悲しみよこんにちは
著者:フランソワーズ・サガン
発表:1954年
舞台:南仏コート・ダジュールの海辺の別荘
17歳のセシルは、父レイモンとその愛人エルザとともに、南仏の別荘でバカンスを過ごしている。日々は気ままで退屈に満ちているが、それこそが彼女にとっての“幸福”だった。
そこに突如現れるのが、父の旧友であり母の親友でもあったアンヌ。彼女は洗練されていて冷静沈着、レイモンを更生させようとし、セシルにも勉学と品位を求めてくる。
やがてレイモンはアンヌと婚約し、別荘には緊張が走る。
セシルは「自由を奪われる」ことに恐怖し、エルザと近隣の青年シリルを巻き込んで、アンヌとレイモンを破局させる策略を企てる。
計画は成功したかに見えたが、その結果、アンヌは絶望し、事故(あるいは自殺)によって命を落とす。
夏の終わり、セシルはふたたび父と日常に戻るが、どこかに空虚さと“悲しみ”が残る――。
悲しみとは何か― フランソワーズ・サガン『悲しみよこんにちは』
「Je te salue, tristesse. Bonjour tristesse…」
― ポール・エリュアール『悲しみよこんにちは』より
1954年、18歳の少女が文学界に旋風を巻き起こした。フランソワーズ・サガンのデビュー作『悲しみよこんにちは』は、戦後フランスにおける自由と倦怠、性愛と秩序、そして無垢と破壊の物語だ。
タイトルは、シュルレアリスト詩人ポール・エリュアールの詩から取られている。
Je te salue, tristesse.
Bonjour tristesse.
Toi qui me regardes avec des yeux trop clairs…
― Paul Éluard, La Vie immédiate, 1945
(こんにちは、悲しみ。君はあまりにも澄んだ瞳で、私を見つめている…)
この詩の一節が示すように、悲しみとは、光に似た何かである。
見えすぎてしまう、見たくないもの。幸福の裏側に差し込む影のような存在。
独占欲 ― 父を取られるという「存在の危機」
セシルは、父レイモンとの放蕩的で享楽的な生活を心地よく享受していた。
だけど、そこに“秩序”を象徴する女性アンヌが現れた瞬間、彼女の心は乱れる。
「私の知らない世界が、ふいに差し出され、それが父を引き寄せていく。」
アンヌは“遊び”ではない。レイモンの本気の恋、つまり家庭の再構築と規範的な未来を予感させる存在だった。
セシルの焦燥は、父との共犯関係が崩壊することへの嫉妬であり、未分化な独占欲の叫びである。
彼女は父を「恋人未満、父親以上」として位置づけ、家族内の支配関係において、母の不在を補いながら、女であることの特権を行使していた。
混乱 ― 思春期の境界で崩れる自己像
セシルという存在は、常に内的矛盾の渦中にある。
大人びたふるまい、恋愛ごっこ、策略的思考。それらの裏に、自己像の揺らぎがある。
アンヌを陥れた後に訪れるのは、勝利ではなく虚無。策略によって思い通りになったはずなのに、セシルはかつてのように無垢に笑うことはもうできない。
「私は混乱していた。幸福と不安、罪悪感と安堵が、胸のなかで入り混じっていた。」
この“混乱”は単なる善悪判断の錯誤ではない。
それは、自分自身の感情や欲望に対する理解が追いつかず、それでも抗いようもなく他者を傷つけてしまったことに対する、倫理的な揺らぎである。
悲しみの名を呼ぶということ
「私は悲しみを知っている。その名前を呼ぶことしかできない。」
セシルが最後に残されるのは、「悲しみ」という名を持った空虚である。
そこには欲望と罪、自由と破壊のすべてが混在している。
だけど、彼女はまだその全貌を理解するには若すぎる。ゆえに、「その名を呼ぶ」ことしかできない。
この「悲しみ」は、単なる喪失ではない。
それは、倫理的目覚めの入口であり、自己が他者を害する主体であるという認識のはじまりなのだ。
『悲しみよこんにちは(Bonjour Tristesse)』の舞台のひとつ=サントロペ半島(コート・ダジュール)の中心に位置する名門ワイナリー“シャトー・ミニュティ”
「サントロペは一つの夢想を、一つの狂気を人の心に惹き起こす、それが甘美なものであろうとなかろうと」フランソワーズ・サガン
Château Minuty(シャトー・ミニュティ)は、『悲しみよこんにちは(Bonjour Tristesse)』の舞台のひとつであるサントロペ半島(コート・ダジュール)の中心に位置する名門ワイナリー。サガンが描いた1950年代の自由と倦怠、海辺の光と影をそのままボトルに詰め込んだような、エレガントなロゼ・ワインだ。
プロヴァンスワイン
🗺 地域
- 南フランス、地中海に面したプロヴァンス地方(マルセイユ〜ニース、サントロペを含む)

フランスワインの十大産地
- シャンパーニュ – 北東部、スパークリングワインの聖地
- ブルゴーニュ – 中部、ピノ・ノワールとシャルドネ
- ボルドー – 南西部、世界最高級の赤ワイン
- アルザス – ドイツ国境、白ワインが有名
- ロワール – 中部、多様なワインスタイル
- ジュラ・サヴォワ – 東部、独特な黄ワイン
- ローヌ – 南東部、力強い赤ワイン
- 南西地方 – 地方品種の宝庫
- ラングドック – 南部、大量生産から高品質へ
- プロヴァンス – 南東部、ロゼワインが有名
プロヴァンスはロゼの産地と言い切ってしまってもいいくらい、ロゼワインの生産が多い(生産量の約9割!)。
ロゼワインの特徴はその美しさ。ごく淡いサーモンピンク〜グレーがかったピンク、よく言われる「プロヴァンス・ピンク」はこの地域の代名詞。
味わいはフレッシュでエレガント、軽やかでドライ、余韻にかすかな塩気は海風の影響から。
乾燥した暑い気候とミストラル(強風)により、病害少がなく自然なブドウ栽培が可能。
土壌は石灰質や粘土質、赤土など多様。とくに海沿いはミネラル感が強い。
ローマ時代からの長いワインづくりの歴史を持つ(フランス最古の産地の一つ)。
シャトー・ミニュティー「エム・ド・ミニュティー」


コート・ド・プロヴァンスで23しかない※クリュ・クラッセの1つに選定されたプロヴァンスワインの名門、シャトー・ミニュティー。
世界のロゼワイン市場を牽引してきた名門が造る上質な1本です。
年間生産量は200万本。※「クリュ・クラッセ」とは、フランス語で「格付けされたクリュ(畑)」を意味します。プロヴァンス地方のクリュ・クラッセは、特定の畑のワインが、他のプロヴァンスワインよりも高い品質と評価を受けていることを示します。
これぞプロヴァンスのロゼというイメージ通りのワインです。
淡い色合いでフレッシュ、果実味があふれ、飲みやすいワインに仕上がっています。
心地よい酸にスムーズな口当たり。様々な料理と気楽に楽しめるフレッシュな辛口ロゼ。ブドウ品種:グルナッシュ、サンソー、シラー
ざっくり解説 ロゼワインの造り方や豆知識
・基本的に黒ブドウで造る
・製法は大きくわけると3つある
・歴史が古い(プロヴァンスでは紀元前6世紀頃から古代ギリシャ人によってワイン造りが始まった)
1.セニエ法(saignée:血抜き)
黒ブドウから、赤ワインのように皮ごと仕込み、発酵前にすぐ果汁だけを抜き取って造る方法
2.直接圧搾法
ゆっくりプレスして果皮の色を移す方法(セニエよりも果皮との接触時間が短いため淡い色合いに仕上がる。プロヴァンス・ロゼの王道スタイル)
3.混醸法
黒ブドウと白ブドウを一緒に発酵させる方法(EUではほとんどの地域で禁止。認められているのはシャンパーニュ地方で造られるスパークリングワイン)
・ロゼ(Rosé)はフランス語で「バラ色」を意味する
・プロヴァンス地方は、世界的なロゼワインの産地として知られている(フランス全体のロゼワイン生産量の約40%を占める)
・フランスでは、ロゼワインの消費量が非常に多く、スティルワインの消費量の約30%を占める(白ワインよりも飲まれている)
・日本では、ロゼワインはまだ赤ワインや白ワインほど一般的ではない。これは、ロゼワインが日本で広まり始めた初期に甘口のものが多かったため、「甘すぎる」「食事に合わない」「子どもっぽい」「お酒が弱い人が飲むもの」といったネガティブなイメージが定着したこと、また、ロゼワインの知識や情報が不足していることが原因と考えられる
・実際は幅広く食事に合わせられる
サントロペについて
・日本との意外な関係 1615年、伊達政宗が派遣した支倉常長(はせくら つねなが)一行による慶長遣欧使節(けいちょうけんおうしせつ)がこの地を訪れており、これが日仏交流の最初となっている
・セレブリティの集まる地 サントロペはフランス人だけでなく、世界的なセレブリや億万長者が愛する休養地としてもよく知られている。レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、テイラー・スウィフト、ジネディーヌ・ジダンなど、名前を聞くだけでも華やか!
・サントロペは、サガンにとって単なる別荘地ではなく、彼女の作家としてのライフスタイルを象徴する場所だった。当時のサントロペは、1950年代にブリジット・バルドーが愛した場所として脚光を浴び始めており、フランスの文化人やアーティストたちが集まる洗練されたリゾート地として発展していった。サガンがサントロペで過ごした時間は、彼女の作品にも影響を与えたと考えられる。プロヴァンス地方の明るい太陽、地中海の青い海、そして洗練された社交界の雰囲気は、彼女の小説に描かれる優雅で退廃的な世界観と重る。

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