トム・ヴァーレインと共作したロック・ナンバー
ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ラモーンズ、トーキング・ヘッズ、ブロンディ、スーサイド、そしてパティ・スミス、テレヴィジョン……時代を彩ったニューヨークパンクたち――
同時期にこんなに個性的なグループがシーンを形成していたっていうのは凄いことだよね。
パティ・スミスはテレヴィジョンのトム・ヴァーレインと仲が良かった。ヴァーレイン(フランスの詩人ポール・ヴェルレーヌから取って自分でつけた)と名乗るギタリストと仲良くなれないわけないよな、と思う。
親密だった二人はいくつかの共作を行っていて、最初期のコラボレートがこの“ブレイク・イット・アップ”だ。テレヴィジョンでのプレイのようにこの曲でトム・ヴァーレインは官能的なリード・ギターを弾いている。
曲のインスピレーション源はドアーズのジム・モリスン。正確に言うとジム・モリスンの墓。
1972年フランス、パリのペールラシェーズ墓地に眠るジム・モリスンの墓を訪れたときに起こった想いを歌っている。
ブレイク・イット・アップ 和訳
空き地に一台の車が停まった
一筋の命 それが近づいてきた
あの少年が皮膚を破って出てくるのを私は見た
心臓がはじけそうになって 私は這いながら進んでいった
彼は叫んだ ぶち壊せ ああ 私には分からない
ぶち壊せ 理解できないわ
ぶち壊せ ああ あなたのことを感じたいの
ぶち壊せ そんな風に口をきかないで
聞きたくないから
雲が降り始めて
天使の呼び声が聞こえた
私たちは地面を転がり 彼は翼を広げた
少年は飛び去り 歌い始めた
彼は歌った ぶち壊せ ああ 私には分からない
ぶち壊せ 理解できないわ
ぶち壊せ ああ あなたのことを感じたいの
ぶち壊せ 私を見ないで
空が怒り狂い 少年は消えた
私がひざまずくと 周囲の空気が晴れた
再び少年が現れて 私は叫んだ お願い 連れて行って
氷が輝いていた 私は心臓が溶けていくのを感じた
私は着ていた服を引きちぎり 靴だけで踊った
肌を引き裂き 氷が割れて落ちて 私は叫んだ
ぶち壊せ ああ 今なら私にも分かる
ぶち壊せ 私も行きたいの
ぶち壊せ ああ お願い 一緒に連れて行って
ぶち壊せ それが壊れていくのが感じられる
それが壊れていくのが感じられる それが壊れていくのが感じられる
感じられる 感じられる 感じられる
ぶち壊せ ああ 今 私はあなたと一緒に行くわ
ぶち壊せ 私は行こうとしている
ぶち壊せ ああ 私を感じてちょうだい 私は行ってしまう
ぶち壊せ ぶち壊せ ぶち壊せ
ぶち壊せ ぶち壊せ ぶち壊せ
ぶち壊せ ぶち壊せ ぶち壊せ
パティ・スミス 『ホーセス』 ブレイク・イット・アップ 歌詞対訳:野村伸昭
ぶち壊せ ぶち壊せ ぶち壊せ
この曲では何度も「ぶち壊せ」という言葉が繰り返される。
パティ・スミスはドアーズを初めて観た時に「これを私はやることができる」と直感で感じたらしい。数年後、実際に自身もバンドを組み、詩とロックンロールをミックスさせたスタイルで世に出て行くことになる。つまり、ドアーズがいなければパティ・スミスはロックの領域に踏み出さなかった可能性があるってことだ。
パティ・スミスは、ジム・モリスンが墓碑で身動きが取れず空に羽ばたけずにいる、という夢を見たと語る。この曲でパティ・スミスは石の翼を持ったジム・モリソンを自由にするために歌っている。
天使の呼び声が聞こえた
私たちは地面を転がり 彼は翼を広げた
少年は飛び去り 歌い始めた
彼は歌った ぶち壊せ
ジム・モリスンは天使のように翼を広げて「ぶち壊せ」と歌う。
始めは、理解できないわと歌うパティ・スミスだけど、徐々に知覚の扉が開いていく。
理解できないわ
そんな風に口をきかないで
聞きたくないから
私は心臓が溶けていくのを感じた
ああ 今なら私にも分かる
それが壊れていくのが感じられる
私は行こうとしている
私は行ってしまう
ぶち壊せ ぶち壊せ ぶち壊せ
この繰り返される「ぶち壊せ(Break It up)」は、「向こう側に突き抜けろ(Break on through to the other side)」と歌ったジム・モリスンへのオマージュで、向こう側を目指したジム・モリスンを、見るだけだった存在のパティ・スミスが、自分も同じ場所を目指す立場になったという宣言、意思を表明した曲なんだと思う(今なら私にも分かる→私は行こうとしている→私は行ってしまう)。
実際にパティ・スミスは多くのものを「ぶち壊した」と思う。詩人、パンクロッカー、性差、アート。さまざまな分野でインパクトを残したと思うし、なんなら先輩のジム・モリスンよりも「ぶち壊した」かもしれない(ジム・モリスンは短命だったからね)。
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