福岡読書会 本とワイン ④アルベール・カミュとフランスワイン

レビュー/雑記

異邦人

著者:アルベール・カミュ
発表:1942年
舞台:フランス領アルジェリア・アルジェの海辺

無関心とまぶしい太陽の下で、ひとりの男が生きている。男の名前はムルソー。母の死の知らせを受けても涙を見せず、ただ「暑かった」と感じる。淡々とした日常の中で、彼は恋人と海へ行き、トラブルに巻き込まれ、そして偶然のようにアラブ人を撃ち殺してしまう。

その一発の銃声は、彼の人生をゆっくりと反転させていく。裁判の場では、罪よりも「母の葬式で泣かなかった」ことが責められ、社会は彼を異物として排除しようとする。ムルソーはやがて、世界の不条理と対峙する――それは理屈ではなく、太陽の光のように容赦なく、ただそこに在る。

『異邦人』は、人間の孤独と世界の沈黙を描いた20世紀文学の金字塔である。ムルソーの冷ややかな視線の中に、カミュは“存在(生存)とは何か”という問いを投げかけている。

この世界では本当のことを言ったら死ぬ

ムルソーは「母の死に悲しみを感じなかった」ことを正直に告げる。裁判では、事件そのものの理由よりも、彼の感情や態度が問題視される。

この構造は、現実世界で「本当のことを言えば、社会から排斥される(死に等しい危険を伴う)」という寓話のようにも読める。

カミュが提唱する「不条理」の哲学――人間は世界に理性的な意味を求めるが、世界は無意味である――とも深く重なる。言い換えれば、『異邦人』は、社会の常識や道徳にそぐわない「現実」をそのまま受け入れることの困難を描いた物語だ。ムルソーは嘘をつかず、自分の感覚に従った。しかし、社会はそれを許さない。

カミュが最後に飲んだワイン フルーリ

カミュは1960年1月4日、友人ミシェル・ガリマールの運転する車で国道6号線を走行中、ヴィルブルヴァンとヴィルヌーヴ=ラ=ギュヤールの間で事故を起こし、プラタナスの樹に衝突して即死した。
伝えられるところによれば、二人がその直前の昼食で味わっていたのは、ボジョレーの赤ワイン──フルーリだったという。

なぜ、フルーリを選んだのか? その理由はわからない。でも、その瑞々しい赤は太陽を愛したカミュの姿によく似合う。

1. ボジョレー(Beaujolais)とは

  • フランス中東部、ブルゴーニュ地方南部に位置するワイン産地。
  • ガメイ(Gamay)という赤ワイン用葡萄を主体にしたワインが特徴。
  • 味わいの特徴:
    • 軽やかで果実味豊か、酸味が柔らかく、飲みやすい。
    • 若いうちに飲むフレッシュなスタイル(ボジョレー・ヌーヴォー)と、熟成しても楽しめるタイプがある。
  • 生産地域は広く、ボジョレー全体としては比較的リーズナブルでカジュアルなワインが多い。

2. クリュ・ド・ボジョレー(Cru Beaujolais)とは

  • 「クリュ(Cru)」とは、フランス語で「特級畑」や「特定の区画」を意味する。
  • ボジョレー地区の中でも特に優れた畑から生まれるワインの総称で、10のクリュ・ド・ボジョレーが存在する
    1. サンタムール (Saint-Amour)
    2. シェナス (Chénas)
    3. ジュリエナス (Juliénas)
    4. ムーラン・ア・ヴァン (Moulin-à-Vent)
    5. シルーブル (Chiroubles)
    6. モルゴン (Morgon)
    7. フルーリ (Fleurie)
    8. レニエ (Régnié)
    9. ブルイィ (Brouilly)
    10. コート・ド・ブルイィ (Côte de Brouilly) 
  • クリュ・ワインは一般的なボジョレーよりも奥行き・複雑さ・熟成力がある。

フルーリ(Fleurie)の特徴

  • 軽やかでエレガント、薔薇や赤い果実の香りが特徴。
  • ミネラル感とわずかなタンニンで、果実味の余韻が美しい。
  • 軽やかでありながら、奥行きがあるため「一人でゆっくり味わう」ときにも最適。

3. ボジョレーとクリュの位置づけまとめ

項目ボジョレークリュ・ド・ボジョレー
葡萄品種ガメイ主体ガメイ主体
味わいフレッシュで軽やか、カジュアル果実味はしっかり、奥行きと複雑さあり
熟成若飲み中心熟成可能、複雑なアロマ
価格帯手頃中〜高級
ボジョレー・ヌーヴォーフルーリ、モルゴン、ムーラン・ア・ヴァン

ボジョレー・ヌーヴォー(Beaujolais Nouveau)とは

基本情報

  • ボジョレー地方で造られる若飲み赤ワインの代表格。
  • 毎年11月の第3木曜日に世界各地で解禁される、季節のワインとして有名。
  • ガメイ種主体で、軽やかでフルーティー、タンニンは控えめ。
  • 発酵期間が短いため、フレッシュで明るい果実味が特徴。

特徴

  • 色:明るいルビー〜チェリー色
  • 香り:赤い果実(イチゴ、ラズベリー、チェリー)、軽いスミレや花の香り
  • 味わい:酸味が爽やかで柔らかく、フルーティーで飲みやすい
  • 飲み方:冷やして軽食と、あるいはグラス1杯で楽しむのに最適
  • 熟成:基本的には若飲み向けで、数か月〜1年以内に消費する

ボジョレー・ヌーヴォーの文化的背景

  • 産地の農家が「その年の葡萄を祝うワイン」として造り、フレッシュさを売りにした伝統が起源。
  • 世界中で解禁日イベントが行われ、“ワインの祭り”として親しまれる。
  • カジュアルで、日常の食卓に寄り添う存在感があり、ボジョレー全体の「親しみやすさ」を象徴している。

ドメーヌ シニャール フルーリ

フルーリのトップ生産者のひとつです。セドッリクが4代目となるシニャール家は、まったくの家族経営の生産者で、細部にこだわり、品質を重要視しています。

「高樹齢のため、とても小さな葡萄しか実りません」  畑は、ムーラン ナ ヴァンに近いル ポワン デュ ジュールに位置します。目の前にソーヌ川が流れる、南から南東向きの丘にあり、標高は270mです。土壌はとても貧しく、植密度は高くしています。表面の土壌は砂質の花崗岩、下層は花崗岩となっています。雑草はワインのバランスを崩すため、生やしていません。仕立てはゴブレを採用しています。気候は大陸性気候。夏は短くて暑く、冬は長くて寒くなります。年間の日照は1,900時間、降雨量は800mmです。植密度は10,000本/haで、高樹齢の樹でもあることから、とても小さな葡萄の房しか実らず、高品質となります。そのため、グリーン ハーベストもしません。小さい葡萄の実は、果汁に対して果皮の比率が高く、より凝縮度が高くなります。収穫は手で行い、収穫の際と、ドメーヌに着いてからの2度選別します。除梗はせず、マセラシオン カルボニックを行います。天然酵母を使用します。発酵はタンクを使い、28度で行います。醸しの間ルモンタージュを行い、ピジャージュは数回行います。瓶詰の1ヶ月前に、異なる樽のワインをタンクに入れ、ブレンドします。ろ過も清澄もしません。

現在のこだわりは、新しい葡萄樹に植え替えないことで、それによって収穫量を減らし、品質を高めています。

「国内のトップレストランで使用」  生産量の内70%が国内向けに販売されて、レストランでも多く使われています。

<評価>

ヒュー ジョンソン「ポケットワインブック2018」に優良生産者として掲載。ロバート パーカー Jr.「ブルゴーニュ」で4ッ星、「パーカーズ ワイン バーゲン」に掲載。「ギド アシェット」「ワイン アドヴォケイト」「メイユール ヴァン」「デカンター」などに掲載。「ラ ルヴュ ド ヴァン ド フランス」で、『そのアロマは、偉大なシャンボール ミュジニーを思い起こさせる』と評されています。

「ミシェル・シニャールは、フルーリーで最も巧みな造り手であり、ブドウが育つ花崗岩質の砂岩土壌を正確にワインに写し取ることにより、このクリュに特有の名高い花のアロマを、ものの見事に掴み取る術を心得ている。クリュの中でも最高のテロワールの一つであるモリエからのキュヴェでは、力強さと優美さが結び付いている。「キュヴェ・スペシアル」は、樽発酵が完全にコントロールされた、比類ないキュヴェの一つ。」  

 ベタンヌ&ドゥソーヴ「フランスワイン格付け」

Domaine Cynar Fleurie(ドメーヌ・シニャール・フルーリ)は、フランス南部ボージョレ地方の丘陵に佇むクリュ(特級)ワイン。軽やかで花の香りをまといながら、その奥にかすかな苦味と沈黙を秘めている。

ざっくり解説 ボジョレーについて

・ボジョレーは地区の名前

・ヌーボー(nouveau)はフランス語で「新しい」という意味

・ボジョレーヌーボーは「ボジョレーの新酒」という意味になる

・赤はガメイというぶどうを使う(白はシャルドネ)

・ボジョレーヌーボーはマセラシオン・カルボニックという独特の醸造方法で造られる。

・マセラシオン・カルボニックとは、ぶどうの房ごとタンクに入れて、二酸化炭素(CO₂)で発酵させる方法。こうすると果実の中で発酵が進み、フルーティーで軽い味わいになる。

・ガメイはピノノワールにくらべると二流品種というイメージもあるが、クリュ・ド・ボジョレーのようにエレガントなワインにもなる

・ボジョレーヌーボーが日本で盛り上がった理由は?

  • 「世界最速」のプレミア感
    • ボジョレーヌーボーの解禁日は、毎年11月の第3木曜日午前0時と世界共通で定められている。
    • 日本はフランスと約8時間の時差があるため、主要先進国の中で最も早く解禁時間を迎える。この「世界で一番早く飲める」という特別感が、日本の消費者の関心を強く惹きつけた。
  • 季節のイベントとしての定着
    • 日本では、季節の移り変わりや「旬」のものを楽しむ文化が根付いていいる。毎年この時期だけの特別なイベントとして、巧みなマーケティングによってワインが好きな層以外にも広くアピールされた。
  • 流通・マーケティング戦略
    • 1980年代後半のバブル期に日本に上陸して以降、輸入業者や販売店が大々的なキャンペーンを展開した。航空便で空輸し、解禁日ちょうどに店頭に並べるという手法が、話題性を高めた。

・世界各地でヌーボー(新酒)はある

  • フランス(ボージョレ・ヌーヴォー): 最も有名で、毎年11月の第3木曜日に解禁される。フランス国内の他の地域でも「プリムール」と呼ばれる新酒がある。
  • イタリア(ヴィーノ・ノヴェッロ): イタリア全土で造られており、毎年10月30日に解禁。これはヨーロッパで最も早く解禁される新酒の一つ。
  • オーストリア(ホイリゲ): ウィーン近郊などで造られる新酒の白ワインで、居酒屋を指す言葉としても使われる。
  • スペイン(ヴィーノ・ヌエヴォ): スペインでも新酒のワインが楽しまれる。
  • 日本(日本酒・ワインなど)
    • 日本酒: 一般的に秋から冬にかけて収穫された米で造られ、冬に「新酒」「しぼりたて」「初しぼり」として出回る。
    • 日本ワイン: ボージョレ・ヌーヴォーと同じく秋にブドウが収穫されるため、11月3日の「山梨ヌーボーまつり」のように、国産ワインの新酒も販売される。

実践 色を見る

実践 香りを取る

実践 味わう


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