ニルヴァーナ 『イン・ユーテロ』 レディオ・フレンドリー・ユニット・シフター 歌詞考察

歌詞考察
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混沌としたパンクソング

もしかしたらライヴで一番かっこいいニルヴァーナの曲はこの‟レディオ・フレンドリー・ユニット・シフター”かもしれない。フィードバック・ノイズの混沌から、叩きつけられるドラム、執拗にうねるベースに、切り裂くギター。ぐちゃぐちゃしたエネルギーが一直線に放射されている。

歌詞は、怒りと懐疑、批判、アジテイト、メッセージ、あきらかに混乱した心をカート・コバーンは歌っている。

1993年12月、ニルヴァーナはシアトルで最高のライブをやってのけた。後に『ライヴ・アンド・ラウド』として音源化、映像化されたものなんだけど、ぼくは十七歳の時に海賊版のVHSを持っていて、それこそ擦り切れるぐらい観まくった。そのライブのオープニングがこの‟レディオ・フレンドリー・ユニット・シフター”で、ライブの一曲目といったらこれ!って感じに自分の中では刷り込まれてしまっている。

このライブはMTVがオンエアした毎年恒例の大晦日特番のやつで、レッド・ホッド・チリ・ペッパーズアンソニー・キーディスフリーが曲間で、女装をして頭の弱い女の子を演じる(やたらトーキンアバウト、トーキンアバウト言ってる)寸劇が差し込まれていて、鬼気迫る晩年のカートとの対比がなんともいえない味を出している。なので、圧倒的なニルヴァーナのパフォーマンスと、エンディングに人体模型の頭をギターでぶっ飛ばすシーンと、アンソニーとフリーのトーキンアバウトがセットになってぼくの記憶にはインプットされている。

‟レディオ・フレンドリー・ユニット・シフター”――ラジオ向きのイカサマ野郎というタイトルは、当初、‟ナイン・マンス・メディア・ブラックアウト”というタイトルだった。9か月間のメディアからの抹殺。そのメディアというのは「ヴァニティ・フェア」誌。

この雑誌が「コートニーが妊娠していながらヘロインをやっている」という記事を書いたことにカートは激怒。当然、アメリカ中で大バッシングが起こり、ガンズ・アンド・ローゼスアクセル・ローズまでもが「カート・コバーンはジャンキー妻をもらった。くそジャンキー野郎だ。もし奇形児が生まれるようなことがあったら、ふたりとも刑務所にぶち込まれるべきだね」と発言。この問題は加熱していく。カートとコートニーはすり減らし、メディアと、それを読む大衆にうんざりしたカートは解散寸前までいってしまう。

この痛手とそれに伴う憎悪はけっこう尾を引くんだけど、娘のフランシスは元気に生まれてきたし、ラジオ向けのイカサマ野郎、というカート流の皮肉が言える程度にはなっていったんだね。

Nirvana – Radio Friendly Unit Shifter (Live And Loud, Seattle / 1993)

ドラムのぶっ叩き具合が凄まじい……!クリス・ノヴォゼリックとパット・スメアのプレイもいいね。カートは効果的にエレクトリック・ハーモニクスのエフェクターを駆使しているし、ニルヴァーナ全員の存在感が凄い。

レディオ・フレンドリー・ユニット・シフター 和訳

たった一度だけ使ってぶっ壊す

俺たちの海賊行為への侵害

国民の後産

おまえの合鍵なしで餓死

俺にないもののためにおまえを愛する

俺にあるものはもう欲しくない

たばこの焦げ跡が

ひどいにきびのように見える毛布

交替しながら喋れ

二流の拷問が責めたてる

俺のどこがまずいんだ

俺にないものは何なんだ

俺はいったい何を考えているんだろう

おまえが何を考えていようが関係なかったぜ

おまえが考えたりしての話だけど

まったく正反対のふたつのものが引きつけあう

突如として俺の分泌液が溢れだした

憎め おまえの敵を憎め

救え おまえの友を救え

見つけろ おまえの場所を見つけろ

話せ 真実を話せ

ニルヴァーナ 『イン・ユーテロ』”レディオ・フレンドリー・ユニット・シフター” 対訳:中川五郎

真実を話せ

この曲の歌詞は正直、まとまとりがなく書いたのがカート・コバーンじゃなかったら「どういう方向性なの……?」と思ってしまう。だけどこのひりひりしたパンクソングは「混乱した心」を歌っているんだ、と思うとしっくりくる。

基本的にカートは直接的にアホ(だと思っている)メディアや大衆を攻撃している。だけど、攻撃を加えたあと自分に対して「俺が間違っているのか?」というような猜疑心を自分に向けている。

俺のどこがまずいんだ

俺にないものは何なんだ

俺はいったい何を考えているんだろう

抑圧されながらこのフレーズを歌うカート。胸に迫るものがある。

たばこの焦げ跡が

ひどいにきびのように見える毛布

カートとデイヴ・グロールが一緒に住んでいたとき、どちらも掃除なんかしないから部屋は荒れに荒れ、毛布に煙草の灰を落としまくるから「ひどいにきびのように見え」たらしい。

俺にないもののためにおまえを愛する

俺にあるものはもう欲しくない

カートの本音のような渇望感。

おまえが何を考えていようが関係なかったぜ

おまえが考えたりしての話だけど

メディアに対する皮肉、攻撃。

まったく正反対のふたつのものが引きつけあう

これも正直に心情を吐露していると思う。

この曲にはまったく「ラジオ向け」なところなんかなく、かなり「一生懸命」ロックしている。混沌の渦を抜けて絞り出すように叫んだ言葉が以下の四つ。

憎め おまえの敵を憎め

救え おまえの友を救え

見つけろ おまえの場所を見つけろ

話せ 真実を話せ

カートにとっての「真実」が多分これなんだろう。

夢を叶えて、ロック界のスターになった田舎のパンク少年にとって、得られたものよりも「本当のことを話す」ことのほうに価値があったらしい。

皮肉屋で曖昧を好むカートがけっこうマジな「メッセージ」を歌っているみたいでなかなか貴重な曲だと思う。思う反面、晩年感も感じられてちょっとだけ寂しい気持ちにもなってしまうけれど。

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