うどんについて考えた
福岡といえば? 豚骨ラーメン、もつ鍋、明太子。これは県外から来た僕も含めた一般のイメージ。実際はどうなのか? 福岡の人に聞いてみると、「あと、うどんね」と言われることが多い。なるほど、街を歩いていると、確かにうどん屋をよく見かける。
うどんは好きだ。好物といってもいい。新橋、汐留エリアで働いていた頃はよく丸亀製麺でランチをしたし、自分でもよく作る。
これは行かなければならない。うどん愛と、福岡を知るという使命感に突き動かされた僕は天神にある「ウエスト」に行った。ランチタイムだったから人が並んでいた。
そもそも天神は人が多い。通行人はひっきりなしに歩いているし、スーツケースを転がす旅行者の姿もちらほら見かける。
道路を挟んだ反対側には、カメラを担いだメディアの連中がビルの前にたまっている(この日はミーナがオープンした日だった)。僕はビートルズの「ノーウェアマン(邦題ひとりぼっちのあいつ)」を頭の中で再生して順番が来るのを待った。
しばらくすると席が空いて、店員に「相席でもいいですか?」と声をかけられた。「はい」と答えると、スーツを着たビジネスウーマンと同席にされた。
こっちは相席でもいいけど、向こうは……と一瞬思ったが、ビジネスウーマンは僕のことなんて気にしていない。自意識過剰、俺は風景……壁の花……。
気持ちをうどんモードに切り替えた僕は、メニューを見るよりも先に、店に独自のルールがないかを探るため、彼女が注文するところを観察することにした。店員が水を持ってくる。メニューを告げる。以上。「カタ」も、「やわ」も、ややこしい呪文の詠唱も無し。それならば、とメニューを開き、上から順に写真を目で追っていく。下まで見た後、もう一度、上から下へ。そうしてるうちに、ビジネスウーマンの席にうどんが運ばれてくる。彼女がうどんを啜り始めたとき、店員を呼んで「一番人気」と書かれたかき揚げ丼とうどんのセットを注文した。
ビジネスウーマンがせっせとうどんをを吸い上げ、その量が半分くらいになった頃、注文した料理が現れた。
まずは透き通ったスープをレンゲに掬って飲む。うまい。優しい。次は麺だ。箸でつかんで口に運ぶ。
「ん?」
もう一度、麺を食べる。
「ん?」
僕は顔を上げて周りを見渡した。合ってる? と思った。合ってるに決まってる。誰も僕みたいにきょろきょろせず、自分の丼と向かい合っている。
不思議、と思った僕の脳は、命じられるままに麺をかきこんだ。
うどんを食べ終え、店を出た僕は、街を彷徨いながら今食べたものについて考えた。病院で出されるうどんよりも柔らかい麺と、元旦の朝のように澄んだスープ。うまかった。うまかったはずだ。まだ確信を持って「うまい」と言えない僕は、この気持ちを棚上げにすることにした。
この時の僕はまだ福岡うどんライフのスタートラインに立ったに過ぎなかった。今では資さんうどんのぼた餅が最高だということを知っているし、牧のうどんの麺がスープを吸い続けるから食べても量が減らないということを知っている(別添えで出てくるスープ最高)。
追記:その後、ウエストで天ぷらをつまみながらビールを飲み、シメにうどんを食べる技も覚えた。あと、めんちゃんこ亭でダラダラ飲むのも楽しいということも知った。
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