カリフォルニアの闇 バンドの傷
1999年、福島県福島市パセオ通りにあるレコード屋で、レッド・ホット・チリ・ペッパーズの『カリフォルニケイション』を買った。
チリ・ペッパーズはファンキーでパンクで尖がってる最凶のバンドという紹介がされていたので、このアルバムを聴いた時は、アレ、なんかそこまで凶悪じゃないような……俺の耳が悪いのかな。と思っていた。
“ストーン・コールド・ブッシュ”とかそういうノリを期待していたのかもしれない。ぼくはまだ十代で、とにかくロックな音楽が聴きたかった。だけど、これはロックのアルバムだった! しかも正真正銘マジのロックのアルバムだった……!
当時はガキだったから、すげえ激しいわけじゃないけど良い曲がいっぱいあって嬉しいな、と思うだけだったけど、このアルバムって「弱さ」や「闇」をテーマにしてるよね?
チリ・ペッパーズは80年代のイケイケでギラギラのロサンゼルスで、とにかくやんちゃで、派手で、強くて、尖がっていて、そして勝たなければ、というメンタリティで活動していたと思うんだけど、もちろん人間は勝ち続けることなんてできるわけないし、きらびやかなロサンゼルスだって、闇や腐敗があり、バンドだって、盟友ヒレル・スロヴァクの死や、親友の死、メンバーの脱退、深刻なドラッグ問題があったわけで、まあ、ボロボロだった。
そこで、失踪状態だったジョン・フルシアンテが復帰して、この感動的なアルバムが生まれる。
このアルバムが感動的なのは、80年代、90年代のカリフォルニアをベースタウンとして持つバンドの戦いの歴史を「傷跡」として見せているから。それが陳腐な物語じゃなく、「カリフォルニア」という世界を描いていて、なおかつ曲の強度が強く、なおかつ新しかったから。
ジョン・フルシアンテの表現力の進化と、アンソニー・キーディスのストーリーテリング力の進化が幸せな形でマッチングしている。
とくにアンソニーは、若い頃はイキったチンピラ感が満載だったのに。
“アンダー・ザ・ブリッジ”で歌った時に「アンソニーが歌った!!」と記事になるぐらい(スラムダンクで花道がジャンプシュートした時にみんな驚いたエピソードみたい)、歌うなんて稀で、とにかく攻撃的なラップで攻めて、攻めて、攻めてきていた人だったから、カリフォルニケイションで「痛み」を歌えるようになったことは凄い進化だ。マジでロックしてる。ガキにはわからない……
けっこうコミカルなPVだよね(トンボに二人乗りしてるとこが可愛い)。笑
シリアスな曲調との対比が面白い。だけどこのビデオゲームの世界は、カリフォルニアの虚構を表しているのかもしれない。
そして歌詞はこんな感じ。
カリフォルニケイション 和訳
Psychic spies from China try to steal your mind’s elation
中国からの霊能者が心の意気を奪おうとする
Little girls from Sweden dream of silver screen quotations
スエーデンから来た女のコ達 銀幕の引用を夢見ている
And if you want these kind of dreams
こんな夢が欲しいなら
It’s Californication
それはカリフォルニケーション
It’s the edge of the world and all of western civilization
世界の果て そして全西洋文明も
The sun may rise in the East at least it settles in the final location
太陽は東から昇るかもしれないが少なくても最終地で沈む
It’s understood that Hollywood sells Californication
誰でも分っていることはハリウッドがカリフォルニケーションを売っていることだ
Pay your surgeon very well to break the spell of aging
老化を防止するには 外科医に充分金を出せ
Celebrity skin is this your chin or is that war your waging
有名人の肌、本物の顎か? あの戦争はお前が取り組んでいるのか
First born unicorn
最初に生まれたユニコーン
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Dream of Californication
カリフォルニケーションの夢を見て
Marry me girl be my fairy to the world Be my very own constellation
俺と結婚してくれガール、俺の世界の妖精になってくれ 俺だけの星座になってくれ
A teenage bride with a baby inside Getting high on information
妊った10代の花嫁 情報でハイになってる
And buy me a star on the boulevard
通りにスターを買ってくれないか
It’s Californication
それがカリフォルニケーションだから
Space may be the final frontier But it’s made in a Hollywood basement
宇宙が最後のフロンティアかもしれないけど ハリウッドの地下室で作られているんだ
Cobain can you hear the spheres Singing songs off station to station
コベイン、天体が聞こえるか 局から局で歌を歌っている
And Alderaan’s not far away
アルデロンもそう遠くはないよ
It’s Californication
カリフォルニケーションだから
Born and raised by those who praise control of population
褒める人によって生まれ育つ 人口制限、
Everybody’s been there and I don’t mean on vacation
誰もが一度は行ったことがある それもバケーションじゃないぞ
First born unicorn
最初に生まれたユニコーン
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Dream of Californication
カリフォルニケーションの夢を見て
Destruction leads to a very rough road But it also breeds creation
破壊は険しい道へ続くが 創造も育てている
And earthquakes are to a girl’s guitar They’re just another good vibration
そして地震は女のギターに良いバイブレーションを与えるものだ
And tidal waves couldn’t save the world From Californication
津波は世界を救うことができなかったよ カリフォルニケーションから
Pay your surgeon very well
老化を防止するなら
To break the spell of aging
外科医に充分金を出せ
Sicker than the rest, there is no test
他より邪悪だけどなんのテストもないんだ
But this is what you’re craving
これがお前の欲求だよ
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最初に生まれたユニコーン ハードコアなソフトポルノ
Dream of Californication Dream of Californication
カリフォルニケーションの夢を見て カリフォルニケーションの夢を見て
Dream of Californication Dream of Californication
カリフォルニケーションの夢を見て カリフォルニケーションの夢を見て
Red Hot Chili Peppers Californication 対訳:国田ジンジャー
レッド・ホット・チリペッパーズにおいて、リズムと韻はとても重要な要素だから「意味」という点ではわかりづらいケースが多いんだけど、この曲は、わりとはっきりしてる。
カリフォルニア まやかしの街
世界の果て そして全西洋文明も 太陽は東から昇るかもしれないが少なくても最終地で沈む
最西の大都市カリフォルニアは巨大な都市だ。アメリカのどこに住んでいても、太陽が沈む場所はカリフォルニア。だけど巨大な都市ではあるが、アンソニーのこの歌詞を読むと偉大な都市ではないのかもしれない。
スエーデンから来た女のコ達 銀幕の引用を夢見ている
妊った10代の花嫁 情報でハイになってる
老化を防止するなら 外科医に充分金を出せ
通りにスターを買ってくれないか
これがお前の欲求だよ
宇宙が最後のフロンティアかもしれないけど ハリウッドの地下室で作られているんだ
誰でも分っていることはハリウッドがカリフォルニケーションを売っていることだ
カリフォルニケーションの夢を見て
カリフォルニアには、世界中から有名になりたい、成功したい、綺麗になりたい、そんな欲望を持った人たちが集まってくる。「夢」という欲望のために。
夢は麻薬だ。アメリカン・ドリームは幻想だ。ハリウッドは夢を売っている。それは誰でも知っている。
アンソニーは自分を育ててくれたカリフォルニアの負の側面、カリフォルニアはまやかしの街だ、と描写することで、違うステージに行こうとしているように見える。
そして、Cobain can you hear the spheres Singing songs off station to stationという歌詞。
ライナーの対訳ではコベイン、天体が聞こえるか 局から局で歌を歌っているとなっているが
the spheresは、フーファイターズのバンド名の元ネタで、ここの歌詞は「コベイン、フーファイターズがステイション・トゥ・ステイションを歌っているのが聴こえるか」という意味なのかも(デイヴ・グロールがデヴィッド・ボウイのファンだから? カートが生前デヴィッド・ボウイをカバーしていたから?)。
なんにせよカート・コバーンに言及する歌詞が出てきてグッとくる。失っていったものへの眼差しも、失くす辛さを知った、チリペッパーズだからこそなのかもしれない。
人間は歳を取ると、失うことが多くなってくる。
“カリフォルニケイション”は失い、傷つく人生を表現した本当のロックソングなんだ。
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