第三回『サブテレニアン・ホームシック・ブルース』
東京は駅単位で文化が異なる。総武線西側においてそれは顕著で、荻窪、阿佐ヶ谷、高円寺、中野とたいした距離じゃないのに、一駅違うだけで街が持つムードやカラーがけっこう変わる。長く杉並に住んでいると、異口同音的にそんな声が聞こえてくる。まあ、よそから見たら、レスポールの種類ぐらいの差(カスタム? スペシャル? ジュニア? うーんわからん。けど、所有者にとってはけっこうな差)しかないのかもしれないけどね。
俺自身も阿佐ヶ谷を歩いているときは阿佐ヶ谷の顏になっている気がするし、高円寺を歩いているときは高円寺の顏になっていると思う。それってどんな顔だよ? と聞かれたら答えるのは難しいけど……。ブリット・ポップで例えるなら阿佐ヶ谷はブラーで、高円寺はオアシスな感じ。ドレスアップした阿佐ヶ谷に、剥き出しの高円寺。つまりどっちも最高だ。……(もう一度言います)つまりどっちも最高だ!
バンド練習を終えてスタジオを出る。ここは阿佐ヶ谷と荻窪の中間地点。どちらの文化圏からも離れた中立地帯だ。頭をZeroにして俺たちはダラダラと日大二高通りを歩く。
「日大二高通りってことはさ、この通りのどこかに日大二高があるのかな?」
「さあ」
「日大一高もあるのかな?」
「さあ」
いつか調べようと思うんだけど、結局忘れてしまうんだろうな。飲み干したマウンテンデューを空き缶入れに捨てる。「マウンテンデューってどういう意味? デュー山って山があるわけ?」「さあ」
メンバーと別れて西荻窪駅の改札を出る。多分俺は今、リラックスした表情で歩いているだろう。古い曲が頭の中で流れ出す。
「指導者に従うな、パーキング・メーターから目を離すな」
暗いけれど視界良好。俺は帰ってきた。時計を見ると今日が昨日に変わっている。うん、まだ夜は冷えるね。
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