二十年以上東京に住んでいた僕が福岡に移住して考えたいくつかのこと ②ソフトについて考えた 我妻許史

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ソフトについて考えた

 晩飯前によく冷えたビールと冷奴で一杯。できれば瓶ビールがいい。季節は夏の終わり、BGMはセミとナイター中継。豆腐はつるんと喉をすべり落ち、苦いビールが食欲に火をつける。夏の楽しみの一つである。
 豆腐が好きだ。そのまま食べるのも好きだし、味噌汁の具にしてもいい。麻婆豆腐では主役になるし、居酒屋で揚げ出し豆腐があると必ず注文する。肉豆腐はごちそうだし、冬に食べる湯豆腐も最高だ。
 木綿よりも絹が好きだ。絹は良い。噛んだ瞬間に崩れていくあの歯応えの無さ、食べ終わった後の余韻、麻婆豆腐であっても僕は頑なに絹を使う。
 福岡に来たばかりの頃、ハロデーに買い物に出かけた僕は、見慣れないパッケージの豆腐があることに気づいた。見た目は普通のパック豆腐。でも、フィルムには「ソフト」の文字がある。
 後日、知人に「ソフトって何?」と聞くと、「ああ、あるねー」とか「ちょっと柔らかいんだよ」などと、要領を得ない。誰も答えられないソフトの謎を解き明かすため、僕はソフトを買ってみることにした。
 食べてみると、たしかに柔らかい。ほとんど絹といってもいいような食感だ。味は、普通(まあ、豆腐だからね)。硬さも絹と変わらないような気がしたけれど、味噌汁の具にしたときに、絹ほどポロポロと崩れなかった。
 ネットでソフト豆腐を調べると、「木綿豆腐の工程中、余り崩しを行わないで、かつ、圧搾を少なくし、「ゆ」を余り取らないで仕上げた豆腐です。木綿豆腐と絹ごし豆腐の中間の軟らかさと滑らかさをもち、木綿豆腐同様のしっかりとした特徴があります」とある。
 なるほど、専門的なことはわからないけれど、要は木綿豆腐ほどには固めずに作った豆腐ということだ。
 それにしても、福岡県民の硬さに対するこだわりよ……。福岡には「カタ」もあるし「やわ」もあり、「ソフト」もある。

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