている。ホーンのスコアはジョニー・グリーンウッドが書いたらしい。
この曲はライヴだと、ジョニーのトランジスタラジオ受信パフォーマンスから幕を開けることが多く、来日公演のときに、軍事関連(イラク侵攻だったかな?)のラジオを受信して会場がどよめいた。
そう、この‟ザ・ナショナル・アンセム”は、きわめて政治的な曲だと思う。
トム・ヨークが政治に興味を持ち始めたのは、自分に子どもが生まれたときかららしく、自分たちの世代が壊し尽したあとの世界をどう受け渡すか? という問題を自覚するようになった。
『キッドA』というアルバムは直接的ではないにせよ、「社会」に関するテーマがちりばめられているような気がする。
さあ、この「国歌(ナショナル・アンセム)」と名付けられた曲の歌詞を見ていこう。
ザ・ナショナル・アンセム 和訳
みんな
ここにいるみんな
みんなもうちょっとのところで
なんとかふんばっている
みんな
ここにいるみんな
みんな何かが怖い
なんとかふんばってる
ふんばってる
レディオヘッド 『キッドA』‟ザ・ナショナル・アンセム” 対訳:山下えりか
ここにいるみんな――何かが怖い
うまく言えないけれど「この曲にはこの歌詞じゃないとあり得ない」という曲があるよね?
この‟ザ・ナショナル・アンセム”がまさにそれで、この歌詞じゃないとあり得ないような気がするんだ。
ここで描かれている曖昧な感情は、国家に対するもので、このムードを共有できる人だけがこの曲の持つ力を感じれるんじゃないかな?
ここにいるみんな
みんなもうちょっとのところで
なんとかふんばっている
ここにいるみんな
みんな何かが怖い
『OKコンピューター』収録の‟ラッキー”では「We are standing on the edge(ぼくたちは崖っぷちに立っている)」と歌ったけれど、この曲はそれに呼応しているような気がする。だけど‟ラッキー”のほうがいくぶん皮肉的で、‟ザ・ナショナル・アンセム”はもっとシリアスだ。
ぼくたちは普段、「国」について考えない。この曲でレディオヘッドは「国を打倒せよ」とも「腐敗政治をやめろ」とも「選挙にいこう」とも歌っていない。ただ、「みんな何かが怖い」と言っているだけだ。だからこそ「なんとかふんばってる」人たちには響くんだと思う。
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